地球連邦
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
横浜港。夜の帳が降りた埠頭に、巨大な白い船体が浮かんでいた。「アストラル・クイーン」。魔界と人間界の有力者が共同で所有する超高級客船だ。武威と蔵馬は、最上級スイートを予約していた。本来はただの新婚旅行のはずだった。ブリッジに呼ばれた二人に、船長が一枚の海図を広げる。
本文
横浜港。夜の帳が降りた埠頭に、巨大な白い船体が浮かんでいた。「アストラル・クイーン」。魔界と人間界の有力者が共同で所有する超高級客船だ。
武威と蔵馬は、最上級スイートを予約していた。本来はただの新婚旅行のはずだった。
ブリッジに呼ばれた二人に、船長が一枚の海図を広げる。
「実は今回の南米寄港は偶然じゃない。君たちに頼みたい仕事がある。『なぜ機動戦士ガンダムの地球連邦は南米に本部を置いたのか』、その謎を解いてほしい」
蔵馬が首をかしげる。
「ガンダムのジャブローですよね?ブラジルのアマゾンにある、連邦軍の本部」
「そうだ。常識的に考えればおかしい。海軍が強かった連邦が、なぜ海を捨ててジャングルの中に籠もった? その答えが、南米にある」
船は大西洋を越え、ブエノスアイレスのラプラタ川河口に入った。
ブエノスアイレス港湾管理局
二人は港湾管理局の古い煉瓦造りの建物へ向かう。蔵馬は植物製のワンピース『蔵馬装』、武威はスーツ姿だ。
受付の老女は言う。
「ジャブローの記録? 公式記録は70年代の大洪水で流されてしまったわ」
だが蔵馬は、机の上の観葉植物にそっと触れる。妖力で植物と対話する。
(……この子が言ってる。記録は流されてない。地下の“第3書庫”に隠されたって)
武威は老女に交渉し、10分だけ地下書庫に入る許可を得る。
埃まみれの書庫の奥に、『JABURO PROJECT - LOGISTICS 0079』と書かれたファイルがあった。中には設計図ではなく、一通の手紙が入っていた。
> 親愛なる連邦議会議長へ
> ジャブローを南米に作る本当の理由は、軍事ではない。南米の先住民の伝承に「大地が空を拒む場所」がある。その場所は、宇宙からの感応波を遮断する。この秘密を守るため、私たちは海を捨て、森に籠もるのだ。
つまり、ブエノスアイレスはジャブローへの“裏口”だったのだ。表向きはジャングルで隠すため、というのが軍事的合理性だが、裏ではブエノスアイレスの港からアマゾン川水系を使って、こっそり資材を運び込んでいた。これが「なぜ南米か」の第一の答え。
その時、書庫の奥から足音がする。港の無法者たちが、管理局の人間を装って近づいてきていた。
武威が蔵馬の前に立つが、蔵馬は頷く。
「二人で。私たちの“解決力”でしょ?」
蔵馬の手から小さな蔦が伸び、古い書類棚を支える。武威が棚を倒し、敵の進路を塞ぐ。その隙に二人はファイルを持って裏口から脱出。桟橋では船長が小舟で待っていた。
アマゾン、そしてジャブローへ
アストラル・クイーンはアマゾン川を遡上する。巨大な客船がジャングルの川を進む姿は異様だったが、この船の船底は連邦軍の揚陸艦と同じ構造なのだ。
甲板で蔵馬が川面に手をかざす。
「……この川、悲しんでいるわ。昔、たくさんの人がここで“空に帰れなくなった”って」
地図にない座標。霧が晴れると、巨大な岩山が現れた。表面が滑らかに削られた、ジャブロー跡地だった。
苔むした巨大なハッチから中に入ると、そこは巨大な空洞だった。モビルスーツ格納庫の跡だが、残骸は一つもない。代わりに壁一面に、空から落ちてくる光の柱を大地が両手で受け止めている壁画が描かれていた。
蔵馬が壁画に触れた瞬間、妖力が反応する。
「違うわ、武威。これは兵器の記録じゃない。祈りの場所よ」
蔵馬の脳裏に、植物たちが伝えてきた真実が流れ込む。
最後の答え
なぜ地球連邦は南米に本部を置いたのか?
軍事的には「ジャングルで隠せるから」。
だが裏の真実は、この場所が古代から「星の力を大地に返す」聖地だったからだ。連邦の初代議長は、この伝承を知り、宇宙戦争で疲弊した人類の魂を、大地が癒してくれると信じて、ここに本部を置いた。だからジャブローは、何度場所がバレても決して陥落しなかった。兵士たちが信じていたのは、要塞の厚さではなく、この大地そのものだったのだ。
武威は静かに蔵馬の手を握る。
「お前が伏見稲荷から来たのと、同じだな。場所に力が宿る、ということか」
「ええ。だから私も、ここでは安心できる。任務じゃなくて、ただのレオナとして」
その時、遺跡の奥から風が吹き、アストラル・クイーンの汽笛が二人を呼んだ。
船長からの無線だ。
「早く戻れ! この遺跡は満潮になるとまた水没する!」
二人は顔を見合わせ、笑い合って走り出す。
こうして、横浜から始まった新婚旅行は、ガンダムの歴史の裏側を巡る大冒険へと変わったのだった。船は再びアマゾン川を下り、太平洋へ向けて舵を切る。
次の寄港地では、また新たな謎が待っている。
〈南米編・完〉