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第三十一話 出場者たち

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/6 📚 シリーズ: Reincarnation -Record of memories- 📝 6,457文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

遺した記録、貴方の記憶、その手で全て解き明かして。

本文

ヴァルキリートーナメントの正式な開催告知は、三国にすぐ広まった。

シェイン王国。

ベイル王国。

テリア王国。

三国の力を競う、戦乙女たちの祭典。

リトルヴァルキリーたちの大会とは違う。

出場するのは、各国の正式なヴァルキリー。

国の戦力そのもの。

戦術、魔法、武器、経験、誇り。

それらが真正面からぶつかる。

そして今回、その大会に一つだけ異例が加わった。

シェイン王国代表に、ヴァルキリーではない男、トーマが特別招待枠として加わる。

その知らせは、静かに、しかし確実に波紋を広げた。

⸻

シェイン王国の会議室。

机の上には、テリア王国から届いた大会規定書が広げられていた。

ロイドが読み上げる。

「今回のヴァルキリートーナメントは、三国対抗・単騎四番勝負形式で実施されます」

レナが腕を組む。

「四番勝負!」

ミアが横で目を輝かせる。

「なんかかっこいいな!」

ユナが静かに言う。

「ミアは出ない」

「分かってる! でも言いたい!」

ノアはトーマの隣で資料を覗き込んでいた。

ロイドは続ける。

「各国は四名を代表として選出。他国二国それぞれと、四試合ずつ単騎戦を行います。一試合ごとに勝利国へ一点。最終合計点で順位を決定」

トーマが指を折って数える。

「シェインはベイルと四試合、テリアと四試合。合計八試合か」

「はい」

「全部で十二試合?」

「その通りです」

ロイドは頷いた。

「なお、殺害は禁止。戦闘不能、降参、場外、審判判断による試合停止で決着します。相手の命に関わる過度な攻撃は反則。女王参戦試合は出力制限あり」

レナが少し不満そうに言う。

「女王たちも制限されるのか?」

「当然です。無制限なら会場が残りません」

ソルが静かに頷く。

「妥当だな」

トーマは少し顔をしかめる。

「女王が制限されても、強いんだよな?」

ロイドは眼鏡を押し上げた。

「もちろんです」

「もちろんか……」

レナが明るく言う。

「大丈夫だ、トーマ! 吹っ飛ばされても起きればいい!」

「助言がベイル寄りだな」

ユナがぽつりと言う。

「起きられたら、の話」

「怖いこと言うな」

ノアが心配そうにトーマを見る。

「本当に大丈夫?」

「大丈夫とは言い切れない」

トーマは正直に答えた。

「でも、出るって決めた」

ノアは少し不安そうにしながらも、頷いた。

「うん」

ロイドが資料をめくる。

「そしてシェイン王国代表ですが、正式に以下の四名で提出します」

室内が静まる。

「一人目、ロイド」

ミアが小声で言う。

「自分で自分を発表するの、ちょっと面白いな」

ユナが小声で返す。

「静かに」

ロイドは聞こえていたが無視した。

「二人目、レナ」

「おう!」

レナが拳を上げる。

「三人目、ソル」

ソルは静かに頷く。

「四人目、特別招待枠としてトーマ」

トーマは息を吸った。

その名前が正式に読み上げられた瞬間、胸の奥に少しだけ重みが乗る。

特別枠。

ヴァルキリーではない。

記憶もない。

忘却の剣の持ち主。

地下闘技場で暴走した男。

その自分が、三国の戦乙女たちが集う大会に立つ。

「……俺、本当に場違いじゃないか?」

思わず呟いた。

すると、レナが即答する。

「場違いなら、場に慣れればいい!」

ミアも頷く。

「そうだぞ! 最初は誰でも場違いだ!」

ユナが補足する。

「ミアはだいたいどこでも場違い」

「なんでだ!」

ノアは少し笑ってから、トーマを見た。

「でも、トーマが出る意味はあると思う」

「意味?」

「負けても構わないって、テリア女王は言ってくれた。でも、出なかったら負けることもできないから」

その言葉は不思議と胸に落ちた。

勝つために出る。

負けるために出る。

そのどちらでもない。

戦うことで、自分を知るために出る。

トーマは頷いた。

「そうだな」

ソルが言う。

「ただし、忘却の剣の使用は禁止だ」

「分かってる」

「大会中に剣の名を呼ぶことも禁止だ」

「そんなことするつもりはない」

「ならいい」

ソルの声は静かだったが、重みがあった。

地下闘技場のことを、誰も忘れていない。

だからこそ、忘却の剣は封印室に置いたまま。

トーマは大会用の短棒と、木剣に近い非殺傷武器で戦うことになる。

ロイドは次の資料を出した。

「そして、各国の代表も発表されました」

レナの目が輝く。

「誰だ!」

「ベイル王国代表。リン、ガーネ、ベイル女王、そして新たに一名」

トーマが反応する。

「新たに一名?」

「はい。名はカノン」

ロイドは資料を読み上げる。

「ベイル王国ヴァルキリー。大型弩と投擲槍を使う中距離戦闘型。粗暴なベイル勢の中では比較的冷静ですが、戦闘になると相手の逃げ場を潰すことを好むとのこと」

レナが腕を組む。

「中距離か。面倒そうだな!」

「あなたは突っ込みすぎるので、特に相性が悪いでしょうね」

「なら突っ込み方を変える!」

「よい判断です」

「褒められた!」

ロイドは続ける。

「テリア王国代表。アリス、ロイ、テリア女王、そして新たに一名」

ノアが聞く。

「誰ですか?」

「名はイリス」

ロイドは資料を見る。

「テリア王国ヴァルキリー。幻惑魔法と反射結界を使う防御反撃型。攻撃を受け流し、相手の認識をずらす戦法を得意とするそうです」

トーマは顔をしかめた。

「認識をずらす……」

ロイドがすぐに言う。

「記録喰いとは別系統です。ですが、あなたにとっては注意が必要な相手ですね」

ソルが頷く。

「イリスとは以前一度だけ見たことがある。厄介だ」

「ソルがそう言うなら相当だな」

「殺傷力は高くない。だが、勝ち筋を消してくる」

ミアが首を傾げる。

「勝ち筋を消す?」

ユナが説明する。

「攻めようとした時には、もう別の場所を見ている。そういう相手かも」

「うわ、やだな!」

レナが大きく頷く。

「正面から来てくれた方が分かりやすい!」

ロイドが静かに言う。

「大会では分かりやすい相手ばかりではありません」

その言葉に、トーマは資料へ視線を落とした。

各国代表。

シェイン。

ベイル。

テリア。

すべてが揃った。

大会が近づいている。

⸻

その日の午後から、特訓はさらに実戦寄りになった。

ロイドは試合形式の訓練を組んだ。

「本番では、相手ごとに戦い方を変える必要があります。勝てる相手と、勝ちに行ってはいけない相手を見極めること」

トーマは短棒を構えた。

「勝ちに行ってはいけない相手?」

「はい。たとえば女王戦です」

「最初から言い切ったな」

「勝てる可能性が低すぎます」

レナが横で言う。

「でも諦めるのはよくないぞ!」

「諦めるのと、勝利条件を変えることは違います」

ロイドは地面に線を引いた。

「トーマ、あなたが女王級と当たった場合の目的は勝利ではありません」

「じゃあ何だ?」

「一つ、自分の名前を失わないこと。二つ、降参の判断を自分で行うこと。三つ、相手の強さを受け取り、次へ持ち帰ること」

トーマは黙る。

降参。

その言葉は少し重かった。

負けることよりも、自分から負けを認めることの方が難しい。

「降参するのも訓練か」

「はい」

ロイドははっきり答えた。

「地下闘技場でのあなたは、限界を超えても止まれませんでした。剣に痛みを忘れさせられ、損傷を無視して動き続けた。だからこそ、今のあなたには“止まる訓練”が必要です」

ソルも頷く。

「戦い続ける強さと、止まる強さは違う」

トーマは短棒を握る手に力を込めた。

「分かった」

レナが元気よく言う。

「つまり、止まる練習だな!」

「はい。あなたにも必要です」

「私も!?」

「あなたは特に」

レナは衝撃を受けたような顔をした。

ミアが小声で笑う。

「レナさんも止まれないんだな」

ユナが言う。

「ミアも」

「私も!?」

「かなり」

ノアは少し笑った。

その笑いに、トーマも少しだけ肩の力が抜ける。

大会に向けた訓練は厳しい。

でも、どこか温かい。

一人で追い詰められているのではない。

皆で準備している。

それが分かるだけで、怖さは少し形を変える。

⸻

同じ頃、ベイル王国。

訓練場の中央では、ベイル女王が巨大な盾を構え、豪快に笑っていた。

「もっと来い! その程度では大会で恥をかくぞ!」

目の前では、ガーネが大斧の代わりに新調された巨大戦槌を振るっていた。

地下闘技場で大斧が破損したため、修復中の間は戦槌を使っている。

それでも十分に恐ろしい。

ガーネの一撃が地面を砕く。

ベイル女王は盾で受け止め、光の剣で弾き返す。

「重くなったな、ガーネ!」

「もっと重くする」

「よい!」

少し離れた場所で、リンが新しいチャクラムを調整している。

以前より薄く、鋭く、魔力の通りが良い。

「今度は忘却に触れられても、そう簡単には消えないようにしたいですねぇ」

隣で、カノンが大型弩を整備していた。

短い髪を後ろでまとめ、片目に照準用の魔道具をかけている。

彼女は静かに言った。

「大会相手は忘却の剣じゃないでしょ」

リンは微笑む。

「ですが、あの男の周囲には厄介ごとが集まりますから」

「トーマ?」

「ええ」

カノンは弩の弦を引き、試し撃ちをする。

魔力矢が訓練場の的を貫いた。

「噂は聞いてる。空から落ちてきて、地下闘技場で暴走して、レッドフラッグスまで出てきた男」

「随分端的ですねぇ」

「面倒そう」

「面倒ですよ」

「なら、当たったら早く終わらせる」

リンはくすりと笑った。

「その方が彼のためかもしれませんねぇ」

カノンは首を傾げる。

「優しいの?」

「半分だけ」

「半分は?」

「興味です」

ベイル女王の笑い声が響く。

「トーマか! あの小僧、我と当たるなら全力で受け止めてやろう!」

カノンが淡々と言う。

「女王陛下が受け止めると、普通は潰れます」

「加減する!」

リンが微笑む。

「本当に?」

ベイル女王は堂々と言った。

「努力する!」

カノンは小さく呟く。

「駄目そう」

ガーネが頷く。

「駄目かも」

ベイル女王はなぜか嬉しそうに笑った。

「よい! 心配されるのも王の器よ!」

「それは違うと思いますねぇ」

ベイル王国の訓練場は、今日も騒がしかった。

⸻

テリア王国では、少し違った空気が流れていた。

研究塔の中庭。

アリスは魔法陣を展開し、複数の属性魔法を同時に操っていた。

炎、水、雷、風。

それらが輪を描き、互いに干渉しないように流れている。

「大会だからって、変に張り切る必要はないんだけどね」

そう言いながらも、魔法の精度は普段より高い。

ロイは中庭の影の中から現れた。

「張り切ってる」

アリスは顔を赤くする。

「張り切ってないわよ」

「してる」

「してない」

「トーマ出るから?」

「何でそこでトーマなのよ!」

「地下で戻った」

ロイは短く言う。

「見たいんでしょ。今度は壊れてないトーマ」

アリスは一瞬言葉に詰まった。

それから、ふんと顔を逸らす。

「……ただ、危なっかしいから見ておく必要があるだけよ」

「それを気にしてると言う」

「ロイ、最近ちょっと喋るようになって面倒になったわね」

「うん」

「褒めてない!」

そこへ、イリスが現れた。

銀色に近い薄紫の髪を持つ、穏やかな表情のヴァルキリー。

彼女はゆっくりと礼をする。

「アリス様、ロイ様。大会の訓練ですか?」

アリスは腕を組む。

「まあね。イリス、あなたも出るんでしょ」

「はい。女王陛下から命を受けましたので」

イリスは柔らかく微笑む。

だが、その周囲には薄い鏡のような結界が浮かんでいた。

彼女の姿が、わずかに揺れて見える。

正面にいるはずなのに、半歩ずれているような感覚。

ロイが短く言う。

「相変わらず見づらい」

イリスは微笑んだ。

「ありがとうございます」

アリスが呆れる。

「それ褒め言葉なの?」

「私にとっては」

イリスは大会名簿を見る。

「トーマ様も出場なさるのですね」

「気になる?」

アリスが聞く。

「はい。忘却の剣から戻られた方。どのような心をお持ちなのか、少し」

「あなた、戦うときは優しそうな顔でえげつないことするから嫌なのよね」

イリスは困ったように微笑む。

「えげつないなど。私はただ、相手の攻撃したい場所を少しずらしているだけです」

ロイが言う。

「えげつない」

「ロイ様まで」

その時、中庭の上空に青白い魔法陣が広がった。

テリア女王の声が響く。

「皆、準備は進んでおるようじゃな」

アリスが上を見る。

「女王様も出るんでしょ? あなたこそ加減を覚えたの?」

「今回は出力制限があるからのう」

「制限があっても壊すでしょ」

「努力する」

アリスは額を押さえる。

「どこの女王も努力するって言えば済むと思ってるのかしら」

ロイが短く言う。

「済まない」

「そうよね」

テリア女王は楽しそうに笑った。

「トーマも出る。ソルも出る。ベイル女王も出る。なかなか賑やかな大会になりそうじゃ」

アリスは少しだけ不安そうに言う。

「賑やかで済めばいいけど」

テリア女王の声が少し低くなる。

「記録喰いの件もある。警戒は怠らぬ。じゃが、だからといって戦いの場を閉じるわけにもいかぬ」

ロイが頷く。

「トーマには必要」

「うむ」

テリア女王は遠くを見るような声で言った。

「負けても構わぬ。じゃが、何も得ずに終わることは許さぬ」

⸻

数日後。

シェイン王国の訓練場では、模擬試合が行われることになった。

トーマの対戦相手は、レナ。

「私が相手だ!」

レナは木槍を構えていた。

普段の彼女なら突撃一択。

だが今日は違う。

ロイドに止まる訓練を受けているため、妙に真剣な顔をしている。

「今日は考えて戦うぞ」

トーマは短棒を構えた。

「レナが考えて……?」

「失礼だな!」

ユナが小声で言う。

「少し不安」

ミアも頷く。

「分かる」

ノアは二人を見ながら苦笑していた。

ロイドが合図を出す。

「開始」

レナは動かなかった。

トーマは驚く。

「来ないのか?」

「待つ!」

「レナが?」

「待つ!」

本当に待っている。

トーマは少しだけ困った。

レナは突っ込んでくるものだと思っていた。

なら、こちらから動くしかない。

トーマが一歩踏み込む。

その瞬間、レナが笑った。

「来たな!」

木槍が一気に伸びる。

速い。

待っていたのではない。

誘っていた。

トーマは短棒で受け流す。

ノアの受け流す膜を参考にした動き。

だが、レナの速度は予想以上だった。

二撃目がすぐに来る。

トーマは後退。

足元にミアが叫ぶ。

「トーマ、右!」

ユナがすぐに言う。

「違う、左」

「どっちだ!」

「左」

ユナの声に従い、トーマは左へ踏む。

レナの槍が右側を抜けた。

危ない。

だが避けた。

レナは嬉しそうに笑う。

「やるな!」

「レナもな!」

トーマは踏み込む。

短棒で槍の柄を叩き、間合いの内側へ入る。

だが、レナはそこからさらに速かった。

槍を捨てる。

拳。

「えっ」

トーマの反応が遅れる。

レナの拳が寸止めで胸の前に止まった。

ロイドが声を上げる。

「勝者、レナ」

トーマは息を吐いた。

「槍を捨てるのか」

レナは胸を張る。

「考えた!」

「本当に考えてる……」

ミアが驚く。

ユナが小さく拍手する。

「成長」

レナは満面の笑みを浮かべる。

トーマは少し悔しそうに笑った。

「負けた」

ノアが心配そうに見る。

「大丈夫?」

トーマは自分の胸に手を当てる。

負けた。

悔しい。

でも、沈まない。

名前はある。

「大丈夫だ」

ロイドが記録する。

「敗北後の精神状態、安定。良好です」

ソルが頷く。

「負け方としては悪くない」

トーマは苦笑する。

「負け方を褒められるのは不思議だな」

「これから慣れろ」

「慣れたくはない」

ロイドが淡々と言う。

「必要です」

トーマは空を見上げた。

負けても、世界は崩れない。

負けても、自分は消えない。

それを体で覚える。

テリア女王の言葉が、少しずつ意味を持ち始めていた。

⸻

大会前夜。

トーマは自室で、机に向かっていた。

今日の記録を書く。

レナに負けた。

悔しかった。

でも、怖くはなかった。

名前を失わなかった。

負けても、俺はトーマだった。

そう書いて、しばらく見つめる。

その時、窓の外で風が鳴った。

遠く、赤い布が揺れたような気がした。

トーマは立ち上がり、窓を開ける。

夜の城下が見える。

誰もいない。

紅い旗もない。

気のせいかもしれない。

だが、トーマは小さく呟いた。

「見てるのか、セイレン」

答えはない。

ただ、夜風が部屋に入ってくる。

その風の中に、ほんのかすかに声が混ざった気がした。

⸻負けなさい。

トーマは少し笑った。

「言われなくても、負けるかもしれない」

そして、窓の外へ向けて静かに続けた。

「でも、消えない」

夜は静かだった。

大会は、明日始まる。

戦乙女たちが集う舞台。

そこでトーマは初めて、忘却の剣ではなく、自分の名前だけを持って戦う。

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