黒魔女さんからお手紙ついた【16話】

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2025/11/21 📚 シリーズ: 黒魔女さんからお手紙ついた 📝 4,766文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

魔法学校入学のために金貨3億枚の借金を背負ったヴェロア

本文

【十六】

 うるさいほどに心臓の音が響く。それは確実にアリエスを急かしているのだった。

「もう、あのバカ、なに勝手なことしてんのよ! 待っててって言ったじゃない」

 そんな悪態をつきながらも、その小柄な身体をめいっぱい躍動させてアリエスは疾駆していた。

「ああ、もう、ホントもどかしい」

 店から学校までは、どんなに急いでも八分はかかる。というのも、首都マルグラードにおいて、魔法学校があるのは東の端。方やアリエスの店があるスラム街は、南西の端と全く真逆に位置していたからだった。

 マルグラートの街は、北側にランドマークとなる時計塔が存在し、そしてその塔に向かって南東と南西から目抜通りが延びている。休日の昼直前の街では、そのどちらも人々でごった返っているはず。なのでアリエスは、混雑する通りを避けつつも、最短距離で学校へと向かっていた。

 しかし通りを外れた路地にもあふれた人の姿があるのだった。

 はやる気持ちから渋面を作るアリエスだが、それでも小柄な身体を活かした華麗なステップですり抜けて行く。

「早まったことしてくれたわよね。まったく……」

 ジリつく陽射しを浴びて額ににじみ出す汗を拭いもせず、心を支配する焦燥を、愚痴をこぼすことでどうにかやりすごす。わずか数分前、アイリーシェから「特別指導の予定が入ったから、これから学校へいく」という旨の連絡を受けた。

 ことがことなだけに、自分が着くまで待っていろと言ったアリエスに対して「大丈夫だから」と、遠話鏡の向こうでアイリーシェは答えたのだった。

 そして一方的に遠話鏡が切られると、荒れる波のような胸騒ぎが、アリエスの心に押し寄せた。一刻を争う事態だと、必要な準備だけを手早く済ませ店を飛び出したのだった。

 人混みを避けてばかりいては、時計塔のさらに北を大きく迂回することになってしまう。もちろん今はそんな時間はないので、どこかで通りを横切る必要があった。アリエスは腹を決めると、目抜通りの方に舵をきる。

「よかった。そこまで混んでない」

 アリエスはそうこぼすが、あくまでそれは想定した最悪と比べてということで、決して人出がないということではない。人と人のわずかな隙間に身体をねじ込み、通りをどうにか横断すると、路地裏を通りすぐにもう一本の目抜通りに挑む。

 空気を震わせ時計塔の鐘が昼を告げると、大音響となって降りそそぐ。アリエスがいつも押し潰されてしまうのではないかと感じる時の音に、人々は足を止めて塔を見上げる。一日一回、昼の時だけは、周りの小さな鐘と連動してリズムを刻むので、それに聞き入る人も多いのだった。

「しめた! 今なら」

 急ぐアリエスは、思いの外すんなりと目抜通りを攻略できたことにホッと胸を撫で下ろした。しかし気持ちとは裏腹に、沼地に踏み入れてしまったかのように足は重く、思うように前に進んでいない気がしてならなかった。

「アイリーシェ…… 待ってなさいよ」

 無意識のうちに友の名前を口にする。人付き合いが苦手なひねくれ者の自分にとって、友達と呼べるのはアイリーシェ一人しかいない。アリエスは決して飾らない性格の彼女が好きだった。

 入学試験に落ちたアイリーシェは、どうにか金貨を支払って入学した。だからことある毎にそれを引き合いに出して「自分はバカだからさ」というのが彼女の口癖になっていた。

 ある時アイリーシェは、魔法を学んで自分の田舎で子供たちに基礎魔法を教えたいのだと、照れながら教えてくれた。魔法で出来ることの楽しさを教えたいのだと。

 学校の型にはまった授業では、様々な能力と可能性を持った生徒を、的確に伸ばすには向かないとアイリーシェは早い段階で悟っていたのだった。そのためには首席で成績のいいアリエスに教えてもらうのが一番だと言って、臆面もなく頭を下げて見せ、周囲を驚かせた。

 アリエスはそれまでのところ、他の生徒を内心バカにしていた節があった。それは態度にも如実に現れていて、めざとく感じ取った他の生徒たちからは、当然のことながら距離をおかれていた。

 しかしアリエスは、わずらわしい友達関係ならいらないと、そんな強気を装っていたのだった。

 完全なるはみ出し者の自分に対して迷うことなく頭を下げたアイリーシェに、魔法を学びたいという熱意に負けたという最もらしい理由をつけ、その申し出を渋々と言わんばかりに了承した。

 そう振る舞ってはいたが、本当のところは純粋に嬉しかった。

 それから早速『秘密特訓』という名の、魔法の手解きが始まると、アイリーシェは予想に反して驚くほどの早さで教えを吸収し、瞬く間に上達していったのだった。

 二人で秘密特訓をするようになってわかったのだが、アイリーシェの能力は決して低くはなかった。

 試験の時のような基礎魔法も初めは苦手としていたが、コツをつかむとそれもすぐにモノにした。また、魔力も比較的高い方で、基礎をマスターしてしまうと上のランクの魔法も苦にしないほどであった。

 とりわけその性格からか、精霊と同調する類いの魔法が得意だということがわかると、アイリーシェは得意満面に「あたしは精霊に好かれているのね」と口走った。

 だがなぜかそれが自慢に聞こえないのが、アイリーシェの人柄のなせる技なのだろうとアリエスは羨ましく思ったほどだった。

 それでもその後は、師である自分に向け言うに事欠いて「あなたとは違ってね。あなたの魔法がそっち寄りなのは、きっと性格のせいね」とのたもうたのだった。

 引っ張り出されたそんな思い出に、アリエスは息を切らせ、

「そうだった、思い出した! あのバカに文句言ってやるんだった。ガツンと言ってやるんだから、絶対、絶対に無事でいなさいよね」

 今度こそその時の怒りをぶつけてやろうと決めた。

 そう漏らした直後、突然細い路地から出てきた恰幅のいい年配の女性と出会い頭に衝突する。

 勢い飛ばされて尻もちをつくアリエス。身長一四〇センチにも満たないアリエスでは、その衝突において勝ち目などありはしないのだった。

「痛たた……」

「あらあらごめんなさいねぇ、大丈夫かしら?」

 大きな身体を小さくして、恐縮した様子でふっくらした手を差しのべる上品な身なりの女性。

 アリエスは瞬間的に「どこ見てんのよ! 大丈夫なわけないでしょ!」と怒鳴り付けかかったが、不意に頭にある言葉が浮かんできたのだった。

『ね、アリエス。みんながね、あんたの敵じゃないの。あんたはすごい能力を持っているけれど、でもそれだけじゃ生きてはいけないの。人間なんて弱いところがあって当たり前なんだから、弱さを見せるのは決して恥ずかしいことじゃないんだよ? それよりも、手を差しのべてくれる人が誰もいないことの方が、よっぽど恥ずかしいんだもん。もっと素直になりなよ。ね?』

 それはたった一人の、最も大切な友達がくれた最も大切な言葉だった。今はまだたった一人しかいない友達だけど、これからはもっと素直になって、友達もいっぱい作ろうと心に決めるきっかけになった一言。

 その友達が困っているのなら、自分が助けないでどうする。その友達を脅かす者がいるのなら、自分が力にならないでどうする。

 そんな考えがアリエスの頭に浮かんでくると、知らずのうちに涙が頬を伝ってこぼれ落ちていた。そんなアリエスの様子に、手を差し出した女性はギョっとした表情を浮かべて、急にオロオロとしだしたのだった。

「あらあら、どうしましょうか。怪我でもしたのかねぇ」

 言葉を右往左往させる女性に向けて、アリエスは笑顔を作ると、自分でも不思議なくらい柔らかな言葉をかけることができた。

「ううん、大丈夫。どこも怪我なんかしてないから」

「そうかい? そうかい? それはよかった」

「ワタシは、これから友達を助けに行かなきゃいけないの」

 なぜかそんな言葉が口をついて出た。

 さらなる驚きの表情を見せた女性は、その言葉の意味を理解するとふくよかな顔にいっぱいの笑顔を携えるのだった。

「そうかい、頑張ってね。何があっても諦めちゃいけないよ?」

 事情など全く知る由もない女性の優しい言葉が、今のアリエスには非常に嬉しく感じられた。

 女性の手を借りて立ち上がったアリエスは、尻についた埃をはらいながら「うん」と力強くうなづき返した。深々と一礼を送ると、すぐさま女性の脇を疾風の如く駆け抜ける。

 学校はもうすぐのところまで来たものの、肺が許容量を越えたのを理由に空気が送られてくるのを拒否しているかのようで、苦しくて苦しくてしかたがなかった。息苦しさと全身の疲れがピークに達した頃、ようやくその姿を視界に捉えることができた。

 校門の前にたどり着くと、そこに控える重厚な作りの門構えすらも、今はなぜか憎々しく思えてくる。

 ゼエゼエと漏れる呼吸をわずかでも整えようと、膝に両手をついてゆっくりと深呼吸を繰り返す。街の喧騒から外れた休日の学校は、思いの外静かだった。こんなにも不気味だと感じたのは初めてかも知れないなと、そんな考えまで浮かんでくる。

 ようやくその過剰な動きを終息させつつある心臓に呼応するように、次第に頭も明瞭としてくると、ふとある問題がアリエスの脳裏に湧き上がってくるのだった。

「しまった…… これじゃ学校のどこに呼び出されたのか、わからないじゃない」

 予想しなかった事態に、幼い顔立ちのアリエスの眉間には不釣り合いな、深いシワが刻まれる。

「特別指導って、どこでやってるのよ…… まったく、なんで重要なことを伝えないのよ。だから大雑把すぎだって、いつも言ってるじゃない」

 そんなひねた言葉を口にするも、脳内ではすぐさま解決手段を模索していた。

 目撃者を探そうにも、休みではそれは叶わない。しかも休日だからこそ、どこでそれを行ったとしても、目撃される心配がないということでもあった。そんな状況の中で探そうとすると、学校全体がとてつもなく大きく感じられるのだった。

「さすがにこれは、厄介な事態だと言わざるを得ないわね……」

 ギリリと爪を噛み思案を巡らせるアリエス。こうしている間にもアイリーシェがどんな目にあっているのか、悪い想像ばかりが膨らんで、その都度怒りと焦りが交互に込み上げてくる。

 いくら考えたところで出来ないことは出来ないのだから、自分の出来ることをする。そう腹を決めると、アリエスの目がすうっと据わった。

「上等じゃないのよ。このエルターナ・アリエス・ベルトーラを舐めないで欲しいわね」

 そう吐き捨ておもむろにポケットに手を突っ込むと、そこから左右の指の間に合計八本もの小さな動物の骨を取り出したのだった。

「ワタシの実力を…… 目にもの見せてくれるわよ」

 誰にというわけでもなく不敵な笑みを浮かべると、そんな台詞を口にする。

「エルターナ・アリエス・ベルトーラの名において命ずる。汝、闇より解放されて我が忠実な僕とならん!」

 そう宣すると、上空に向けて全ての骨を放り投げた。空気中に紫に光る粒子が現れると、導かれるようにそれらを包む。重力に従い放物線を描いて地面に達したときには、全てが大きさ十センチほどのスケルトンとなっていた。

 ちょろちょろと主を探し動くスケルトンは、アリエスの姿を見つけるとビシッと整列して見せる。大きくうなづいて、アリエスは下知する。

「アイリーシェ・セルトランを探し出せ。それと、魔法に関する精霊エナジーを感知せよ」

 すると小さなスケルトンたちはカタカタと乾いた音を漏らしながら、一斉に敬礼をしてよこす。そうして指令を理解した小さなしもべたちは、蜘蛛の子を散らすようにして学校内に消えたのだった。

「待ってて、アイリーシェ。今すぐ行くからね」

 決意に満ちた表情で、アリエスはそう呟いた。

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作者について

九十九沢 美勇

九十九沢 美勇

AIを利用して小説作品を作っています。 カクヨムにも投稿しています。

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