第3節「美容師、みのり」
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
《蒼真、神殿に立つ ― 異界の剣聖は、美しき仲間と共に》
本文
# ◆ 第1章「蒼の勇者、降り立つ」
## ――第3節「美容師、みのり」――
ギルドでの登録を終えた蒼真は、ひとまず街を一巡しながら情報を集めることにした。
温暖な陽気の中、街路を抜ける風が気持ち良い。露店の香辛料も、果物の甘い匂いも、どこか懐かしく感じるほどだ。
と、そのとき――。
「ひゃあっ!?」
細い悲鳴が路地裏から聞こえた。
蒼真は反射的に走り込む。
薄暗い路地の奥に、数人のチンピラ風の男が集まっていた。
その中央で、ひとりの少女が壁際に追い詰められている。
蒼真は息を呑んだ。
――日本人だ。
肩までの柔らかそうな栗色の髪。
大きく揺れる瞳は茶色で、怯えながらも真っ直ぐに男性たちを睨んでいる。
白いワンピースのような薄布の服が、街の気候に負けてか肩まで滑り落ちかけているのが、余計に危なっかしい。
「ちょっと、離してください……っ! 私、本当に何も――」
「いいから、ちょっと来てもらうだけだって。美人は高く売れるんだよ、なぁ?」
蒼真の中で、なにかが静かに切れた。
「――そこで何してる」
低い声でそう言うと、チンピラたちは一斉に振り向いた。
「なんだテメェは?」
「邪魔すんなよ旅人。今いいところなんだよ」
「……そうか」
蒼真は一歩前へ出る。
「なら――《蒼裂・ファストスラッシュ》」
蒼光が閃いた。
男たちの武器が粉々に砕け、腰が抜けたようにその場に崩れ落ちる。
「ひっ……あ、あんた何者だよ……!」
「悪人退治してるだけだ。二度と女に手を出すな」
蒼真が厳しい声で言うと、男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
残された少女は、その場にへたり込んでしまう。
蒼真はそっと手を差し出した。
「大丈夫か?」
少女はびくっと震えたあと、恐る恐る蒼真の手を取った。
「……あ、ありがとう……ございます。助けてくれて……」
蒼真は改めて少女の顔を見る。
それは、街の喧騒の中ではありえないほど“柔らかい雰囲気”をまとった美しさだった。
優しげな笑顔が似合いそうで、一生懸命な性格がにじみ出るような――そんな子。
「俺は三枝蒼真。日本人か?」
少女ははっとして、驚いたように頷いた。
「えっ……あなたも……? 私は……阿久津みのり。東京で……美容師の見習いしてました」
(……美容師?)
蒼真は目を見張る。
異世界に来て初めて出会った“仲間となる日本人女性”が、
まさに職業を活かせるタイプの子だった。
「ここにはどうやって?」
「気がついたらこの街にいて……声をかけてくれた人に案内されて……気づいたらあんなふうに……」
不安でいっぱいの声。
蒼真はみのりの肩にそっと手を置く。
「安心しろ。もう大丈夫だ。俺が守る」
みのりの頬が少し赤くなる。
救われたという安堵と――戸惑いを混ぜたような表情。
「……ありがとう、蒼真さん。すごく……心強いです」
蒼真は微かに笑った。
「よかったら、しばらく一緒に動かないか? 日本人同士だし、互いに助け合える」
みのりは大きく目を開き、すぐに嬉しそうに頷いた。
「お願いします……! 私、一人じゃ何もできなくて……」
(――決まりだな)
蒼真は胸の内で小さく頷く。
こうして、蒼真とみのりの“最初の出会い”が果たされた。
この日の出会いが、
のちに蒼真のハーレム冒険譚の大きな転機となることを、
ふたりはまだ知らなかった。
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