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4節 境界線のこちら側(終)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/15 📚 シリーズ: 共感性知能アプリNestTalk(ネストーク) 📝 1,272文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

ある刑事の叙事詩 《夜の王国 ~選択と調整の病理~》

本文

## 【第1章 失われた日常】

### 【4節 境界線のこちら側(終)】

 神田の夜は、思った以上に静かだった。

 古い雑居ビルが立ち並ぶ通り。飲食店の明かりはすでに落ち、路地にはエンジン音も、人の気配もない。足音だけが、やけに大きく響く。

「位置、まだ動いてます」

 朝霧がスマートフォンを確認しながら言う。

「ビルの中……上階です」

 小坂は立ち止まり、周囲を見渡した。

 この場所を選んだ理由。

 逃げ場の少なさ。

 視線の遮断。

 ――罠だ。

「焦るな」

「でも……」

「相手は、“追われる側”の動きを計算してる」

 朝霧は唇を噛み、頷いた。

 二人はビルの裏手に回り、非常階段を見つけた。鉄製の段を踏むたび、微かな軋みが夜気に溶ける。

 三階。

 四階。

 そのとき――

 上階から、低い悲鳴が落ちてきた。

「――っ!」

 朝霧が走り出そうとするのを、小坂が腕を掴んで止める。

「単独で行くな」

「でも、今の声……!」

「分かってる。だから――二人で行く」

 五階。

 扉は、半開きだった。

 中は、簡易的な事務所のような空間だった。古いデスク、積まれた段ボール、剥がれかけた壁紙。照明は一つだけが点いている。

 その中央に、男がいた。

 ――縛られている。

 椅子に座らされ、口元にはガムテープ。目は恐怖で見開かれ、必死に何かを訴えようとしている。

「警察だ!」

 小坂が叫ぶ。

 次の瞬間、照明が落ちた。

 暗闇。

 同時に、背後で風を切る音。

「伏せろ!」

 小坂が朝霧を突き飛ばした。

 金属音が、壁を叩く。

 ライトを点けると、床にナイフが転がっていた。

 ――投げた。

 犯人は、すでに“ここ”にいない。

「……逃げられた」

 朝霧の声が震える。

 小坂は、縛られた男に駆け寄り、ガムテープを剥がした。

「大丈夫ですか」

「た、助けて……あいつ、あいつは……」

 男は、震えながら指差した。

 デスクの上。

 そこに、一枚の紙が置かれている。

『裁くべき者は、裁かれなかった』

 小坂は、紙を手に取った。

 もう、偶然ではない。

 七年前の事件と、同じ匂い。

 ――同じ思想。

 犯人は、ずっと前からここにいる。

 警察が見逃し、

 社会が放置した“歪み”を、

 静かに数え続けてきた。

「小坂さん……」

 朝霧が、かすれた声で呼ぶ。

「これ、挑発ですよね」

「ああ」

 小坂は、紙を畳んだ。

「そして、宣言だ」

 犯人は告げている。

 次は、もう“未遂”では終わらせないと。

 パトカーのサイレンが、遠くから近づいてくる。

 助かった命。

 だが、失われなかっただけだ。

 この先に待つものは、もっと重い。

 小坂は、無意識に拳を握り締めていた。

 過去の後悔。

 今の責任。

 そして、これから選ばされる決断。

 正義は、境界線のこちら側にある。

 だが、一歩間違えれば、簡単に向こう側へ落ちる。

 朝霧は、助け出された男を見つめていた。

「……間に合いました」

「そうだな」

 小坂は答えた。

「だが、戦いは始まったばかりだ」

 犯人は、彼らを見ている。

 どこかで、必ず。

 その視線を受け止めながら、

 小坂凌は、静かに覚悟を固めた。

 ――今度こそ、見逃さない。

---

(第2章へ続く)

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冥界焔つむぎ

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