1節 正義の輪郭(終)
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ある刑事の叙事詩 《夜の王国 ~選択と調整の病理~》
本文
## 【第2章 捜査と疑念】
### 【1節 正義の輪郭(終)】
朝霧は歩きながら言った。
「それでも……殺される理由なんて、やっぱりありません」
「ない」
小坂は即答した。
「だが、犯人の法則に当てはめれば、彼らは“対象”になる」
「それが……悔しい」
朝霧は、唇を噛みしめた。
「警察がちゃんと動いていれば、あの人たちは――」
「朝霧」
小坂は、彼女を呼び止めた。
「もし、警察が完璧だったら、この犯人は生まれていない」
朝霧は、言葉を失う。
「それでも、俺たちは警察だ」
小坂の声は、低く、しかし揺るがなかった。
「完璧じゃなくても、やるしかない」
その瞬間、朝霧の中で、何かが音を立ててずれた。
「……小坂さんは」
「ん?」
「犯人の言ってること、少しだけ、分かるんじゃないですか」
それは、疑問ではなく、確認だった。
小坂は、立ち止まった。
「分かる、部分はある」
正直な答えだった。
「だが、理解することと、許すことは違う」
朝霧は、視線を逸らした。
「私は……分かりたくもない」
それが、彼女の正義だった。
◇
その夜。
小坂は、一人、資料室に残っていた。
七年前の事件。
連鎖自殺とされた五人。
残された、あの言葉。
『不要な部品を取り除く』
そして、今回の犯行声明。
『裁くべき者は、裁かれなかった』
言葉は違う。
だが、思想は、同じだ。
犯人は、進化している。
過去の失敗を踏まえ、より洗練された“正義”へ。
小坂は、確信した。
――この事件は、俺個人の問題だ。
そのとき、携帯が震えた。
“調整者”。
「……これ以上殺人を続けるのはやめろ」
一瞬の沈黙。
そして、低い声。
『まだ、迷っているようだな』
心臓が、跳ねた。
「どういうことだ?」
『答えは、すでに見ているはずだ』
声は、感情を感じさせなかった。
『彼らは、間違っていたか?』
小坂は、即答しなかった。
沈黙こそが、答えだった。
『次は、もっと分かりやすくしよう』
通話は、一方的に切れた。
小坂は、携帯を握り締めた。
犯人は、こちらの“迷い”を知っている。
いや――利用している。
その頃、別の場所で。
朝霧は、一人、夜道を歩いていた。
街灯の下で立ち止まり、空を見上げる。
「……私は、正しいよね」
答える者はいない。
だが、その問いは、確かに誰かに届いていた。
正義の輪郭は、まだ曖昧だ。
だが、曖昧だからこそ、人はそれにすがる。
犯人も。
刑事も。
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