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3節 選別される正義

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/21 📚 シリーズ: 共感性知能アプリNestTalk(ネストーク) 📝 1,691文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

ある刑事の叙事詩 《夜の王国 ~選択と調整の病理~》

本文

## 【第2章 捜査と疑念】

### 【3節 選別される正義】

 午前五時二十分。

 新宿区・市ヶ谷寄りのマンション街は、まだ夜と朝の境目にあった。

 小坂凌が現場に到着したとき、空は薄く白み始めていた。無機質な外壁に囲まれた中層マンション。その一室の前に、規制線と赤色灯が張り付くように広がっている。

「……警察関係者、です」

 鑑識主任が低く告げた。

 被害者は三十六歳。

 名前――**村瀬 鉄平**。

 警視庁・生活安全部に所属する現役の警察官だった。

 小坂は、息を吐くように目を伏せた。

 来るぞ、とは思っていた。だが、思っていたよりも早い。

「殺害方法は?」

「これまでと同じです。首への圧迫痕。致死後、例の“印”が」

 鑑識の言葉に、現場の空気がさらに重くなる。

 無差別殺人という建前は、もはや誰も信じていない。

 **犯人は、警察を名指しで“選んだ”。**

 部屋の中は整然としていた。争った形跡はほとんどない。

 玄関で靴を揃え、コートを脱ぎ、室内に招き入れた――そんな印象を受ける。

「……知ってた人間ですね」

 朝霧が、小坂の背後で呟いた。

「ああ。少なくとも、警戒させない程度には」

 リビングのテーブルの上。

 白い紙が一枚、丁寧に置かれている。

 小坂は、手袋越しにそれを持ち上げた。

 ——**あなたは、正義の側に立っていましたか?**

 たった一行。

 だが、それだけで十分だった。

「挑発、ですね……」

 朝霧の声が震える。

「いいや」

 小坂は首を振った。

「**試験だ**」

 犯人は、問いを投げている。

 警察官が殺されることを、世間がどう受け取るか。

 警察が、どう動くか。

 そして――自分たちが、どう答えるか。

 その時、廊下の奥で、かすかな足音がした。

「……あの……」

 振り向くと、スーツ姿の若い女性が立っていた。

 顔色は蒼白で、呼吸が浅い。泣いた形跡はないが、現実を飲み込めずにいる“空白”が、表情のどこかに滲んでいた。

 小坂が小さく息を呑む。

「村瀬の婚約者の……**詩織さん**ですね」

 女性は、ぎこちなく頷いた。

 声を出そうとして、喉が震える。

「……あの……彼は……」

 言葉が続かない。

 何を聞きたいのか、自分でも分かっていないようだった。

 朝霧が一歩、前に出る。

「詩織さん。無理に話さなくて大丈夫です」

 詩織は、かすかに首を振った。

 震える指先を胸元に押し当て、必死に息を整える。

「……どうして……こんな……」

「彼、昨日は……普通に……」

 断片的な言葉が、涙より先にこぼれ落ちる。

 小坂が静かに言う。

「まだ詳しいことは分かっていません。ただ……あなたの婚約者が、巻き込まれたのは事実です」

 詩織の肩が、びくりと震えた。

「……巻き込まれた……? じゃあ……彼は……狙われたんですか……?」

 その問いには、恐怖と、理解を拒む心の揺れが混ざっていた。

 朝霧は、思わず強い声を出してしまう。

「村瀬さんは、そんなふうに恨まれるような人じゃありません!」

 詩織が驚いたように顔を上げる。

 朝霧は、言葉を選び直すように息を吐いた。

「……あの人は、真面目で、誰よりも市民のために働いていました。

 だから……だから、こんなこと……」

 声が震えた。

 詩織は、その言葉に縋るように目を伏せる。

「……そう、ですよね……。あの人……そんな……」

 言い切れず、唇を噛む。

 廊下の空気が、重く沈んだ。

 ◇

 詩織と別れると、小坂は、ゆっくりと口を開いた。

「現時点では、何も分かっていない」

 事実だ。

 だが同時に、**最も残酷な答え**でもあった。

「……だが、あいつは言っていた。

 “正しいことをしても、救えない人はいる”と」

 その言葉に、朝霧の胸が僅かに軋む。

 ——裁かれなかった関与。

 ——見過ごされた声。

 犯人は、そこを見ている。

 朝霧の拳が、震えていた。

 この事件は、

 **警察という組織が、どこまで“正義”を貫けるのかを測るためのもの**だ。

 そして小坂凌は、はっきりと自覚していた。

 ——これはもう、単なる捜査じゃない。

 自分たちが、

 **どちら側の人間なのかを問われている。**

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冥界焔つむぎ

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