1節 法則の起源
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ある刑事の叙事詩 《夜の王国 ~選択と調整の病理~》
本文
## 【第3章 法則の起源】
### 【1節 法則の起源】
深夜の警視庁本部。
照明を落とした資料室で、小坂凌は一冊のバインダーを机に置いた。背表紙に手書きで記された番号は、正式な事件管理コードではない。——仮番号。存在しないはずの事件に付けられる、内部用の符号だ。
「……やっぱり、あった」
朝霧は隣で息を詰めた。
ページをめくるたび、紙の乾いた音がやけに大きく響く。
——十二年前。
都内某区、雑居ビル火災。
死者三名。原因不明。捜査打ち切り。
だが、写真は語っていた。
焼け焦げた階段踊り場。歪んだ手すり。非常灯の下に、奇妙な白線。火災現場には不釣り合いな、警察用の検証マーキング。
「火事なのに……鑑識が入ってる」
「しかも、三日間」
小坂は指で写真の端を押さえた。
「公式記録では“自然発火の可能性”。
でも実際は、放火未遂があった。
——内部関係者による、な」
朝霧の喉が鳴る。
「……隠した、ってことですか」
「ああ。理由は書いてある」
次のページ。
事情聴取記録。だが、名前の大半が黒塗りだ。残っているのは一つだけ。
**《参考人:女性/当時19歳》**
被害者三名のうち、二名は同じ派遣会社に所属。
もう一名は、ビル管理会社の社員。
共通点は——
「……内部告発」
朝霧が呟いた。
「三人とも、同じ企業の不正を告発しようとしてた」
「そう。
で、火事が起きた」
小坂は視線を落とした。
「生き残ったのは、彼女一人。
告発は、なかったことにされた」
沈黙が落ちる。
資料室の空調音だけが、淡々と時間を刻む。
「この人……今も生きてるんですか」
「所在不明。
ただし——」
小坂は別のファイルを引き寄せた。
最近の被害者リスト。その端に、同じ企業名があった。
「犯人は、無差別に見せているだけだ。
“法則”は、ここから始まってる」
朝霧は、唇を噛みしめた。
「じゃあ……殺人鬼は」
「……たぶん、あの事件を知っている。
もしくは——」
小坂は言葉を切った。
「**当事者だ**」
そのとき、資料室のドアが静かに開いた。
現れたのは、細身の女性だった。三十代前半。顔色は青白く、視線が定まらない。
「……突然すみません」
低い声。
だが、その目には、長い沈黙の重みが宿っていた。
「警察の方ですよね。
——私、話せることがあります」
小坂は立ち上がり、名乗った。
「小坂です。
話を聞かせてください」
女性は一度、深く息を吸った。
「十二年前の火事。
あれ……偶然じゃありません」
朝霧の背筋が、凍りつく。
「私、あのとき……
**“見捨てられました”**」
彼女の言葉は、静かだった。
だが、それは、連続殺人の“原点”を示す最初の証言だった。
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