第3話 可愛いあの子
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
あの子が野球選手のお嫁さんになりたいって言ったから - 第3話 可愛いあの子
本文
「ふぅ……」
あの後、お話もそこそこにお開きとなり、各自帰宅。
安アパートの鍵を開けて中に入るとふわっと香る甘い匂い。
ワンルームだから一目で眠りこけている人物が視界に入った。
「華恋……」
私が寮ではなく賃貸アパートで一人暮らしをしているのはこれが理由。
実家に居ても両親が真っ当な職に付けと煩いし、寮だとこうやって華恋を招き入れられない。
合鍵は渡してあるから此処に居る事に不思議は無いけど、まさか今日来るとは思わなかったな。
ご丁寧に布団を敷いて、スマホを持ったままうつ伏せで寝てるからVTuberでも見てたのだろうか。
「えっと、毛布毛布……」
「んん……」
「あ……」
「ん〜……あ、飛鳥ちゃんだぁ」
寝起き早々私の顔を見てふにゃっと笑う華恋。
昔っからそうだ。朝寝坊した華恋を起こした時も、学校でお弁当を食べて眠くなった時も何時だって私が起こしたし、その度に華恋はふにゃって笑っていた。
小さくて、ふわふわな髪で、何処に触れても柔らかそうで、甘い声の女の子。
成人してるのに女の子と思ってしまう程に、この子は無垢な顔を見せてくれる。
「おはよ、華恋。起こしてごめん」
「んーん、こっちこそ寝ちゃっててごめんねぇ?」
「それは大丈夫だけど……試合が終わってから直で来たの?」
「うん」
「うわー、言ってくれれば飲み会早く切り上げたのに……」
「それこそ駄目だよ! チームメイトとの信頼関係はパフォーマンスの向上にとっても大切な事だもん。
飛鳥ちゃんはプロなんだから、そういうところはしっかりしないと」
「うーん、そう言われると反論出来ない……」
華恋は野球が大好きで、けれど体が弱いから実際にやる事は出来ない。
その分、沢山勉強して知識を付けてきた。
私も配球やフォーム修正の相談に乗って貰う事がある。
「それに黒点・エスカルゴちゃんの配信見てたから退屈しなかったし! 寝落ちしちゃったけど……」
「こくて……何? その人もVTuber?」
「そう! カタツムリの化身、黒点・エスカルゴちゃん。エスカルゴ料理が得意なの」
「同族食べるんだ……」
「大きい魚だって小さい魚食べるよ?」
「それはそうなんだけどさ」
華恋はムフー! と鼻息を荒らげてドヤ顔。可愛い。
思えば……野球第一な事は変わらないけど、華恋は色々な趣味に手を出してきた。
小4の頃から始まり、漫画や小説。ドラマに映画に舞台。
アニメやゲーム、カードゲームもやってた時期があったな。
ちょっと前までは地下アイドル追っかけてた。
今はそれがVTuberなんだろう。
「……そういえば随分遅くなっちゃったけどどうする? 帰るなら送るけど」
「んー……泊まってって良い?」
「もちろん」
「やった! あ、汗かいちゃったからシャワー借りるね?」
「どうぞ」
「ありがとー」
華恋は鼻歌混じりにタンスを開けて着替えを取り出す。
何度も泊まりに来てるから、タンスの一角は華恋専用だ。
私自身、オシャレしなくて服も少ないから良いんだけど。
「そーれそれ飛鳥ちゃ〜ん♪ 実はフォークが苦手なの〜♪」
即興歌で私の弱点を喧伝しないでほしい。
いや、苦手と言っても相対的な話で普通に打ててはいるからね?
「ふぃ〜! シャワーありがと〜!」
「どういたしまして。はい、コーヒー牛乳」
「どもですっ! んく、んく……ぷはっ、んく……」
私や大木さんなら一息で飲み干せる量だけど、華恋には無理だ。
途中で息を入れながらくぴくぴ飲む姿は愛らしい。けど……
「またそんな格好して」
「飛鳥ちゃんしか見てないから良いでしょ〜? こっちの方が楽だもん」
華恋は私の家に泊まる時は決まって私のシャツを着る。
華恋には大きなサイズだから隠せてはいる……けど、それでも襟元はぶかぶかだし、胸が大きいから必然と裾も持ち上がって下着もチラチラと見えてしまう。
……まぁ、華恋は同性の私が邪な視線と感情を向けてるなんて知らないから仕方ないんだけど。
「飛鳥ちゃん、居酒屋行ってたならもうご飯食べちゃったよね?」
「何か作るんなら食べるよ?」
「おー、アスリートだねぇ」
華恋は私の返答に気を良くしてせっせとエプロンを巻いていく。
パッと見裸Tシャツのエプロン姿だからどことなく背徳感。
「夜だし胃に優しいのが良いよね。ん〜……お茶漬けにしよっと」
華恋は勝手知ったる……何回もこの部屋で料理してるから当たり前なんだけど……様子で冷蔵庫からパックご飯を取り出してレンジに入れる。
解凍する間にお湯を沸かしつつ、お茶漬けのトッピングを選定中。
「飛鳥ちゃん、梅干しとお新香ならどっちの気分〜?」
「んー……お新香かな」
「らじゃー!」
華恋はお湯と和風出汁でお茶漬けを作り、小皿お新香を盛り付けた。ちゃっかりお饅頭も出している。
「いただきまーす!」
「いただきます」
一口。少し熱いけど美味しい。
シンプルなのに華恋の手作りだと思うとこんなにも美味しく感じるんだから不思議だ。
「あちゃ!?」
当の華恋は猫舌だから一生懸命ふーふーしながら食べている。結局熱さに悶えてるけど。
「はむっ」
お茶漬けの後はお饅頭に齧り付いた。
私の分もあげるよ、と言ったら目を輝かせ二つ目にも齧り付いた。
夜食と言うにはガッツリだけど良いのだろうか。
まぁ、あの身体を見るに栄養が胸に行くタイプなのだろう。たぶん。
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