第4話 心がじくじくする
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
あの子が野球選手のお嫁さんになりたいって言ったから - 第4話 心がじくじくする
本文
「おいで」
「お邪魔しまーす」
夜食を終えて、食器を洗って、諸々を終わらせて、照明を落として。
既に敷いてある布団に潜り込んで、掛け布団を捲って華恋を招いた。
「飛鳥ちゃんの腕枕はやっぱり格別だね〜♪」
華恋は私の腕に頭を乗せてふにゃっと笑う。
私の腕なんて硬いんじゃ……とは思うけど、華恋のふにゃっとした笑顔を見るにこれで良いのだろう。
「あすかちゃんはねぇ…ちょーだりょくはひくいけど、とーるいできりゅかりゃ……」
布団に入った直後だというのにもう呂律が怪しい。
私が帰るのが遅かったし、夜食の後も話し込んだから本来の華恋の就寝時間はとっくに過ぎてるから仕方ないか。
お饅頭二つも食べたから血糖値も爆上がりしただろうし。
「あすかちゃ〜ん……」
「うん、おやすみ」
「……すぅ……すぴー……」
「……ふふ」
頭を撫でながらお休みを言った直後、華恋は眠りに落ちた。
あどけない寝顔は昔と変わらず可愛らしいのに、身体は成長してるからそのアンバランスさが非常に心臓に悪い。
「華恋……」
もう何度も呼んだ名前。
けれど、何度呼んでも飽きる事は無い。きっと、これからも。
「好きだよ、華恋」
眠っている彼女の耳元で囁く。
起きている時だと親愛の意味で受け取られて、華恋も親愛の意味を込めて返してくるから。
……それで満足出来ないのだから私はどれだけ強欲なのか。
※※※※※
「ん〜……!」
目が覚めて左手を伸ばす。
右手は腕枕をしているから大きくは伸ばせない。
華恋は良く寝る子で、トイレ等の事情が無ければ私より先に起きる事は無い。
だから起こさないようにそっと腕を抜いて枕に頭を載せる。
何度もやってきたからもう慣れた。
「……よし」
朝ご飯作ろう。
小さい頃はご飯もパンもどっちでも良かったけど、中学辺りで華恋にお米を食べなさい! と言われてからは朝食はご飯にしている。
……と言ってもパックご飯だけど。
華恋は時間さえあればお米も研げるし料理も上手いけど、私はそうじゃないしなぁ……
「あ、鮭ある。これと味噌汁で良いかな」
鮭をグリルに入れて、味噌汁はインスタント。
華恋なら味噌から作るんだろうけど、私は不得意なのもあってインスタントで済ませがちだ。
「ん〜……」
「あ、起きた?」
「あ〜、飛鳥ちゃんだぁ」
鮭の焼ける匂いで目が覚めたのか華恋はのそのそと起き上がり、私の顔を見るなり何時もと同じくふにゃっと笑った。
「今朝ご飯作ってるから。顔洗っといで」
「は〜い」
ぐいーっと伸びをしてからの大欠伸。
のったりもっさりとした動作で洗面台に向かう華恋だった。
「いただきます」
「いただきます!」
両手を合わせていただきます。
華恋は食べるのは遅いけど丁寧に、それでいて美味しそうに食べる。
私もそれに見惚れて遅くなるけど、それでも華恋よりは早い。
「ふんふふ〜ん♪ 飛鳥ちゃんはカーブ投げる時にちょっと腕が緩むの〜♪」
皿洗いしてくれるのは有難いけど、鼻歌交じりで私の弱点を喧伝しないで欲しい。
これでも監督や華恋のおかげでかなり修正出来たのに。
※※※※※
「じゃ、練習頑張ってね!」
「うん。華恋も気を付けるんだよ?」
「もう、心配性だなぁ飛鳥ちゃんは」
こんなぽやぽやした子なんだから心配して当たり前だ。
練習場と華恋の家が反対じゃなかったらもうちょっと送っていけたのに。
「あっ!」
「え、なに?」
いきなり華恋が大きな声を出した。
忘れ物かな?
「飛鳥ちゃん、今週の土曜日空いてる?」
「え、うん。試合無いし。遊びに行くの?」
「うん! 飛鳥ちゃんに会わせたい人が居て……紹介させてほしいなって」
「……え?」
「じゃ、またね〜!」
「ちょ、華恋!?」
呼び止める声も空しく、華恋はトコトコと歩き去ってしまった。
……会わせたい人って誰? 女の人? 男の人?
でもあの言い方はまるで彼氏を紹介するみたいな……
「ゔぇ……」
胃の辺りがムカムカする。
※※※※※
「終わりだぁ! 華恋が彼氏を連れてくるんだぁ!!」
「どうどう、落ち着いてください飛鳥ちゃん」
「呑みすぎだ。おめーそんな酒強くねーだろ」
練習後、何時もの居酒屋で佐伯さん大木さんと夕食を食べにきた……んだけど、モヤモヤしてお酒を一気に煽ったら感情が爆発してしまった。
「だから飛鳥ちゃん、今日の練習に身が入ってなかったんすねぇ」
「飛鳥にしちゃ珍しい事もあるもんだとは思ったが……」
「ゔぅ〜……かれん〜……」
「ま、まぁまだ彼氏と決まった訳じゃないっすよ!
ほら、もしかしたら新しく出来た友達とか、飛鳥ちゃんのファンだって人の可能性もありますし!」
「彼氏だったら?」
「え?」
「彼氏だったらどうすれば良いんですかぁっ!!」
「どうと言われても……」
「飛鳥よぉ、以前聖奈にも言ったが人の道にとやかく言うもんじゃねぇよ。
増してやおめー、あくまで華恋ちゃんの幼馴染みってだけで保護者でも何でもねーだろ」
「それはそうですけど……」
「華恋ちゃんに聞いてみたらどうっすか? 会う予定とかあります?」
「それが、うっかり言っちゃうかもしれないから土曜日まで遊びに行かないってメッセが来てまして……」
「じゃあ諦めろ。どっちに転ぶか分からんが、さっさと切り替えて練習はしっかりやれ。
自分のせいで上の空になって怪我した……なんて事になったらそれこそ華恋ちゃんを泣かせちまうぞ」
「……はい」
酔って思いの丈を吐き出したからか少しスッキリした。
そういえば、昔に華恋が考案したトレーニングで怪我をした時は大変だった。
華恋は自分を責めて、過呼吸になるぐらい泣いて……軽く捻っただけの私よりよっぽど酷い状態だった。
……そうか、またそうなる可能性があったのか。
いけないいけない。怖いけど、まだモヤモヤは晴れてないけど、それがキッカケで怪我をして華恋を泣かせるなんて事はあっては駄目だ。
土曜日に何が待ち受けているのかは不安だけど、少なくとも練習はしっかり熟さないと。
「大木さん、佐伯さん。すみませんでした。あと、ありがとうございます」
「気にすんな」
「そっすよ。前はウチの愚痴聞いてもらったし、持ちつ持たれつっすよ」
パンパンと自分の頬を叩く。
いつまでもグダグダしていられない。気合いを入れ直そう。
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