第5話 あの子の理想に近い人
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あらすじ
あの子が野球選手のお嫁さんになりたいって言ったから - 第5話 あの子の理想に近い人
本文
「はぁ〜……」
運命の土曜日。
この角を曲がれば待ち合わせ場所の駅前はすぐそこ。
だけど、踏み出せない。
この時間なら華恋でもとっくに着いてる頃だ。
身支度に手間をかけず、足早な私は待ち合わせ場所に来るのが早い。
対して華恋は身嗜みに気を使うし、歩くのも遅いから少し遅れる事も多いけど……今は逆に待たせてしまっている。
「ふぅ〜……覚悟を決めろ、如月 飛鳥……!」
パンッ! と自分の頬を叩いて喝を入れる。
痛いし、ちょっとヒリヒリするけど気合が入った。これなら行ける……!
「あ、飛鳥ちゃん!」
「ひぇ……っ⁉︎」
それでもある程度までは近付いてから声を掛けようと思ってたんだけど……角から出た瞬間に見つかった。
何しろ家の方向からしてこっちから出てくる事は分かってただろうし、私は女性にしては背が高いからやたら目立つ。
「遅れてごめん」
「来てくれたから良いよ! あ、この人が紹介したい人ね。ささ、森田先輩」
「初めまして、森田 淳です」
「如月 飛鳥です」
私よりも更に背の高い森田さんが深々とお辞儀をしたので私も慌てて頭を下げる。
……私は彼を知っている。野球の情報はそれなり追っているから。
森田 淳。
早稲田大学野球部のエースで、今季ドラフト1位確実と言われている選手。
成績もさることながら、性格が良くて爽やかでおまけにイケメン。
そんな絵に描いたような優等生の彼が……華恋が会わせたい人、か。
なるほど、野球選手のお嫁さんになるならこの人程の適任は居ない。
「ふふん、どうですか森田先輩? プロ野球選手ですよ!」
「えぇ、お会いできて光栄です。ですが、その……規定でプロ志望届けを出す前はプロの方との接触は出来ないんです。なのでこの事は内緒にして頂けると……」
「プロと言っても女子プロですよ?」
「えぇ、プロですので」
「はは、分かりました。この3人だけの秘密にしましょう」
「ありがとうございます」
あぁ、そうか。
この人はこの先まず関わらないであろう女子プロ野球選手の私も“プロ”として敬ってくれるのか。
本当に誠実で良い人だ。
「ささ、挨拶も終わった事ですし早速行きましょう!」
「え、この3人で? このまま遊ぶの?」
「ふふん! 遊びと言えば遊びだけど、遊びじゃないと言えば遊びじゃないよ!」
「んん……? 森田さんは何か聞いてます?」
「いえ、僕も如月さんに会わせてあげるとしか……園崎さん、普段でもあんな感じなんですね」
「大学でもそうなんですか?」
「えぇ。と言っても部活でしか関わりは無いんですが」
「はぁ……?」
「ほら、早く早く!」
「分かったから引っ張らないの」
うーん、華恋の意図が読めない。
それに、部活でしか関わってない……?
付き合ってる訳じゃないのか、隠しているのか。
※※※※※
「じゃじゃん! 此処です!」
「バッティングセンター……」
「ささ、プロのバッティングを見せてくださいよ如月プロ!」
「えぇ……」
絶対森田さんの方が上手いと思うんだけど……
かと言って、仮にもプロを名乗っている以上尻込みするのも気が引ける。
何より華恋が目をキラキラさせてるし……
「じゃあ120で」
「おぉ〜……!」
かなり上の方の速度設定を選んだ。
これは女子プロの平均球速より上……打つのに苦労するだろうけど、だからと言って70とか80で置きに行きたくは無かった。
「ふっ!」
キィィンッ、と金属バットの音が響いた。方向的にはライト前、かな?
その後も何本かミスヒットはしたけど、概ねヒットコースには打てた筈。
「お見後です。流石プロですね!」
「いえ、そんな……大学野球の方がもっと凄い球投げるでしょう?」
「それは、まぁ。失礼を承知で言いますが、やはり男女差による筋力の差もありますからね。
ですが大事なのは男子と比べる事ではなく、女子プロの中で如何に結果を出すかという事だと思います。
その観点で言えば如月さんは圧倒的な成績を残していますし、今のバッティングを見ても沢山の努力をされてきたと一目で分かりました。
高みに居るからこその苦しみもあるとは思いますが……それでも僕から見たら尊敬すべきプロ野球選手です」
「……ありがとうございます」
あぁ、野球選手としてだけじゃなくて人間としても完敗じゃないか。
森田さんの後ろで華恋がドヤ顔してなかったらウジウジしちゃってたかも。
「わ、私もちょっとだけ……」
「駄目駄目、危ないよ」
「如月さんにバッティングを教えて貰ってからやりましょう」
「教えたらこっそりやりに行くので教えないですけどね」
「うぅ〜!」
悪いとは思うけど我慢してほしい。
私の目の届かない所で無茶しないかと不安になるから。
その代わり、このむくれたお姫様のご機嫌を取らないと。
「パンケーキ食べる? 奢るよ」
「パンケーキ!?」
目を輝かせちゃってまぁ。
多分行くのは近くにあるちょっとお高い所。
まぁ、それで機嫌が取れるなら安いか。
「あ、森田さんは大丈夫でしたか? 食事制限とか……」
「僕も食べるのは好きなので!」
「あぁ、それは良かったです」
甘いのが好き、とは言わなかった。
気を遣わせちゃったかも……
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