第8話 金原 涼音
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
五色の音色に囚われて - 第8話 金原 涼音
本文
「……♪」
渋谷へ向かう電車にて。
SNSで五行輪舞のワードをサーチして悦に浸っている。
あのライブをキッカケに、ネットでチラホラと五行輪舞の名前を聞くようになった。
その反応は殆どが称賛する物であり、部外者の私ですら嬉しくなる。
その界隈では名の知れたアマチュアバンドライター『バン君』が取り上げたのも大きかったな。
丁度あのライブの日に来てくれて良かった。
今日は恋が忙しく(課題を溜めていたらしい)、1人で渋谷散策だ。
まぁ、1人だからこそこうやってSNSを巡れている訳だが。
「っと、着いたか」
駅に着いたら何時も通り比較的人の出入りの少ないトイレに入り服を着替える。
眼鏡と三つ編の自分とは暫しお別れ。
へそ出しスタイルは継続だが、少し肌寒くなってきたので上着を羽織る。
最後に鏡で自分の顔を確認。
よしよし、今日も学級委員長の天王寺 愛花に見えない。
「よし、行くか」
そして個室のドアを開けて……
「お邪魔するわよ」
そのまま、ドア前で待機していた女に再び個室に押し戻された。
「な、なんだ……!?」
「アンタね。最近ウチの恋に悪い事を教えているのは」
「……っ、お前は……!」
随分と派手なパンクファッションで、けれどソイツが誰かは一目で分かった。
間違える筈が無い。顔はよく知っているし、何よりこんな大量のピアスを付けている奴を他に知らない。
「金原 鈴音……!?」
「ご名答。学校とは打って変わって素敵な格好じゃない、天王寺 愛花?」
バレてる……!? いや、この様子からして最初から当たりを付けて声をかけてきたんだろう。
「なんの事だ? 私は……」
それでも何とか誤魔化そうと試みる。
が、パシャッという機械音とフラッシュに思わず口を噤んでしまう。
「こんなに至近距離で顔を撮ればさすがに分かるかしら?」
「……バラす気か?」
「アンタの態度次第よ」
「何が目的だ?」
「簡単よ。火口 恋に近付くな……それだけ」
「はぁ? 何でそんな事お前に……ぐっ!?」
首に手を掛けられて、そのまま壁に押し付けられる。
振り解こうとその手を掴むが、金原が手に力を入れて首を絞められたので取り敢えず抵抗はやめた。
「アンタのやってる事は余計なお節介よ。
アンタのせいで恋は“不真面目行為”に走った。
アタシの知らない所でアンタと遊んで、言い付けを破ってゲーセンに行って……そして【愛火】を書き上げた。
そのせいで多少なりとも注目を浴びるようになってしまった」
「それの、何が悪いんだよ……!」
「注目されれば自ずと悪意も向けられるものよ。
けれど、それに純真無垢な恋は耐えられない」
「なんだよそれ……! 恋はその純真無垢な自分に悩んでたんだぞ!
ロックがやりたいのに世間や社会に不満が無いから薄っぺらい歌詞しか書けないって!
だから私に不真面目を教えてくれって言って、それで【愛火】を書いたんだ!
作曲したのは金原なんだろ!? 売れるのが嫌なら下手な曲にすれば良かっただろ!」
「そんな事……恋の信頼を損なう様な事出来る訳無いじゃない」
そう言って金原は私の首から手を離すと、ピアスに触れながら呆れたように溜息を吐いた。
「何で恋があの顔とカリスマ性をぶら下げて純真なままで居られたと思う? 私が守ってきたからよ。
嫉妬による悪意から、性欲から、劣等感から、偏見から。
恋がそんな下らないモノで傷付かないように」
金原は変わらずチャリチャリとピアスを弄りながら冷めた目で私を見下している。
「五行輪舞だってそう。恋がいきなり五行に因んだバンドをやりたいって言うからアタシがメンバーを集めた。
芽衣を説得し、海里を引き込んで、玲於奈を誘った。
玲於奈がもっとカッコいいポジションが良いってゴネるからギターの座を譲って、ギターを教えた。
それでもまぁ……良い奴等よ。過度に恋に入れ込んだりしないから」
そこで金原は僅かに視線を上に上げて、どこか遠い目で……
「恋は純真無垢でなければいけない。
誰とでも仲良くなれる。誰からも好かれる。
けれど、恋自身が誰かに執着する事などあってはならない。
やがてそれは恋自身の無垢さを穢してしまうから。だと言うのに……っ」
今度は右手で耳を覆うように掴んで、キッと私を睨み付けてきた。
「あの歌は何っ!? 恋が作詞してアタシが作曲した曲にアンタを文字ったタイトルを付けて……!
あんなの火口 恋じゃ……っ、アンタのせいよ! アンタが恋を……っ!」
「それでも恋は自分での意思で選んだ! その意思と努力を否定する事は誰にも出来ない筈だ!」
「そのせいで恋が傷付くとしてもっ⁉︎」
「恋だって後数年で卒業する! 社会人になる!
そして……恋の事だから音楽活動を続けて、その内世界に見つかったろうさ。
アイツは地元で収まる器じゃないんだ……!
今までは守る必要があったのかも知れない。
けれど今後に必要なのは“人”の事を教えてやる事なんじゃないのか⁉︎
恋はそれを心の何処かで分かってたから殻を破ろうとしてたんじゃないかっ⁉︎」
「……っ、うるさい! うるさいうるさい!」
金原は右耳をギュッと握り締め、私の言葉を遮る様に叫ぶ。
「コレ、バラすわよ⁉︎ 良いのっ⁉︎」
「好きにしろ。でも人の弱みを握って従わせようとする金原を恋はどう思うだろうなっ⁉︎」
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ……!」
金原は遂に頭を抱え……いや、両耳を握り締めているのか?
そんな姿勢で鬼の様な形相で睨み付けてくる。
私も負けじと睨むが……体格差があるからいざ殴り合いとなったら負けるな、私……
「あの部屋ですっ!」
「「⁉︎」」
そんな折、外から切羽詰まった声が響いた。
考えてみれば当然だ。人の出入りが比較的少ないとはいえ駅に近い公衆トイレ。
部屋の中で言い争いをしていたらそりゃ通報されるよな……!
「さっきからずっと剣呑な雰囲気で……!」
「警察です! どうかしましたか⁉︎」
「ゔぅ……っ!」
「あ、ちょっと!」
それを聞いた金原は両耳を握り締めたまま全力逃走。
まぁ、耳を隠せてれば大丈夫か……?
「大丈夫ですか⁉︎」
「え、あぁはい……ちょっとした口喧嘩です」
「はぁ……」
「お互い怪我は無いので。お騒がせしました」
通報者と思しきお姉さんと駆け付けた婦警さんに言い訳をしつつ。
ただの口喧嘩という事で注意だけで済ませて貰えた。
危なかった……大事には至らなかったが疲れたな。
今日の不真面目行為は中止にするか……
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