第5話 どんな気持ち?
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
200cmのくーちゃんと135cmのしーちゃん、配信者デビュー! - 第5話 どんな気持ち?
本文
「ん、くふっ……」
「くすぐったい?」
「う、うん」
背中は、まだ良かった。
しかし黒羽の手は背中に留まらず、脇腹やお腹、腰から太もも、そして下腹部まで。
10歳を過ぎてからは体を誰かに洗って貰うという事は無かった。
……ただ一人、黒羽を除いては。
しかし、今とあの時は違う。
今は、大人なのだ。知っているのだ。
その部位に触れるという事がどういう意味を持っているのか。
(くーちゃんは、どう思ってるのかな。
シロの事を“そういう目”で見てる?
それとも小さくて可愛い庇護対象?)
白音は自分に自信がない。
自分に魅力があるとも思っていない。
当時もそうだったが、今は更に体格差が開いてまるで親子のようだ。
(くーちゃんから見たら、子供過ぎるよね……)
「はい、終わり。先にお風呂に入ってて」
「ありがと! んしょ……」
白音は恐る恐る湯船に足を入れる。
何しろ広い。階段と手摺りまで付いているのだ。
黒羽がゆったり出来る広さと考えれば妥当だが、それはつまり白音にとっては規格外という事。
「んふぇ〜……」
だが、着地出来れば心地良い温かさのお湯に白音の緊張も少し解れた。
微温めなのは白音への配慮だろうか。
「お邪魔するわね。よいしょっと」
「わわっ」
洗髪、洗体を終えた黒羽も白音に続き湯船に浸かる。
その際に白音を持ち上げて自身の膝に座らせた。
(暖かい……)
硬い床と比べて黒羽の身体は柔らかい。
そして暖かいのは体温か、それとも気持ちだろうか。
「嬉しい……」
「くーちゃん?」
「ずっと、寂しかった。しーちゃんと暮らす為にこのフロアを買って、でもそこにしーちゃんは居なくて……
やっと……やっと一緒に居られるのね」
「くーちゃん……うん、そうだよ!」
「しーちゃん、大好き……」
白音の頭部に頬を付けて抱きつく黒羽。
そんな黒羽に釣られ、白音も彼女の両手を握り締める。
二人はそのまま暫くの間、互いの体温を感じ続けたのだった。
◇◇◇◇◇
入浴を終えた白音は黒羽に身体を拭かれ、ドライヤーで髪を乾かされ。
寝間着は黒羽のシャツを着させられた。
可愛いパジャマも用意されていたが、流石に白音がそこまで小さいままだとは予想しておらずサイズが合わなかった。
一方黒羽は黒羽で背が高すぎるからか、寝間着はガウンだ。
「んく、んく……」
「美味しい?」
「うん!」
白音はコーヒー牛乳のマグカップを両手で持ち、ゆっくりと啜っていく。
これも小さい頃からの習慣で、黒羽が覚えていたのだ。
子供の頃から変わってない……と少し落ち込む気分だが、黒羽がその事を覚えていて用意してくれて嬉しい気持ちもある。
「ふぅ……」
「飲めた? カップちょうだい」
「はい」
カップを受け取った黒羽がシンクで洗い始める。
白音としては自分でやると言いたいが、悲しいかな台座が無いと辛い高さだ。断られるに決まっている。
「あふ……」
「眠い?」
「うん……今日寝てばっかりぃ……」
「今日は慌ただしかったから仕方ないわ。明日はパジャマや日用品を買いにいきましょう」
「うん……」
白音はうつらうつらと船を漕ぎながら黒羽の元に歩み寄り。
しかし、それ故に足元が疎かになり……
「ひゃわっ!?」
「しーちゃんっ!?」
転んでしまった。
コテッと効果音が鳴りそうな、至って軽い転倒だ。
白音自身も痛みよりも恥ずかしいという感情が勝っている。
「しーちゃん……しーちゃんしーちゃんしーちゃんっ!」
だが、黒羽にとってそれは決して看過出来ない出来事だったらしい。
焦燥感を滲ませながら慌てて駆け寄り、白音を抱き抱える。
「あああああああああぁぁぁ……っ、ごめんなさいっ、ごめんなさい……!
怪我は? 痛い所は? あぁ……私が付いていながら……!」
「くーちゃん、大丈夫だよ? どこも痛くないから……」
「ごめんなさいごめんなさい……もう寝ましょう? 二度とこんな事がないようにするから、ね? ほら、ベッド行きましょう?」
「う、うん……」
白音を抱き抱えたまま黒羽は寝室に移動。
そして白音をベッドに寝かせ、掛け布団を被せて頭を撫でる。
「んん……くーちゃんはまだ寝ないの?」
「やる事があるから」
「じゃ、シロも起きてる……」
「駄目よ。しーちゃんは疲れてるんから、ぐっすり寝ないと」
「むー……」
「よしよし。すぐに終わらせて私も寝るから。ね?」
黒羽が白音の耳元で囁くと、彼女は途端に落ち着いた様子を見せた。
そのまま頭を撫で続けると……すぐに寝息が聞こえてくる。
「……よし」
その声は、安らかに眠る白音の耳に届く事は無かった。
◇◇◇◇◇
「んん……」
気怠い微睡みの中、白音は目を覚ました。
隣に黒羽が居ない事に寂しさを覚えるが、リビングの方から聞こえる物音で黒羽が起きている事を知る。
「え……?」
寝室から出た瞬間、白音は目を丸くした。
部屋の様相が丸っきり変わっていたからだ。
綺麗に磨かれたフローリングは消失し、見えるのはカラフルなジョイントマット。
足を乗せると僅かに沈む柔らかい感触。
更にはシックで高級感溢れる調度品の角には転倒で怪我を防ぐ為のクッション材が貼られていた。
「くーちゃん……?」
「あら、もう起きたの?」
「何してるの?」
「しーちゃんが転んでも痛くないように模様替えをしていたの」
「えぇ……?」
確かに転んでも怪我はしないだろうが、これは本当に赤ちゃんやそれに近い子供の為の措置だ。
そんなに子供扱いされるのは、という思い。
自分なんかの為に高級品にクッションを貼り付ける事への申し訳ない、という気持ち。
「ふぅ……すぐにご飯作るわね」
「うん、ありがと……」
しかし、やりきって清々しい笑顔の黒羽を見ると何も言えず。白音は複雑な気持ちで食卓に着いたのだった。
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