第6話 決意
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
200cmのくーちゃんと135cmのしーちゃん、配信者デビュー! - 第6話 決意
本文
「くーちゃん! お皿持ってくねっ!」
「えぇ、ありがとう」
白音がトタトタと皿をシンクに運ぶ。
(……最近しーちゃんが張り切っている)
始まりは家の床をフローリングからジョイントマットに変えた事。
それまでは甘えて委ねてくれていたが、その日から妙に家事をやりたがる。
ただ、白音では力不足なのも事実だ。
料理は経験が無いし、包丁や火を使わせるなど以ての外。
掃除だって高い場所に届かないし、箒や掃除機を扱うのも一苦労。
黒羽がやるのが早くて安全なのが現実だし、黒羽自身も白音を世話し甘やかす事を楽しんでいた。
(頑張るしーちゃんも可愛いけど……)
「くーちゃん?」
「え? あぁ、ごめんなさい。お皿ありがとう」
「どういたしまして。今、他にやる事あるかな?」
「……そうねぇ」
黒羽は考えるフリをしつつ、思考する。
しーちゃんのやりたい事を尊重してあげたいけど……と思うが、これでも一度は心とメンタルが壊れて塞ぎ込んでしまった子だ。
今でこそ笑ってくれるが、もし何か失敗体験をしてしまったら。
その失敗が、またしーちゃんを傷付ける事になってしまったら……
「……くーちゃん?」
「なぁに?」
「大丈夫? 疲れてるの……?」
「そんな事ないわ。ふふ、心配性ね?」
「あぅあぅ」
黒羽は白音を抱き寄せ、頭を撫でる。
こうすれば彼女はすぐに笑顔になってくれるから。
「えへへー」
「ふふ、洗い終わったらショッピングに行きましょうか」
「うん!」
◇◇◇◇◇
そんな日々が一週間程過ぎた。
「行ってくるわね」
「行ってらっしゃい!」
基本的に贅沢出来る程の不労所得は得ているが、それでも度々店に出向いて会議や売り上げ回収を行う必要がある。
それが、今日だった。
「しーちゃんは気にせずゆっくりしていてね?」
「う、うん!」
後ろ髪引かれる思いで黒羽はドアを開く。
そして、ドアが閉まると同時に白音は……
「頑張らなきゃ……!」
そう、呟いた。
幸か不幸か、黒羽の超人的なしーちゃんレーダーは、この独り言を聞き逃さなかった。
「大丈夫、よね?」
店へ向かう車中。信号待ちの合間にスマホを機動し、家に設置している見守りカメラをチェック。
特に何も変化はない……いや、カメラの作動に気付いた白音がカメラに向かって手を振ってきた。
「かわいっ」
凝視し過ぎて信号が青になっても止まったままだったが、後方からクラクションを鳴らされてようやく気付く。
「いけないいけない。落ち着いて落ち着いて」
黒羽は深呼吸し、平常心を取り戻すと改めてハンドルを握り直した。
「やっと着いた……」
やがて黒羽は諸々の仕事を終え、マンションに戻ってきた。
三時間も掛からなかったが、それでも白音と離れて過ごすのは辛かった。
マンションが近くなってからはスマホを起動させる時間も惜しく、駐車場に車を納めて早足で最上階へ向かう。
「しーちゃん! ……しーちゃん?」
再会が待ちきれないとばかりに勢いよくドアを開いた黒羽は肩透かしを食らった気分になった。
黒羽の算段では白音が天使のような笑顔でぽてぽて駆け寄ってくる筈だったのだ。
しかし、返事はおろか白音自身の姿も見えない。
「……?」
その事実に戸惑いつつも、感じ取れたのは香ばしいコーヒーの香り。
視界に入ってきたのはリビングに散らばったカップの破片。
「しーちゃん……っ!」
黒羽は不安を振り払うように寝室に駆け込む。
そこにはベッドの上で小さなシーツの山が震えていた。
白音が家から出ていくという最悪の事態が回避された事に安堵しつつ、黒羽は慎重にベッドの端に腰を降ろす。
「しーちゃん?」
「っ!?」
ビクッ、と分かり易く白音が震える。
耳を澄ませると、啜り泣きの声も聞こえてきた。
「どうしたの?」
黒羽は白音の怯えを少しでも和らげるように、シーツの上から撫でるように手を滑らせる。
「くーちゃん! し、シロ……、シロ……っ!」
「うん」
「し、失敗しちゃった……っ! くーちゃんに温かいコーヒー飲ませてあげようと思って……でも、カップ落としちゃって……
くーちゃんのカップ、壊しちゃったぁ……っ」
「もう……そんなの良いのに。しーちゃんに怪我は無かった?」
「うん……」
「良かった……それなら良いの。さぁ、布団に籠ってないでその可愛いお顔を見せて?」
黒羽はそっとシーツを捲る。
そこには、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった白音の顔があった。
「ひっく、くーちゃん……ごめんなさい……」
「怒ってないわ、私の為にしてくれたのだもの。さぁ、泣きやんで?」
黒羽が白音の涙を拭うと、表情は暗いままだが徐々に落ち着きを取り戻す。
「ごめんなさい……」
「大丈夫。今度お揃いのカップを買いに行きましょう?」
「うん……」
「……ねぇ、しーちゃん。しーちゃんは床にジョイントマットを敷くの、嫌だった?」
「ふぇ……?」
「過剰に子供扱いされてると思った?
だから子供じゃない事を証明しようとしたの?」
「……うん。シロ、くーちゃんにお世話して貰うばっかりじゃ嫌だったから」
「そう……気付いてあげられなくてごめんなさい。
でも私、しーちゃんの事を子供扱いしたい訳ではないの。
ただ世界で一番大切で、世界で一番可愛いしーちゃんに傷付いて欲しくなかっただけなの」
「うん……」
白音は黒羽に抱き寄せられるまま、胸に頭を預けた。
「でも、シロはくーちゃんの役に立ちたかったの……」
「その気持ちは嬉しいわ。だからね、今度は一緒にしーちゃんが出来る事を考えましょう?
きっとしーちゃんにしか出来ない事があるわ」
「うん……ありがとう、くーちゃん。大好き……」
白音は黒羽に抱きつき、その温もりを全身で感じるように目を閉じる。
黒羽はそんな白音の頭をそっと撫で続けた。
◇◇◇◇◇
割れたカップを片付け、夕食を作り、入浴を済ませ、ベッドに潜る。
「おやすみなさい、しーちゃん」
黒羽は横になった白音を優しく抱きしめ、その額に口づけをする。
そしてあやす様にポンポンと叩いた。
普段ならそれですぐに寝る筈だった。
事実、白音の目はとろんとしている。
しかし、何かを思い出したようにぷるぷると頭を振ると、のたのたとベッドから起き上がった。
「どうしたの? トイレなら一緒、に……」
黒羽の言葉が途切れた。
白音が、拙い手付きでパジャマのボタンを外していたからだ。
黒羽は事態が飲み込めず、瞬きをする事しか出来ない。
「しーちゃん?」
「くーちゃん……」
やがて全てのボタンを外し終えた白音はシャツの袖から腕を抜く。
下もショーツごとズボンを脱ぎ捨て、ベッドの上で固まっている黒羽に馬乗りになった。
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