第9話 地を這う者
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
200cmのくーちゃんと135cmのしーちゃん、配信者デビュー! - 第9話 地を這う者
本文
「はい、そろそろお開きにしようと思いまーす!
4時間ぐらいやったのかな? 長時間の配信だったけど付き合ってくれてありがとー!
ではまた次の配信でお会いしましょう!
ご視聴ありがとうございました、あかみこでしたー!!」
「……ふぅ」
配信を終えた九条 朱莉(くじょう あかり)は伸びをしてから立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを取り出すとそれを一気に煽り始めた。
「んぐ、んぐ……っはぁ! やっぱり仕事終わりはビールだな!」
朱莉はそのままベッドに腰掛けてスマホを起動させる。
「同接15人。投げ銭0円……かぁ」
はぁ、と重い溜息。
九条 朱莉25歳。
配信者を始めて7年目。
得意なゲームはFPS。
芽は、出なかった。
「何やってんだろ……新参者にガンガン抜かれるし……」
スマホの画面には最近何かと話題に上がるシロクロの配信が映っていた。
思わぬ事故から素顔バレしたシロは、その可愛らしさが露呈し、一気にファンを増やした。
マスクを排除した事により表情の変化が分かりやすくなり、その喜怒哀楽がダイレクトに視聴者に伝わるようになった。
また感極まって泣き出したら遠慮無くクロが出てくるようになり、そしてシロの方も遠慮なく甘えるようになった。
その絡みが尊いと話題になり、登録者数や投げ銭も増加傾向。
対するクロの勢いも凄まじい。
ゲーム自体はカードゲームやシミュレーションゲームなど知能を重視する物が中心で配信受けするジャンルではない。
それでも、事ある毎にシロの自慢をする。
『コイツが世界一可愛いしーちゃんより登録者が多い理由が分からない』と食ってかかる。
配信中にも関わらず、同時に配信しているシロのコメント欄に登場する。
何ならシロが泣き出したら配信途中であっても駆け付ける、等。
度を超えたシロ愛と、ゲームの協力プレイにおいてヘッポコなシロを全力フォローする姿が話題になっている。
「はぁ……ウチも何か新しい事始めようかな」
朱莉は缶ビールをテーブルに置くとそのまま横になる。
「最初は百合営業とかそんなんだと思ってたけど、ガチっぽいよなぁ……」
『しーちゃんはね、現代に現れた天使なのよ』
《また何か言ってる……》
《なんでエンジェルカードからシロの話になるの》
《そんでリーサル計算完璧なんだもんよ》
「あー、もぅ……見るのやめよ。虚しくなる」
朱莉はスマホを閉じて天井を見つめる。
「シロはあんな可愛くて小っちゃくて……可愛がられる天才で。
クロは投資家として成功してる癖に配信者としても順風満帆……不公平だよなぁ。
クソ、ウチが狭くてボロい部屋で安いビール飲んでる時にコイツはタワマンの最上階で高いワインでも開けてるんだろうなぁ……」
蛍光灯の光に目を細めて、両腕で目を覆う。
「デッカくなりてぇなぁ……誰からも称賛されて、羨望の眼差しで見られるような。そんな人生送りたかったよ」
大きく溜息を吐いて朱莉は目を閉じる。
そんな時、ピロン♪ と、スマホが着信音を鳴らした。
「んぁ? 何だこんな時間に……ツブヤックーのDM?」
朱莉はスマホを操作してDM欄を確認する。
そして、そこに表示された宛名に目を見開いた。
「クロから? え、コラボのお誘い……?」
◇◇◇◇◇
「これで良しっと」
山桜 青藍(やまざくら せいら)は撮影したダンス動画の投稿を終えて一息吐いた。
次に自身のチャンネルの再生リストを眺め……今度は重い溜息。
「再生数三桁の壁は厚い、か……」
気晴らしに動画投稿サイトのトップページに飛ぶと、とあるアイドルグループのライブ告知動画が表示された。
「紫苑、凄いな……」
山桜 青藍、20歳。
配信歴2年。
良くやるゲームは高難易度アクションゲーム(得意、というよりは根性でトライ&エラー繰り返すタイプ)
かつては地下アイドルグループに所属していて……そして、芽が出ないままグループは解散した。
紫苑は同じ時期に同じグループで共に活動していたが、当の彼女は大手プロダクションにスカウトされ、青藍を置き去りにしてあっという間にスターダムを駆け上がっていった。
「これが……才能の差、なのかな」
それでも青藍は諦めきれず、活動の場を動画投稿サイトに移した。
しかし、そこでも2年経てど芽は出なかった。
練習は続けている。
歌動画もダンス動画も納得の行くまで撮り直し、その時点での完璧と言える域にまで仕上げた。
なのに、再生数は二桁が限度。稀に三桁まで行く事はあるが、それより上には行かない。
対して紫苑は単なる告知動画だけで万を越える。
そして何より……
「こんなにコメントが沢山……」
そのどれもが『何時もありがとう!』や『紫苑ちゃんの歌に何時も励まされています!』という感謝の言葉が連なっている。
「ボクだって、沢山の人を励ましたいのに……!」
青藍はギリっと歯を食いしばり、悔しさを露にする。
しかし、ハッと目を見開いて首を振った。
「駄目だよ、アイドルがそんな醜い感情を持っちゃ……」
気持ちを切り替えて、次に上げる予定の歌の歌詞を読み込もう……とスマホに手を伸ばした瞬間、ピロン♪ とスマホが着信音を鳴らした。
(誰?)
青藍はスマホを操作してDM欄を確認する。
「クロから……コラボのお誘い? え、なんでこんな底辺に……?? 接点なんて無いのに。
いやでも認証バッヂ付いてるから本人で間違いないし……」
不信に思いつつ、届いたDMを開く。
『初めまして、クロチャンネルのクロです。
突然のDM失礼致します。今回はコラボのお誘いをしたくこうしてメールを送らせて頂きました。
経緯としましては、パートナーであるシロに4人で遊ぶゲームがしたいとお願いされたのでコラボをしてくれる人を探しています』
「あぁ、シロ絡みか。それなら何をやっても可笑しくない雰囲気あるね……」
『コラボするに辺り幾つかの条件を設けさせて頂きます。
1 私の命令は絶対
2 シロに色目を使ってはいけない
3 シロを怖がらせてはいけない
4 シロが何かやったらちゃんとに褒める
5 シロが何か失敗しても絶対に怒らない
以上の条件を呑めて、且つコラボをして頂ける方は返信お願いします』
「……なるほど。シロを守る為にコントロールし易い底辺配信者に狙いを絞ったって訳ね。
上から目線なのは癪だけど……こんな有名な配信者とコラボ出来る機会は滅多に無いし、コレが良いキッカケになってくれるかもしれない……よし!」
『コラボのお誘い、ありがとうございます!
その条件で問題ありません、宜しくお願い致します!』
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