第17話 強者
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
200cmのくーちゃんと135cmのしーちゃん、配信者デビュー! - 第17話 強者
本文
「席空いてます? あ、ありがとうございますー
後で二人来るんで。はい、お願いします」
レコーディングを終えた朱莉は青藍を伴いファミレスの一席に座る。
そしてスマホでクロに連絡を取ると、すぐにクロとシロがやって来た。
クロス・カラーズとして活動して以降、こうして共に食事をする機会もふえた。
その場合、もし並ぶ事になったらクロだとバレてしまいかねない。
朱莉や青藍と比べても有名人……というのもあるが、そもそも200cmの長身では変装するにも限界はある。
なので、まずは朱莉達が先行して席を確保してから入店するのがお決まりになった。
「しーちゃんは何食べたい?」
「ホットケーキ!」
「分かったわ。私はシーフードパスタ」
「ボクはグラタンを」
「ウチはステーキ……決まったんなら店員さん呼ぶなー」
朱莉が呼び出しボタンで店員を呼び、注文を済ます。
最年長である事、配信歴が長い事、様々な企画を立案する事、そして対人でのコミュ力もあり、朱莉はクロス・カラーズのリーダー的立ち位置に収まった。
「んで、企画なんだけどさ」
水を一口飲んでから朱莉が話を切り出す。
「ウチとしてはクロのフィジカルを推したい訳よ。
オフコラボもクロの身長やパンチの威力でバズった面もあるし」
「具体的には?」
「お手軽なのはアスレチックかな。クロス・カラーズで対決! みたいな」
「しーちゃんを引き立て役にする様な真似は許さないわ」
「いやいや違うって! ちっこい体で一生懸命頑張る姿も可愛いだろ?
それで行ったら中途半端に運動不足なウチが一番地味になるって」
「ふん……他には?」
「他は……アスリートの人とのコラボだな。
元プロ野球選手とかと対決したり。後は格闘系?」
「試合をしろと?」
「建前はスパーリングになるだろうけどな。
ぶっちゃけクロならソレが一番向いてるだろ?」
「ですが受けてくれるでしょうか? 女性でクロさんと同じ階級の人は中々……」
「んー……クロ体重どれくらいあんの?」
「80強ね」
「そりゃ厳しいな……素人とやって負けたら事だからなぁ。
体重差があればある程度は仕方ない事として割り切ってくれる、か? 最悪男しか相手にならんかも」
「別に男性が相手でも構わないわ。それこそ私より重い人でもね」
「うひょー助かるぅ! それじゃあ撮影許可出してくれそうな人やジムを当たってみるよ。
後は四人チームのFPSかな。これはウチの好みだけど。
他の皆は何かやりたい企画ある?」
「そろそろしーちゃんの可愛さと偉大さを讃えた銅像を作ろうかと思っているの」
「それは勝手にやってくれ。他には?」
「他……? 麻雀とかかしら。スマホで出来るでしょう?」
「あー、定番だしな。ウチは出来るけどシロと青藍は?」
「シロはくーちゃんから教わります」
「ルールは把握してるので格好は付くかと」
「んじゃ採用! シロがルール覚えられたらやろう。シロや青藍はやりたい事ある?」
「えっと、みんなで動物園とか行きたいですっ!」
「了解! 撮影OKなとこ探しとく」
「後はお菓子も作りたいですっ!」
「いいねー! またシロクロん家で撮影しようか!」
「ボクは変わらず歌動画を出したいです。ダンスはまだ厳しいですか?」
「ウチ等身長差エグいからなー」
「他にはファンの方と交流する機会が欲しいですね。
握手会とかサイン会が出来れば良いんですが……」
「そーゆーのにお声が掛かるレベルにならんとなぁ」
「道は険しいですね……ですが確実に前進は出来ている筈です。頑張りましょう!」
「だな。少なくともこのファミレスで奢って貰わなくても平気なレベルにゃなってるし」
にひひひ、と朱莉が笑ったタイミングで料理が運ばれてきた。
一堂は企画会議を一時中断して食事に舌包みを打つのだった。
◇◇◇◇◇
「中止だ中止! やめやめ!」
キックボクシングジム、剛拳道に怒号が響く。
リングに立つのは汗一つかかずに仁王立ちするクロ。
そして座り込み泣きじゃくる女性と、彼女を囲むスタッフ達。
「あかみこさん、この動画は出さないようにお願いしますよ!」
「そっすよねー、あははは……」
事の始まりは『クロ、格闘ジムに殴り込み! プロ格闘家に喧嘩を売る!』という企画。
クロの身長体重を伝えた上で剛拳道所属の女子プロと手合わせしたい、と事前にアポは取ったのだが……剛拳道の会長は一目でクロの実力を見抜いた。
急遽スパーリングを取り止めるように要求してきたが、それに反発したのが件の女子プロ選手。
『やらせてください! 素人に負ける筈がありません!』と、会長の制止を振り切りクロとのスパーリングを強行。
結果……クロはリーチの差を活かしたアウトボクシングで完勝した。
この企画はバズる! と確信していた朱莉としてはお蔵入りにするには惜しいが、だからこそ格闘技関係者との関係を悪化させる訳にはいかず泣く泣く動画を削除した。
◇◇◇◇◇
「どーすっかねー……」
朱莉は公園のベンチで項垂れる。
幸い座っていればクロの長身も目立たないので落ち着いたものだ。
「どうしようも無いのでは? クロさんが背が高く、体重もあるのは変えようのない事実ですし……」
青藍が半ば諦め気味に言う。
「いやでもバズる気配ビンビンすんだよー! クロはそこんとこどう思う?」
「良い匂いだわ」
「あぅあぅ……」
「いや、抱っこしてるシロの匂いを聞いてるんじゃなくてさ。
クロとしてはこの企画どうなのかなって」
「そうねぇ……正直闘争は嫌いじゃないわ。
日々の鍛錬も強くなる為にしている事だしね。
けれどこの強さはあくまでしーちゃんを守る為の物……動画で使えるなら存分に使うけど、どうしてもやりたいという訳では無いわね」
「だよなぁ……んー、嫌じゃないならまだチャレンジしたい」
「良いんじゃない」
「だとしたらやっぱり相手がなぁ……誰か居ねーかなぁ……」
朱莉はボヤきながらスマホをいじる。
そしてあるネットニュースが目に入った。
「……なぁ、もう一度確認だけど男相手でも良いんだよな?」
「えぇ。誰か居たの?」
「鎌瀬 健」
「誰ですか?」
「青藍は西条 浩太って知ってる? ボクシングで3階級制覇した」
「名前ぐらいなら」
「その西条に喧嘩売った奴。ただ階級が違う。
西条はバンタム級からフェザー級……まぁ57kgぐらいの選手。
対して鎌瀬はミドル……70kgぐらいの選手だ」
「自分より軽い相手に勝負を挑んだと」
「勿論西条は受けなかったけどな。だからこそチャンスだ。
階級差は関係ないって言ってた鎌瀬さんなら当然クロとの戦いからも逃げませんよね? とか挑発すればまず間違いなく食いつく」
「じゃ、それで」
「よっしゃ! こーゆー時はクロの怖いもの知らずは助かるぜぇ〜」
「実際怖くないもの。この程度」
「一応プロのキックボクサーなんですが……」
青藍のツッコミを聞き流しつつ。
如何に相手を怒らせ、注目を浴びる挑戦状を叩き付けるか。
朱莉の頭脳はグルグルと回転し、文章を練り始めた。
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