第18話 転がり込んだ大一番
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
200cmのくーちゃんと135cmのしーちゃん、配信者デビュー! - 第18話 転がり込んだ大一番
本文
結果として、勝負はクロの勝利に終わった。
案の定鎌瀬は挑発に乗り、勝負を受けた。
体重やリーチで劣っていても相手は女……そう思って油断していたとは当人の談。
開始早々クロの長い脚から繰り出されるカーフキックを連続で受けて足を潰され機動力を失った。
そこからリーチ差でアウトレンジから攻められ、焦れて突貫したタイミングに合わせてクロの膝が顎を突き上げた。
何とか立ち上がったもののダメージは大きく、直後にクロのブラジリアンキックをモロに受けて失神KOを喫した。
この試合の映像は事前に取り決めていたので無事に投稿。
女性ライバーが自分より軽量とは言えプロの男性キックボクサーに勝った……その事実はまたたく間に広がった。
また、当の鎌瀬はボクシングチャンピオン西条へのリスペクトを欠いた態度により味方が少なく、それが更にクロへの賞賛に繋がった。
「やはり敬愛の精神は忘れては駄目ね」
青藍はダンス動画編集の休憩がてらにコーヒーを飲みながら呟いた。
◇◇◇◇◇
「大晦日っ!?」
『えぇ、オファーを貰ったの』
珍しくクロがグループ通話をしたいと言ってきて、それに応じて出てきたのがその言葉だった。
『風神』と呼ばれる大型格闘技イベント。
大晦日、しかも全国ネットでの生放送ときた。
話題性を重視したオファーも多いので、そこは懐疑的に見られがちだが……だからこそクロに声が掛かったのだろう。
『受けんの?』
『そのつもりよ。ただ問題があって……』
「なんですか?」
『生放送という事は私の不在もバレてしまうという事』
「……はい?」
『しーちゃんが危ないわ』
『あぁ……』
スマホの向こうであかみこの疲れた溜め息が聞こえた。
つまりクロの言いたい事はこうだ。
自分が試合に出ている間、世界一可愛いシロが無防備になってしまう……と。
まさか……とは思うが(シロも小さい声で、大丈夫だよぉ……と言っている)それを本気で思っているクロに言っても無駄だろう。
「ボディーガードでも雇いますか?」
『しーちゃんが怖がってしまうわ』
『うん……』
当の本人もそう言っているのなら、ボディーガードに頼むのも難しい。
『だからね、私が試合に出ている間はあかみこと青藍にしーちゃんを預かって欲しいの』
「……え?」
『い、いいのか?』
『他に居ないじゃない。難しいならオファーは断るけど……』
『い、いや! やるよ!』
「シロさんは必ず守ります」
青藍も、そしてあかみこも驚いただろう。
冗談抜きで命よりも大切なシロを一時的にとは言え預けるなど……そこまでクロに信頼されている事に、そしてシロが自分達を怖がらなくなった事に青藍は深い感慨を覚えた。
『あぁ、それと……他にもお願いがあるの』
「なんでしょう?」
『実はね……』
◇◇◇◇◇
12月31日、大晦日。
青藍は緊張で暴れ回る心臓を必死に抑えようとしていた。
クロのお願いにより青藍とあかみこはシロクロ宅に泊まり込んでトレーニングや生活のサポートを行っていた。
我流、独学で強くなったクロだが、それは素手・着衣を想定した戦い方であってリングの上を想定した物ではない。
鎌瀬程度ならどうとでもなったが、今回の相手は流石に無策で挑む訳にも行かずグローブを嵌めてのトレーニングを行った。
……と言っても、人が多く怒号が飛び交う格闘技ジムにシロを連れていけないという事で青藍達にサポートを頼んだのだった。
出来る事と言えばミットを構えて打たれるぐらいだったが、シロの体格ではそれも不可能。
なので青藍とあかみこの2人で代わる代わるトレーニングパートナーを務めた。
また、疲労困憊のクロを気遣って生活面でのサポートも行い(費用がクロ持ちというものあり、あかみこはここぞとばかりに高い食材を買っていたが)、クロス・カラーズ一丸となってこの日を迎えたのだ。
「いよいよだな」
「はい……」
「うぅ……っ」
「しーちゃん。あとあかみこと青藍も」
「な、なに?」
「はい」
「ウチ等をついでみたいに言うのはもう慣れたけどさ……」
クロはあかみこの切ないツッコミを無視しながら三人を順番に見回して
「お願いね?」
ただ一言、そう告げた。
「任せとけ」
「もちろんです」
「が、頑張るっ!」
そしてクロは、シロの頭を撫でながら
「さぁ、行きましょう」
『続きまして! 黒き女豹、クロ選手の入場ですっ!』
クロの名がコールされると同時に会場に大歓声が上がった。
それと同時に目の前の壁が左右に割れ……
「すぅ……」
一呼吸の後……青藍の歌声が会場に響き渡った。
クロのもう一つのお願いは入場パフォーマンス。
青藍が歌唱し、シロとあかみこは応援うちわを掲げて歩く。
当初はダンスも候補に入ったが、階段のある場所でしーちゃんを踊らせられない! とクロが反対したのだ。
(あぁ、ボク……本当に大晦日に歌ってる!
全国ネットで、こんなに大勢のお客さんの前で!)
紫苑、と心の中でその名を呼ぶ。
きっと彼女は今頃歌合戦で、大人気グループ……シルバー・フック(プロダクションの社長が学生時代にアマチュアボクシングで得意のフックで銀メダルを獲得したのが由来らしい)のセンターで歌っているのだろう。
自分はあくまでオマケで、クロの好意でやらせて貰っているだけだ。
それでも、目の前には大勢お客さんがいる。
精一杯の感謝を込めて……青藍は歌い上げた。
(いつか必ず、対等な立場で貴女の隣に立ってみせる……!)
クロへの感謝と紫苑への敬愛を胸に抱きながら……
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