第3話 神様への捧げ物
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あらすじ
売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました - 第3話 神様への捧げ物
本文
その日の夜。
未だ監視が厳しいのか、今日も小春様のお部屋にお招きはされませんでした。
その代わり……と言う事なのか、物影に隠れて接吻けをして今宵の逢瀬は終わり。
物足りなさそうな、寂しそうな小春様が何処か可愛らしく感じました。
※※※※※
「はいよ、美子。今日の餌よ」
「はいっ」
翌朝、今日も滝さんから神様へのお供え物(他の方々は“餌”と呼んでいますが)を受け取りました。
思ったより声が弾んでしまい、滝さんもそれに気付いたのか怪訝そうな表情を浮かべます。
「なんだい、やけに嬉しそうじゃないか。まさか昨日サボったんじゃないだろうね?」
「そんな滅相もない! 私は確かに神様に兎をお届けしました」
「神様ぁ? あの化け物の事かい?」
「え、あ……は、はい」
「アンタねぇ、幾ら見てくれが綺麗だからって寄りによって神様かね。
罰当たりも良いとこさ。その内天罰が下るよ!」
「は、はい。気をつけます……!」
滝さんは怒った表情で今日も私の背中を押します。
滝さんは立場上、何人ものお世話係りに食事を持たせてきました。
そして、いつかは消息不明となり、また新しいお世話係りに食事を渡す……そんな事を何度も繰り返してきたお方です。
きっと今回のお叱りも私を心配しての事なのだと言う事は伝わっています。
ですが……あぁ、あぁ、不出来な後輩でごめんなさい。
きっと滝さんの言う事が正しいのでしょう。私の想いが間違っているのでしょう。
それでも……私はあの囚われた美しい神様を想わずにはいられないのです。
※※※※※
蔵の錠前を外し、ランプに火を灯しながら地下道を進みます。
お部屋のランプを灯すと、はやり今日も神様は静かに佇んでいました。
昨日と違うのは、はっきりと私に視線を向けている事。
昨日食事を取るまで無反応だったのは、油断して近付いた所を食べるつもりだったのでしょうか……などと思ったり。
「おはようございます。鯨井 美子です。本日の捧げ物をお持ちいたしました」
ゴツゴツした岩床に手と額を付けて挨拶をします。
「……」
神様はただ黙って私を見つめるのみです。
……いえ、これは観察しているのでしょうか?
「本日の供物はこちらでございます」
お盆に乗った兎の亡骸を檻に近付けます。
すると、神様は昨日のように腕を伸ばしてそれを引き込みました。
そして、その鋭い爪で肉を引き裂き骨ごと貪り始めます。
……あぁ、なんて美しいのでしょう。
残酷である筈なのに、私はその光景に熱の籠った視線を向けるのです。
「クゥ……」
「お気に召して頂けましたでしょうか?
量に関しては私の力の関係で小さい物しかお運び出来ず……」
「グルッ」
気にするな、とでも言いたげな反応。
神様は最後に兎の脚を口の中に放り込み完食されました。
「それでは、本日はこれにて失礼させて頂きます。また明日、お伺い致しますね」
※※※※※
私が神様のお世話係りのお役目を賜ってから早一週間。
人の欲とは果てしないもので、私はもっと神様に喜んで頂きたいと思うようになったのです。
「おはようございます、神様。 鯨井 美子です。本日の捧げ物をお持ち致しました」
普段は兎の亡骸が置かれているお盆。
けれど今日は兎の横に握り飯が置いてあります。
おひつからこっそり拝借したお米で私がお作り致しました。
手が小さいので握り飯も相応の大きさにしかならないのが心苦しい。
お盆を差し出すと、何時も通り兎を引き込んで牙を突き立てます。
バリバリむしゃしむしゃと肉を嚙み千切り、骨を噛み砕き。
そして最後に兎の脚をぱくり。
普段ならそれでお食事は終わりです。
ですが神様はお盆を一瞥すると、手を伸ばして小さな握り飯を掴み食し始めました。
嬉しい、という気持ちと、不敬ではなかっただろうか、という不安な気持ちが半々。
神様は兎と比べてあまりに小さいそれをあっという間に平らげて、指に付いた米粒を舐め取ります。
「い、如何でしたでしょうか……?」
「……」
神様は無言で私を見つめます。
あぁ、やはり不敬だったのでしょうか。怒らせてしまったのでしょうか。
そう思うと、この美しい御方を私の身勝手で汚してしまったような罪悪感に見舞われたのです。
消えてしまいたくなって、裁いてほしくて、ゆっくりと檻に近付いて頭を垂れました。
「みこ……」
「っ!? 神、様……?」
ですが……あぁ、あぁ、なんという事でしょう。
神様はそんな私の頭を優しく撫でてくださったのです。
その上私の名前まで読んでくださいました。
髪に血が付こうが気にならない程の歓喜に思わず涙が溢れてしまいます。
「はい! 私は美子……一目見た時から神様の神々しさに心を奪われました。
不出来な人間ではございますが、どうかこれからも神様へ尽くす栄誉を私にお与えください」
「みこ」
神様は拙いながらも私の名前を呼んで、私の涙を拭ってくださいました。
「あぁ。なんて幸せなんでしょう……私には身に余る光栄です……!」
私は更に泣いてしまいました。
その間も神様は私の頭をずっと撫でていてくれたのです。
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