第22話 私達の生きる道(終)
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました - 第22話 私達の生きる道(終)
本文
あの日から幾年が過ぎたでしょうか。
日露戦争が終結し、妖や神様が戻っては来ましたが、やはり負った傷は深かったようです。
帰ってきた喜左衛門様の一派も負傷し、数を減らしました。
こうした有力な妖の弱体化故に麗鬼様のお仕事も無くならず、安定した生活を送れたのは複雑な気分です。
時代が進み年号が大正に変わり、そして昭和を経て日本は第二次世界大戦に参戦。
戦禍が巻き起こり、世界情勢が大きく変わり……日本は敗北しました。
第二次世界大戦では妖や神様の参戦は殆ど無かったと言います。
日露戦争での傷が癒えていない。
人々の恐れや信仰が薄まり更に弱体化した。
戦場が地上から飛行機を用いた空中に変わった。
様々な理由がありますが、麗鬼様曰く……結果は変わらなかったとの事です。
妖が援護せずとも日露戦争では勝てていたし、妖が参戦したとしても第二次世界大戦での敗北は避けられなかっただろう……と。
アメリカの文化が浸透すると日本の妖は益々力を弱め、西洋妖は更に勢い付きました。
事態が動いたのは1965年……鬼○郎様の誕生です。
この漫画や後のアニメ展開で日本妖の知名度が上がり多少は盛り返しました。
ただ、日本妖が基本的にやられ役である事。
鬼○郎様を負かした数少ないキャラクターの一人がよりによって西洋妖の代表格である吸血鬼だった事で、一概に日本妖の力になっていたとは素直に頷けませんでしたけれど。
他に私達周りでの変化と言えば……女神○生の発売でしょうか。
これにより外国の妖の知名度も上がりはしましたが、東京を守護する四天王の知名度もまた上がった事で日本の妖界隈は一旦の平和を取り戻したのです。
そして月日は流れ……令和の世になりました。
※※※※※
「ただいま、美子ちゃん」
「今戻った」
「お帰りなさいませ、小春様、麗鬼様。
今お夕飯を作っていますから手を洗ってテーブルに座っていてください」
何時頃からか、お二人は一緒に妖退治に向かうようになりました。
小春様の頭脳と妖術でサポートするのだとか。
現代では妖の力は全体的に落ちていますが、例えば数多くの創作物に登場し一貫して強力な存在として描かれている吸血鬼。
サキュバスに代表される、人の欲を吸って生きる妖の力は逆に増しているそうです。
もっとも、麗鬼様の手に負えない相手は巫女さんに報告する……という構図も変わっていないので、そこまで危険な目に遭うというのも少なかったりしますが、命がけのお仕事である事に違いはありません。
対して私は戦闘に貢献出来ないので、こうして家の事をする他ないのです。
「美子……」
「美子ちゃーん?」
「きゃっ!? あの、調理中ですので……」
麗鬼様と小春様が両脇から抱きついてきました。
出会ってから100年以上……私のお二人への敬愛は変わりませんが、お二人もまた変わらずに私を愛してくださっています。
ですが漫画やドラマ等の作品に触れ、そして危険なお仕事をなさっているからか……時と場所を選ばずにスキンシップを求めてきます。
「美子ちゃん、良い匂い」
「あ、あの……お夕飯が……」
「飯よりも美子成分の補給が大事だ」
「もうっ、麗鬼様まで……」
お二人の事は好きですし、求められて嫌な気はしません。
ですが時と場合を考えて欲しいのです。
「キスして、美子ちゃん?」
「む、今日は我が先の筈だぞ」
「もう! 縛っ!」
指で印を結び呪いを唱えると、御札がお二人の手足に張り付いて動きを封じました。
私に妖術の才能はありませんでしたが、巫女さんの扱う霊術には多少適性があったようです。
と言っても術の強度は脆弱そのもの。実戦ではとても使える物ではありません。
つまり……麗鬼様も小春様も、その気になれば引き剥がせるのです。
「ん……っ」
「美子……」
それをしないのは、そうすれば私が悦ぶと分かっているからです。
何時だか小春様は仰っていました。
私には相手を支配したい、意地悪したいという加虐心が眠っているのだと。
そして、それは事実だったようです。
私よりも強く、聡明で、美しい麗鬼様と小春様。
そんなお二人を縛り、跪かせ、見下ろしている。
その光景に私は仄暗い悦楽を感じているのですから。
「ねぇ、美子ちゃん……」
「なんですか、小春様?」
「焦げ臭いわ」
「え? ……あぁっ!?」
すん、と匂いを嗅ぐと確かに。
慌ててキッチンに振り返り、グリルからお魚を引き摺りだせば案の定真っ黒こげ。
邪魔をしたのはお二人ですが、縛られたお二人に見惚れて時間を忘れていたのは私の責任です。
「とほほ……」
そんな古典的な言葉を零しながら、ふと窓から覗く街灯に目を惹かれました。
街灯。人が暗闇とその恐怖を克服した象徴。
妖の脅威を打ち倒した努力の結晶。
知恵を付けて妖を恐れなくなり、技術の発展により神に頼らなくなった……とはかつての麗鬼様のお言葉です。
そんな世で、私達は何処まで生きられるのでしょうか。
このままずっと巫女さんの庇護下で妖退治のお仕事を熟すお二人をお支え続けられるのでしょうか。
もしも人が吸血鬼やサキュバスさえも克服して巫女さんのお仕事も無くなってしまったら?
巫女さんの事情が変わって再び狙われるようになったら?
或いは老いない私達を訝しんだ人々によって正体を明かされ、迫害される可能性は?
それこそ、このお魚さんの様に真っ黒こげにされるかもしれません。
人の世の理から外れた私達にはあらゆる可能性が常に残されているのです。
「美子ちゃん、どうしたの?」
「何をそんなに怯える?」
「小春様、麗鬼様……いえ、何時までこの幸せが続くのか。
何時までこの安寧を享受出来るのか……と」
「あら、そんなの美子ちゃんが居るかぎりずっと続くわ。
監獄の様だったお屋敷も美子ちゃんと出会ってからはマシになった。
山で暮らしていた時も、美子ちゃんと居れば辛くなかったもの。
……今は麗鬼も居るしね」
「美子よ、我は人の営みを見てきた。
妖退治の仕事が無くなれば何かしらの仕事を見付ける。
用無しとなり巫女に切り捨てられたらまた山で暮らそう。
恭順の意志を示せば助かるのなら我は幾らでも奴等に頭を垂れよう。
我は美子と共に在る為ならどんな事でもする。
小春も居るのだ、何も憂う事はない」
「……はい!」
お二人がそれぞれの言葉で励ましてくれた事。
そして普段はチクチクと啀み合っていても、心の底ではお互いを認めている事に気分が晴れやかになりました。
「それにしてもお魚を焦がしてそんな事を考えるなんて……よっぽどショックだったのね。
私のお魚を分けてあげる。あーんしてあげるからね」
「む、我も分けるぞ!」
「貴女丸齧りだから骨なんて取れないでしょう?」
「な、生ゴミが減って助かると美子は言っていたぞっ!」
「……ふふっ」
それでも相変わらず私を取り合って、張り合って。
そんな何時も通りの幸せを目の当たりにして、思わず笑みを零してしまいました。
「美子ちゃん?」
「どうした?」
「改めて思ったのです。私は麗鬼様、小春様……お二人の事が大好きです、と」
完
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