第21話 取り引き
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あらすじ
売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました - 第21話 取り引き
本文
私はその出で立ちに見覚えがありました。
かつて筑摩家で会った巫女集団の偉い御方。
ですが華水と呼ばれたその人は龍青さんと雰囲気は似ていますが確かに別人で。
「……あぁ、先代は筑摩家も担当していたわね。
初めまして、今代の六条家筆頭巫女、六条 華水よ。龍青とは従姉妹なの。
部下の非礼をお詫びするわ。どうかその椅子に座って楽にしてちょうだい」
華水さんに言われるがまま私達は椅子に腰掛けます。
状況が状況なので麗鬼様も大人しくしてくれています。
「コーヒーしかなくてごめんなさいね。口に合わなかったら後でお茶を持って来させるわ」
そう言いながら差し出されたのは白く、つるりとした湯呑み……?
聞いた事があります。たしか『こうひぃ』を淹れる器で『かっぷ』と呼ばれる物です。
こうひぃはどす黒く、口を付けるには勇気が要ります。
部屋に充満していた香りの発生源はこのこうひぃなのでしょう。
ですが飲まないのも失礼だと思い、恐る恐る啜ります。
「ぴぅ……!?」
「あぁ、やっぱり……無理しないで。式神でお茶を持って来るように言伝るから。
そちらのお二人も如何かしら?」
「いらぬ」
「お気遣いなく」
「連れないわね」
「目的はなんだ? 何故我らを滅さない?」
「貴女と取り引きがしたいから。部下が手荒な真似をしてしまったけど、本来はもっと穏便に招待する筈だったのよ」
「取り引きだと? そんな事をせずとも力で屈服させれば良い。暴力をもって従わせれば良い。
巫女というのはそういう輩であろうに」
「こっちにも色々と事情があるのよ。とにかく先ずは話を聞いてちょうだい」
華水さんは少し疲れた表情で右手に持ったかっぷを掲げました。
「端的に言えばコレよ。正確にはコーヒーその物ではなく、文明開花によって西洋の文化が日本に流入している……という現象ね」
「えっと……」
けれど私は要領が掴めず、理解出来ませんでした。
私の困惑を察したのか華水さんは軽く咳払いをし……続きの言葉を紡ぎ始めました。
「西洋の文化と共に西洋の妖もまた日本に侵入してきているの。
今はまだ知名度も低いし、恐れられていないから力は弱いわ。
それこそ、日本の妖と縄張り争いになったら勝負にならない程に、ね」
「……けれどその日本の妖が今は居ない、という訳ね」
何かを察したらしい小春様が華水さんの言葉を補足しました。
「そう。力のある妖の多くは国の為に戦場に向かったわ。
今日本に残っているのは力の弱い、もしくは人間に害を成す妖ばかり。
西洋妖にとっては絶好の好機。そして何よりも問題なのは……その西洋妖の討伐を名目に『シスター』が日本での勢力拡大を目論んでいる」
「しすたぁ、とは?」
「西洋における退魔巫女……私達みたいな物よ。
それを防ぐ為には元凶である西洋妖を定期的に駆除するしかない。
……でも人を守護する妖が少なくなり、力と悪意のある妖の動きが活発化する以上、弱い西洋妖に人員を割けない」
「つまり、麗鬼にその西洋妖の退治をさせよう、と?」
「ご名答。西洋に限らず人に害を成す妖全般を、だけどね。
新人を行かせる手もあるけど、万が一西洋妖に負けてしまったらそれこそ付け入る隙を与えてしまうから」
「……今の我では上位の妖には勝てぬ」
「それで構わない。勝てる相手だけ倒して、手こずる様なら私に連絡を入れてくれれば良いわ。
貴女が妖退治を引き受けてくれるなら住む場所も用意するし、退治した数や級によって給金も支払う。
そして何より、私達退魔巫女は貴女を味方と看做す。討伐対象では無くなる。
……悪い話では無いと思うのだけれど、どうかしら?」
「……」
麗鬼様の表情は渋いです。
元より人間に裏切られ、良いように利用されてきた御方です。
そして、ご自身を封印し捕囚の身としたのが何を隠そう退魔巫女さんなのですから。
ですが、断れば此処はまたたく間に“敵陣の真ん中”に変わってしまうという事も……また理解しておられるようです。
「……美子の安全は保証されるのだろうな?」
「そこの眷属の子? えぇ、勿論よ。敵では無くなる訳だしね。
町に居れば、貴女が妖退治に出ている間も守ってあげられるわ」
「分かった……我は主に従おう」
「従うなんて……これはただの取り引き、盟約よ」
華水さんは困ったように右手を差し出して。
麗鬼様もまた、少し躊躇ってからその手を取りました。
「よろしくね、麗鬼」
「……ふんっ」
こうして、明治三七年三月十五日。
出雲の地で我らが主、麗鬼様と退魔巫女さんとの間で盟約が交わされたのでした。
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