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第百七十四話:獣人族の総決起とソイルの勇気

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あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百七十四話:獣人族の総決起とソイルの勇気

本文

ガイア総司令のもと、人類混成軍が防衛円陣を固め、必死の抵抗を続けている最中、戦場の南側から地鳴りのような咆哮が響き渡った。

「グオオオオオッ!!」

 砂煙を巻き上げ、突撃してきたのは、屈強な獣人たちの軍勢だった。

 先頭を行くのは、かつてガイアと拳を交えた『赤獅子レッド・ライオン族』の獣王ヴォルグ。

「待たせたな、竜の戦友よ! 我ら獣人族、盟約に従い助太刀致す!」

 ヴォルグだけではない。彼の背後には、これまで中立を保っていた、より好戦的で獰猛な部族たちの姿があった。

 鋭い牙と俊敏な動きで戦場を駆ける『餓狼ウルフ族』。

 しなやかな筋肉と暗殺術ごとき隠密性を備えた『黒豹パンサー族』。

 巨体と怪力で敵を粉砕する『戦象エレファント族』。

 多種多様な獣人たちが、それぞれの特性を活かした武器を手に、天竜族の群れへと雪崩れ込んでいく。

「ヒャハハハ! 神の兵器だか何だか知らねぇが、食いちぎってやるぜ!」

 餓狼族の族長、隻眼のガルフが双剣を振るい、天竜族の硬質な装甲に斬りかかる。

「遅い。貴様らの動きは、止まって見える!!」

 黒豹族の女族長、シャカが影のように背後へ回り込み、関節部分へ毒の短剣を突き立てる。

 これまでの戦いでは見られなかった、野性的で予測不能な攻撃の数々。

 画一的な動きしかしない天竜族にとって、獣人たちの変幻自在な戦法は、計算外の脅威となった。

「ヴォルグ殿! 恩に着る!」

 ガイアが叫ぶと、ヴォルグは豪快に笑い飛ばした。

「礼には及ばん! ヒカル王は我らの友だ! その友が危機に瀕している時、牙を研がぬ獣はいない! それに、あの可憐な『ソイル様』の涙を、これ以上見たくはないのでな!」

 ヴォルグの言葉に、後方で治療にあたっていたソイルが顔を上げた。

 ◇◆◇◆◇

 獣人族の参戦により、戦線は膠着状態から反撃へと転じようとしていた。

 だが、神のシステムは甘くはなかった。

『脅威度上昇。殲滅モード、レベル2へ移行』

 天竜族の背部ハッチが開き、そこから無数の小型飛行ユニットが射出された。

 それらは雨あられと地上へ降り注ぎ、無差別な爆撃を開始する。

「ぐあああっ!」

「ひるむな! 散開しろ!」

 爆発の中、一人の獣人の少年兵が逃げ遅れ、瓦礫の下敷きになっていた。 部隊からはぐれたのか、モグラ族の志願兵だ。まだ幼さの残る顔立ちだが、手にはしっかりと武器を握っている。 迫りくる天竜族の無機質な足音が、彼に近づく。

「いけない……!」

 ソイルは、反射的に飛び出していた。

「ソイル様! 危ない!」

 テラナの静止も間に合わない。

 ソイルは少年兵の元へ滑り込み、その体を抱きしめた。

「大地の守護アース・ガーディアンッ!!」

 彼女の叫びと共に、地面から堅牢な土壁が隆起し、二人を覆うドームとなる。

 ドォォォォン!!

 直後、天竜族の光線が土壁に直撃した。

 激しい衝撃がソイルを襲う。

「うぅっ……!」

 障壁に亀裂が走る。BPI強化されたソイルの防御力でも、神の兵器の直撃には耐えきれない。

 だが、彼女は決して障壁を解かなかった。

「痛くないよ……大丈夫だよ……」

 震える少年兵の頭を撫でながら、ソイルは必死に魔力を注ぎ続ける。

 かつて、獣人族の子供に拒絶された記憶。

「弱者の情けなど不要」と言われた言葉。

 それでも、彼女は諦めなかった。

(痛みを知ることが強さなら……。私は、その痛みを分かち合う強さが欲しい!)

「種族なんて関係ない! 痛みはみんな同じよ!」

 ソイルの叫びが、ひび割れた土壁を通して戦場に響く。

 その献身的な姿は、戦っていた獣人たちの心を強く打った。

「あの方を見ろ! 竜の姫が、我らの同胞を命懸けで守っているぞ!」

「我らが引くわけにはいかん! 守れ! 姫を、若き戦士を守るんだ!」

 餓狼族や黒豹族の戦士たちが、ソイルの周りに壁を作るように集結する。

 しかし、敵の数は多すぎる。包囲網が狭まっていく。

「くっ……! もう、魔力が……!」

 ソイルの意識が遠のきかけた、その時。

「ソイル!!」

 一陣の風と共に、一人の少年が空から舞い降りた。

 ユリウスだ。

 彼は、まだ未熟な飛翔魔法を無理やり使い、ソイルの元へ駆けつけたのだ。

「ユリウス君……!」

「君は僕が守る! 多元術式・障壁展開マルチプル・シールド!」

 ユリウスが杖を掲げると、ソイルの土壁の外側に、幾重もの光と風の障壁が展開された。

 レオーネ譲りの知性と、アウラから学んだ術式理論を組み合わせた、即興の複合防御魔法だ。

 帝国皇族の血筋が持つ、潜在的な魔力操作能力が、彼の知略を形にする力となっていた。竜族には及ばぬものの、その緻密な魔力構築は、人の身で到達しうる魔法の極致とも言える輝きを放っていた。

 ガガガガガッ!!

 天竜族の攻撃が、多重障壁に阻まれて弾かれる。

 だが、その反動はユリウスの華奢な体に直接跳ね返った。

「ぐっ……うぅ……!」

 口の端から血が流れる。

「ユリウス君! ダメ、君は体が弱いのよ! 無理しないで!」

 ソイルが泣き叫ぶ。

 しかし、ユリウスは血を拭い、ニカっと笑った。

「平気さ。……男の子だからね」

「それに、君との約束だ。……君が守ると決めたものは、僕の知恵で必ず守り抜く」

 幼い頃、図書館で交わした約束。

「君の体は私が守る」

「君の未来は僕が叶える」

 互いを想い合う心が、二人の魔力を共鳴させる。土の守護と、知恵の障壁。

 二つの力が混ざり合い、強固な要塞となって戦場に屹立した。

 ソイルは、目の前で必死に障壁を支えるユリウスの背中を見つめた。

 いつもは本の虫で、体力もなくて、自分が守ってあげなきゃいけないと思っていた男の子。

 けれど今、彼は誰よりも頼もしく、傷つきながらも自分を守ってくれている。

 その横顔は、いつの間にか少年のそれから、一人の男性のものへと変わっていた。

(……かっこいい。私、また好きになっちゃったかも)

 ソイルの胸が、戦場の恐怖とは違う種類の、甘く激しい鼓動で高鳴る。

「おおお……! 若き獅子たちの勇姿を見よ!」

 ヴォルグが咆哮する。

「これこそが、我らが求めた真の強さだ! 全軍、あの二人を死守せよ! 我らの未来を、決して消させはせん!!」

 獣人族の怒涛の反撃が始まった。

 ソイルとユリウスを中心とした防衛拠点は、決して揺らぐことのない希望の灯火となり、戦線を押し返していく。

 戦火が少し遠のいた一瞬の隙に、ヴォルグが豪快に笑いながら二人に近づいてきた。

「ガハハハ! いやあ見事な連携だったぞ、竜の姫よ! 以前会った時は泣き虫なお嬢ちゃんかと思ったが、立派な雌の顔になったもんだ!」

 ヴォルグは、未だに強く握りしめられている二人の手と、互いを見つめ合う熱っぽい視線を交互に見て、ニヤリと牙を剥いた。

「なんだ、我の息子を婿にやろうかとも思っていたが……すでに『いい人』がおるのではないか!?」

「えっ……!?」

「あ、あの、これは……!」

 ヴォルグの指摘に、ユリウスとソイルは弾かれたように手を離した。

 二人の顔は、戦場の炎よりも赤く染まり、耳まで真っ赤になっている。

「ち、ちちち、違います! これは戦術的な魔力供給のための接触であって……!」

 ユリウスが早口で言い訳をするが、動揺で杖を取り落としそうになる。

「そ、そうだよ! ユリウス君は幼馴染で……その、守ってあげなきゃいけない対象で……!」

 ソイルも両手をブンブンと振って否定するが、その視線はユリウスから離せないままだ。

「ガハハハ! 若いというのは良いものだな! その熱さがあれば、魔族ごときに遅れはとらんわ!」

 ヴォルグの豪快な笑い声が、戦場の緊張を和らげる。

 二人は恥ずかしさで爆発しそうになりながらも、再びそっと手を繋ぎ直した。

 その手は震えていたが、決して離れることはなかった。

 幼い恋心が、確かな絆となって、戦場に奇跡の花を咲かせた瞬間だった。

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ざつ

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