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第百七十五話:天狗の空戦と風のロマンス

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あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百七十五話:天狗の空戦と風のロマンス

本文

獣人族の勇猛な突撃により、地上戦の均衡は保たれた。

 だが、戦場の空は依然として絶望的な色に染まっていた。

「上空より敵増援! 天使型機動兵器、数え切れません!」

「対空結界、飽和します! このままでは頭上から焼き払われます!」

 空の亀裂から降り注ぐのは、天竜族の上位個体――背中に光の翼を持つ、人型に近い無機質な天使たちだ。彼らは感情を持たず、ただ効率的に地上の生命を消去していく。

 セフィラ率いる風竜部隊と、ゼファーの遊撃隊が必死に応戦しているが、数と性能の差は歴然だった。

「くっ……! すばしっこいハエどもめ!」

 セフィラが風の刃を放つが、天使たちは幾何学的な軌道でそれを回避し、正確無比な光弾で反撃してくる。

 制空権を奪われれば、地上の大軍勢もただの的だ。

 その時、東の空から、戦場の空気を切り裂くような甲高い風切り音が響き渡った。

「待たせたな、風の同胞よ! この空は、我ら天狗の庭だ!」

 雲を突き破り、巨大な飛行船団が現れた。

 それは、東方の山岳地帯を支配する『天狗族』の大船団だった。木と布、そして風の魔石で組み上げられた独特の飛空艇から、無数の天狗の戦士たちが飛び出してくる。

「空を穢す無粋な輩どもめ! 我ら天狗の風で、塵へと還れ!」

「風の理(ことわり)を見せてやれ!」

 天狗たちは翼を広げ、風竜たちですら舌を巻くような変幻自在の機動で天使たちに肉薄する。彼らが操る「天狗風」は、天使の計算ロジックを狂わせ、次々と撃墜していく。

「来たね! 遅いよ、おじいちゃんたち!」

 セフィラが歓喜の声を上げる。

 船団の旗艦には、かつてセフィラと交渉した天狗の長老が、仁王立ちで指揮を執っていた。

「ふん! バグの王(ヒカル)に貸しを作るのは癪だが、世界の終わりを指をくわえて見ているほど、我らは老いぼれておらんわ!」

   ◇◆◇◆◇

 天狗族の参戦は、空だけでなく、地上の戦士たちにも劇的な勇気を与えた。

 それは、この世界に生きる「全ての種族」が、神という理不尽なシステムに対してNoを突きつけた瞬間だったからだ。

「見たか! 天狗どもも来たぞ!」

 前線で指揮を執る人類軍の将軍が、血と泥に塗れた顔で叫ぶ。彼は亡きリヒター総帥の副官であり、その遺志を継ぐ男だ。

「空は彼らが守ってくれる! ならば我々人類は、総帥が愛したこの大地を死守するぞ!」

「応ッ!!」

 リヒターの魂を受け継ぐ辺境連合軍と、レオナルド摂政率いる帝国騎士団。かつては敵対していた二つの軍勢が、今は完全に肩を並べ、一つの巨大な盾となって神の軍勢を受け止めている。

 ガイア総司令の号令の下、彼らは一歩も引かずに戦線を維持している。

「ドワーフの意地を見せろ! 俺たちの作った武器は、神をも穿つ!」

「砲撃開始! 弾幕を絶やすな!」

 後方からは、ドワーフ族の重装砲兵隊が轟音を轟かせる。ボルタの技術供与により強化された魔導大砲が、正確無比な射撃で敵の増援を吹き飛ばす。

「エルフの叡智よ、守護の光となれ!」

「術式展開! 全軍に防御バフを!」

 さらにその後方では、イリス率いるエルフの魔導師団が、複雑な幾何学模様の魔法陣を展開していた。数千人の魔術師による儀式魔法が、前線の兵士たちに強力な障壁と身体強化を付与する。

 人類の数と組織力。

 ドワーフの技術と火力。

 エルフの知識と魔法。

 獣人の勇猛さと本能。

 竜族の圧倒的な個の力。

 そして、空を制する天狗の機動力。

「これが……ヒカル様が作りたかった世界……!」

 リリアは、メイド隊と共に戦いながら、涙が溢れるのを止められなかった。

 バラバラだった種族が、一つの目的のために、互いの背中を預け合っている。

 ヒカルが消えても、彼が遺した「絆」は、確かにこの世界を変えていたのだ。

   ◇◆◇◆◇

 激化する空戦の只中。

 セフィラの息子、リオ(13歳)は、風を纏って高速で空を駆けていた。

「ははっ! すげぇ! 天狗の連中、速いな!」

 リオは、風の竜姫の血を引くだけあって、その飛翔速度は軍団内でもトップクラスだ。だが、彼の横を並走する一人の天狗の若者は、涼しい顔でついてきていた。

 天狗族の次期族長、フウガだ。

 顔全体を覆う烏天狗の面をつけ、黒い翼を広げたその姿は、風そのもののように鋭い。

「へっ、トロいな竜の王子様は! それで本気か?」

 フウガの声は、面越しにくぐもっているが、挑発的な響きを含んでいる。

「なんだと! 俺はまだ本気出してないだけだ!」

「口だけは達者だな。……右だ! 来るぞ!」

 フウガの警告と同時に、右側面から天使の部隊が突っ込んでくる。

「ちっ!」

 リオが回避行動を取ろうとするより早く、フウガが旋回し、錫杖(しゃくじょう)を一閃させた。

 カマイタチのような真空波が発生し、三体の天使が一瞬で両断される。

「す、すげぇ……」

「見とれてる暇があったら動け! 足手まといだ!」

「言わせておけば!」

 リオとフウガ。

 種族も育ちも違う二人の少年は、空中で反発し合いながらも、見事な連携で敵を撃墜していく。

 リオが囮になって敵を引きつけ、フウガが死角から仕留める。

 フウガが風で敵の動きを封じ、リオが竜巻で吹き飛ばす。

「やるじゃねえか、天狗!」

「フン、貴様にしては上出来だ」

 背中合わせに空中に停止し、迫りくる敵の大群を見据える二人。

 その時、雲海を割って、特大のビーム攻撃が二人を襲った。

「ッ!? 指揮官クラスか!」 上位個体だ。通常の個体よりも一回り大きく、放つ魔力も桁違いだ。 回避が間に合わない。

「しまっ……!」

 リオが体勢を崩したその時、フウガが割り込んだ。

「チッ、世話が焼ける!」

 ドォォォォン!!

 フウガは自身の翼を盾にしてビームを受け止めた。

 爆煙が晴れると、フウガは空中でふらつき、その顔を覆っていた烏天狗の面が真っ二つに割れて剥がれ落ちた。

「おい! 大丈夫かフウガ!」

 リオが慌てて駆け寄る。

 そして、面の下から現れた素顔を見て、息を呑んだ。

 切れ長の瞳。通った鼻筋。汗に濡れた黒髪。

 それは、凛とした美しさを持つ、同年代の「少女」の顔だった。

「え……?」

 リオの思考が停止する。

 勝気な口調、卓越した戦闘力。てっきり男だと思っていた戦友が、まさか女の子だったとは。

 フウガは、割れた面を投げ捨て、乱れた髪をかき上げながら、バツが悪そうに舌打ちをした。

「……何見てんだよ。見世物じゃねえぞ」

「お、お前……女、だったのか!?」

 リオが素っ頓狂な声を上げる。

「……悪いかよ! 天狗の族長になるには、男も女も関係ねえんだよ!」

 フウガは頬を赤らめながら怒鳴り返す。その表情は、先ほどまでの冷徹な戦士の顔とは違い、年相応の少女の可愛らしさを覗かせていた。

「い、いや、悪くはねえけど……。その、なんだ……」

 リオは顔を真っ赤にして、視線を泳がせる。

(めっちゃ……美人じゃんか……)

 戦場の真ん中で、奇妙な沈黙が流れる。

 その隙を、上位天使は見逃さなかった。

『ターゲット確認。消去する』

 無機質な声と共に、第二撃のチャージが完了する。

「危ない! ボサッとするなバカ!」

 フウガがリオを突き飛ばす。

 だが、彼女自身は翼を傷つけられており、回避行動が取れない。

「させるかぁぁぁッ!!」

 リオが叫んだ。

 彼は空中で急制動をかけ、フウガの前に立ちはだかった。

 全身の風の魔力を解放し、竜巻の障壁を作り出す。

「今度は、俺が守る番だ!」

「リオ……!」

「リベル! 今だ!」

 リオの叫びに呼応するように、下空から妹のリベルが風に乗って現れた。

「任せて兄さん! フウガちゃん、これ使って!」

 リベルが投げたのは、セフィラ特製の「風の羽衣」だった。

 それを受け取ったフウガの背中に、新たな風の翼が形成される。

「……借りを作るのは嫌いなんだがな」

 フウガは不敵に笑い、リオの隣に並んだ。

「行くぞ、竜の王子! 二人で叩き落とす!」

「おう! ついて来いよ、天狗の姫さん!」

「姫言うなッ!!」

 二人の風が螺旋を描きながら融合する。

 緑の風と黒い風。

 異なる性質の風が混ざり合い、巨大な暴風となって上位天使を飲み込んだ。

「うおおおおらぁぁぁッ!!」

「はあぁぁぁぁッ!!」

 二人の一撃が、上位天使の核を貫く。

 敵は爆散し、空に光の華が咲いた。

「やった……!」

 リオとフウガは、空中でハイタッチを交わそうとして、手が触れる直前で止まった。

 お互いに顔を見合わせ、同時に顔を真っ赤にして背を向ける。

「……ふん。ま、まあまあだな」

「……そ、そうだな。助かったぜ」

 その様子を、下から見ていたリベルがニマニマと笑っていた。

「あーあ。兄さんったら顔真っ赤。……フウガちゃん、あとで兄さんの弱点(ピーマンが嫌いとか)、こっそり教えてあげるね」

「「よ、余計なお世話だ!」」

 戦場に咲いた、不器用な恋の風。

 それは、種族を超えた新しい時代の象徴のように、戦火の空を爽やかに吹き抜けていった。

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ざつ

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