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第百八十二話:炎の天使 vs 「冷却の波状攻撃」

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あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百八十二話:炎の天使 vs 「冷却の波状攻撃」

本文

試練の回廊、最初の関門。

 そこに立っていたのは、ヒカルにとって見覚えのある、しかし決定的に異なる存在だった。

 燃え盛る紅蓮の翼を持ち、全身から発せられる熱量はレヴィアの激情を遥かに凌駕する。しかし、その顔立ちは――ヒカルが最も愛する妻の一人、レヴィアと瓜二つだったのだ。

 感情を一切宿さぬ無機質な瞳。それはまるで、レヴィアという存在をデータとして解析し、純粋な「火力」のみを抽出して再構築したかのような、冒涜的な模造品だった。

 炎の熾天使『セラフィム・レヴィアSeraphim Levia』。

 神が配置した最初の試練は、ヒカルたちの心に最も深く突き刺さる「悪意」の形をしていた。

「なっ……!? あれは、私!? どういうことだ、ヒカル!」

 レヴィアが驚愕の声を上げる。自分の姿をした人形が、冷徹な殺意を向けてくる現実に、彼女の激情は瞬時に沸点に達した。

 ヒカルたちの脳裏に、カインの冷徹な声が響く。

『フン。神のシステムも、悪趣味な冗談がお好きなようだ。侵入者の精神を揺さぶるために、最も愛する者の姿を模倣したガーディアンを配置するとはな。ヒカル、貴様の愛が試されるぞ』

「神め……! よくも私の姿を、そんな無粋な人形に……!」

 レヴィアが激しい嫌悪感を露わにし、全身から紅蓮の炎を噴き上げる。

「ヒカル! あんな偽物、私がこの手で焼き尽くしてやる! 私の顔で、私の夫に仇なすなど、存在することさえ許せない!」

『よせ、レヴィア。奴の熱量は、貴様の激情とは桁が違う。奴の炎は、世界の理(ことわり)から来る、純粋な「消去」のエネルギーだ。感情で挑めば、貴様が消し炭になるぞ』

 カインの警告が、レヴィアの熱を冷ます。

『それに、地上の戦況を見ろ。レオーネ皇女は、今まさに帝都防衛のために全軍の指揮を執っている。彼女が必死に時間を稼いでいる間に、貴様らが感情論で自滅すれば、地上の努力も全て無駄になるぞ』

 ヒカルは唇を噛みしめる。天上と地上、二つの戦場がカインという一本の糸で繋がれている。

「排除。排除。熱量ヲ、収束スル」

 セラフィム・レヴィアが無機質な声を発すると、広場全体の魔力が一点に収束し、ヒカルたちに向かって核爆発のような熱線が放たれた。

「テラ! ヴァルキリア! 複合防御!」

 ヒカルの叫びが響くと、テラとヴァルキリアが前に出る。

 テラの揺るぎない土の魔力と、ヴァルキリアの孤高の闇が重なり、ヒカルたちを守る結界を形成した。

 ドォォォォン!!

 熱線が結界に激突し、凄まじい衝撃波がヒカルたちを襲う。テラとヴァルキリアの体から、苦悶の唸り声が漏れた。

「な、熱い……! 単なる炎ではない……! 存在そのものを焼き尽くす概念的な熱量だ!」

『ヒカル。テラの防御は続かない。奴の熱は世界の理(ことわり)から来るものだ。貴様らが愛する非線形な感情論では、この理を覆せないぞ』

 ヒカルは屈辱を覚悟でその指示に従う。

「カイン、貴様の知恵を借りたいわけではないが、論理的最適解を示せ!」

『ならば、愚かしく焼き尽くされて死ぬがいい。だが、地上で貴様のために戦う妹たち(レオーネ)の努力を無駄にするなよ。私は地上戦の指揮で忙しい。無駄な手間をかけさせるな』

 カインの皮肉な言葉は、彼が天上と地上の二つの戦場を同時に掌握し、ヒカルの命を救うことで「人類の知恵の優位性」を証明しようとしている、という最大の屈辱だった。

 ヒカルは、カインの提示する最適解を脳内でシミュレートする。

(カインの言う通りだ。熱には熱で応じれば、泥沼の消耗戦になる。ユニゾンで熱を相殺するしかない)

 ヒカルは指揮棒を構え、セラフィム・レヴィアの熱量に最も対極にある属性を指名した。

 ◇◆◇◆◇

 第1波:3元冷却包囲(ユニゾン)

「アクア! シズク! マリン! ユニゾン発動! 3元冷却包囲トリプル・クール・プレッシャーだ!」

 ヒカルの指揮棒が振るわれると、水の竜姫アクア、そしてその娘である皇女シズクとマリンが前に進み出た。

 ユニゾン参加メンバーは、 アクア(水)、シズク(水)、マリン(水)の親子。

 アクアが嬉々として前に出る。その手には、水流で形作られた指揮棒のような杖が握られている。その瞳は、いつになく生き生きと輝いていた。

「ふふっ、レヴィアそっくりの人形を、私の水で頭から冷やしてあげるなんて、最高にゾクゾクするわね! 貴女の熱すぎる頭も、少しは冷えるかしら? ……さあシズク、マリン、あの『暑苦しいおばさん』を徹底的に冷やしてあげなさい」

「ちょっとアクア! 貴様、何を嬉々として……! それに、シズクたちにまでそんな指示を!」

 レヴィアが憤るが、アクアは涼しい顔で流す。

「あら、これは純粋な戦術よ? 個人的な感情なんて、一切ないわ。」

 シズクが眼鏡を押し上げ、淡々と魔力を練り上げる。

「承知しました、母様。論理的に冷却します」

「はーい、お母様。お水いっぱいかけちゃえー」

 マリンも無邪気に微笑む。

「……貴様、『暑苦しいおばさん』って言ったわね? 絶対になんか意味深じゃない!?」

 レヴィアが地団駄を踏むが、アクアは聞こえないふりをして指揮を執る。

「展開! 絶対零度の五線譜!」

 アクアから、透き通るような青い旋律が流れ出す。それは、論理と理性によって構築された、完璧な冷却の調べ。

 クラリネットのような透明感のある低音が、空間の熱を奪い、静寂をもたらす。和音の基底(ルート)となるF(ファ)の音が、揺るぎない「水」の存在感を主張する。

 それに呼応するように、シズクの水流が純粋な知性の旋律(ヴァイオリンのような高音)を奏でる。精緻な計算に基づいたA(ラ)の音が、和音に知的な明るさと鋭さを加える。

 さらに、マリンの癒やしの水流が、全体を包み込むヴィオラのような中音域でC(ド)を響かせ、和音に深みと安定を与える。

 三つの旋律が重なり合い、一つの巨大なFメジャー(長三和音)となると、空間に青と白の魔力エネルギーが奔流となって渦を巻いた。

 それは、熱を奪う「絶対零度の協奏曲」。

「熱には、理性の絶対零度で応えるわ! BPI、上昇!」

「論理的に、貴方の活動を停止させます!」

「悪い熱は、冷ましちゃいます!」

 水と氷のユニゾンがセラフィム・レヴィアの全身に叩きつけられ、天使の装甲表面が急速に冷却され、亀裂が走り始める。

 ジュウウウウウッ……!

 猛烈な蒸気が立ち昇り、セラフィム・レヴィアの動きが一瞬だけ鈍った。

『機能、停止……。熱量ノ、制御、困難……』

 ◇◆◇◆◇

 第2波:男たちの物理打撃(連携技)

『ヒカル! 冷却された装甲の論理的脆弱性を、物理的な暴力で突け! 私は地上のレオーネに「一点集中砲火の停止」を命じた。今、地上の天使は総崩れだ。貴様の息子たちも、私の論理で動け!』

 カインの指示が、ヒカルの思考を加速させる。

「ライオス! リオ! 男の連携だ! 冷却された装甲を砕け!」

 ユニゾンに参加できない皇子ライオス(炎)とリオ(風)が、フレアとゼファーの魔力支援を受け、炎と風を纏った物理攻撃で突撃する。

「うおおお! 母上(レヴィア)の偽物なんて、俺がぶっ壊してやる!」

 ライオスが炎の剣を叩きつけ、リオが風の刃を装甲の亀裂へ打ち込む。

 その一撃は、冷却され脆くなった装甲を粉砕し、天使の内部構造を露出させた。

「見てろよ母上! 俺の炎は、偽物なんかよりずっと熱いんだ!」

 ライオスの叫びに、レヴィアは一瞬だけ表情を緩ませた。

「ふん、生意気な口を……。でも、悪くないわ」

 ◇◆◇◆◇

 第3波:3元絶対零度砲(ユニゾン)

「仕上げだ! ユリウス! 理論を実践に移せ! シズク! マリン! リベル! ユニゾン!」

 ヒカルは、レオーネ皇女の息子である軍師ユリウス(男性)に、ユニゾンではない「理論」の指揮を命じた。

 連携技参加メンバー(男性) ユリウス(知恵・理論指揮)のもの、ユニゾン参加メンバー(女性): シズク(水)、マリン(水)、リベル(風)が選抜された。若い力が空間を満たしていく。

「了解しました、父上。計算通りです」

 ユリウスが杖を振ると、複雑な魔法陣が空中に描かれる。

 その緻密な計算に基づき、シズクとマリンが水の魔力を、リベルが風の魔力で増幅。冷却された装甲の亀裂に、水の魔力を超高圧で注入する。

「論理的に、貴方の構造体を破壊します!」

「氷になっちゃえー!」

「風さんも手伝うよー!」

 注入された水が一瞬で凍結し、内部構造を膨張・粉砕させた。

 パキィィィン!!

 甲高い音と共に、セラフィム・レヴィアの左翼が砕け散る。

 キィィィン……!

 セラフィム・レヴィアは、全身から白い光の粒子を噴き出しながら、音もなく機能停止した。

「セラフィム・レヴィア、撃破! 損耗率ゼロ!」

 アクアが歓喜の声を上げる。

「ふふっ、やっぱりレヴィア(の偽物)には、私たちの水が一番効くわね! ああ、すっきりした!」

 アクアは満面の笑みで汗を拭う。

「……貴様、絶対に私怨が入っていただろう。後で覚えておけよ。絶対に焼き尽くしてやる」

 レヴィアが低い声で唸るが、アクアは聞こえないふりをして髪を払った。

『フン。論理的に、貴様の愛の勝利だ。貴様の優しさというバグは、私の知恵という名のOSでしか実行できないらしいな、ヒカル』

 カインの声が、ヒカルの脳裏に皮肉を投げかける。

 ヒカルは剣を収め、悔しさを噛み締めた。

「貴様の力を借りなければ、ここで俺たちは全滅していた。ここは素直に礼を言おう……。だが、この借りは、必ず返してやる、カイン!」

 最初の試練を突破したヒカルたちは、次なる回廊へと歩を進める。

 そこには、青い光を纏った、もう一人の「見知った顔」が待ち受けていた。

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ざつ

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