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第百八十九話:愛という名のバグ、あるいは奇跡の論証

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あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百八十九話:愛という名のバグ、あるいは奇跡の論証

本文

『エラー。エラー。論理矛盾を検出。パラメータ「愛」の演算結果が、システムの許容範囲(インフィニティ)を超過しています』

 神の絶叫とも取れるシステム音声が、虚無の空間に木霊する。

 絶対的な支配者であった巨大な眼球は、今や赤黒いノイズにまみれ、痙攣するように明滅していた。

 カインが命と引き換えに打ち込んだ「愛の演算式」。

 それは、「1+1=2」しか許さないこの世界に、「1+1は無限にもなり得る」という最強の矛盾(バグ)を強制的に書き込む劇薬だった。

「……見ろ。カインがあそこに、風穴を開けたぞ」

 俺は震える指で、神の眼球の中央を指差した。

 ノイズが走るその一点に、カインが無理やりこじ開けた論理の亀裂(セキュリティホール)がある。

 そこから、システム内部のデータ光が、まるで血のようにドロドロと漏れ出していた。

「あそこを撃てば終わる……。だが、今の俺たちの火力じゃ、まだ足りない……!」

 12元ユニゾンは強力だが、神の修復速度を上回るには、もう一段階、次元を超えたエネルギーが必要だ。

 カインがくれたチャンスは一瞬。

 どうする。何を燃やせば、神を殺せる?

 その時だった。

「あ……う……パパ……?」

 ルーナの腕の中で、ぐったりと眠り続けていた小さな皇女が、ゆっくりと瞼を開いた。

 アルテミス。

 ここに来るまでのセラフィムたちとの連戦で、その幼い身体の許容量を超える魔力を使い果たし、深い昏睡状態に陥っていた俺とルーナの娘だ。

 先ほどのユニゾンに参加できなかったのはそのためだ。だが――。

「アルテミス……! 目が覚めたのですか!?」

 ルーナが息を呑む。

 カインが開けた「穴」から逆流してくるシステム内部の光。それがまるで呼び水のように、魔力が枯渇して空っぽだったアルテミスの身体に吸い込まれていく。

 急速な魔力充填(チャージ)。いや、それ以上の過剰共鳴(オーバーロード)だ。

 パァァァァァァ……ッ!

 アルテミスの全身から、透き通るような白銀の光が溢れ出した。

 それは単なる魔力の回復ではない。

 カインがこじ開けた亀裂から溢れる未知のエネルギーを、彼女が触媒となって純粋な「輝き」へと変換しているのだ。

「ヒカル……! わかります、カインさんのデータが教えてくれています!」

 ルーナが叫ぶ。彼女の瞳にも、アルテミスと同じ光が宿っていた。

「この子は魔力を使い果たして空っぽだったからこそ、カインさんが解放したエネルギーを誰よりも純粋に取り込めたんです! 今のアルテミスなら、全ての属性を統合する『核(コア)』になれます!」

「そうか……! あいつが開けた風穴が、娘を目覚めさせる鍵になったってわけか!」

 俺の脳内に、カインが残した膨大な知識(データ)が駆け巡る。

 彼はずっと探していたのだ。神の論理を覆すための、最後のピースを。

 それが、戦いの果てに眠りについていた小さな皇女だったとは。

「パパ! わたし、まだ戦えるよ!」

 アルテミスがルーナの腕から飛び出し、俺の隣に並び立つ。

 その小さな背中から溢れる光は、他の子供たちや、妻たちのオーラをも包み込んでいく。

「ああ、頼むぞ、アルテミス! お前が最後の希望だ!」

 俺は剣を高く掲げ、声を張り上げた。

 その声は、虚無の空間を超え、次元の壁を超え、遥か彼方の地上へと届く。

「聞こえるか、地上の同胞たちよ! 人間も、竜も、エルフも、ドワーフも! 今、この世界は生まれ変わろうとしている!」

 共感能力(エンパス)を最大出力で開放する。

 俺の意識が、世界中の「命」と繋がる。

『王よ! お待ちしておりました!』

 帝都の玉座で、亡き父の遺志を継いだレオーネが空を見上げる。

『ふん、遅いぞヒカル! こっちはいつでも撃てる!』

 前線基地で、ジオとドワーフたちが魔導砲のチャージを完了させる。

『主よ、我らの祈りを!』

 大森林の奥で、エルフの長老たちが祈りを捧げる。

『あなた様にお仕えして、本当に楽しゅうございましたわ!』

 王宮のテラスで、リリアと侍女たちが涙ながらに微笑む。

 無数の「生きたい」という意志。

 喜び、悲しみ、怒り、愛。

 それら全てが光の粒子となって、天へと昇っていく。

 集まる先はただ一つ。

 虚無の中心で輝く、小さな希望の星――アルテミスだ。

「みんなの力が……集まってくる……!」

 アルテミスが両手を広げる。

 その光を中心にして、虚無の空間にいる6人の竜妃たちが円陣を組む。

 レヴィア、アクア、テラ、セフィラ、ルーナ、ヴァルキリア。

 そして、カインが開いた道とアルテミスの光に導かれ、地上から愛しい魂たちが次元を超えてリンクする。

 人間の女傑レオーネ、ドワーフの職人ボルタ、謎多きエルフの美女イリス、そして元聖女シルヴィア。

 王宮で祈るリリアも含め、彼女たちは地上にありながら、その心は今、確実に俺の隣にあった。

 竜、人間、ドワーフ、エルフ。

 種族の壁も、物理的な距離も超え、俺と魂を結び、共に歩んできた11人の最強の女性たち。

「いくぞ! 全属性、全種族、全生命の想いを束ねる!」

 俺は指揮棒(タクト)を振るう。

 11人の妻たちの愛が、アルテミスというプリズムを通過し、七色を超えた「透明な無限」へと変換される。

 11+1。

 そして、世界中の+α。

 それはもう、魔法ではない。ユニゾンでもない。

 神の定義した物理法則を書き換える、新たな世界の産声だ。

「――調律完了チューニング・コンプリート。……放てッ!!」

 俺の号令と共に、12人の女神たちと、俺の剣が一直線に重なる。

「――【天地創造・愛の賛歌ジェネシス・ファンタジア】ッ!!!」

 放たれたのは、破壊の光ではない。

 世界を塗り替える、極大の「生命の波動」だ。

 虚無の闇を食らい尽くし、神の眼へと殺到する。

『警告! 警告! 定義外のエネルギー干渉! システム許容限界を突破!』

 神の眼が、恐怖に見開かれたように痙攣した。

『強制終了(シャットダウン)を試行! エラー! エラー! 当該プロセスは停止できません! これは……これは……!』

 神が必死に展開した何重もの論理防壁が、愛の賛歌の前では紙切れのように消し飛んでいく。

 システムによる「拒絶」と、俺たちによる「肯定」が激突する。

 だが、勢いは明らかにこちらにあった。

『理解不能! なぜ、有限の生命が、無限のシステムを凌駕する……!?』

「それが『生きる』ってことだぁぁぁッ!!」

 俺は叫び、光の奔流に全ての魂を乗せて、神の眼球へと切っ先を突き込んだ。

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ざつ

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