第百九十話:終焉と再生の全奏(トゥッティ)、神殺しのシンフォニーの表紙画像

第百九十話:終焉と再生の全奏(トゥッティ)、神殺しのシンフォニー

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百九十話:終焉と再生の全奏(トゥッティ)、神殺しのシンフォニー

本文

『エラー……排除不能……しかし、論理は……絶対……なり……』

 神の断末魔は、醜悪なノイズとなって虚無の空間を掻きむしった。

 俺たちが放った【天地創造・愛の賛歌ジェネシス・ファンタジア】の光流は、確かに神の眼球を捉え、その表面を覆う幾何学的な防壁を焼き焦がしていた。

 だが、神はまだ死んでいない。

 それどころか、砕けかけた瞳孔の奥から、底なしの暗い光を溢れ出させ、俺たちの愛の光を押し返し始めていた。

『システム権限、強制執行オーバーライド。対象「生命」の定義を再設定。……感情は不要。愛はバグ。全てを、初期値ゼロへ』

 ズズズズズ……ッ!

 空間が軋む音がした。

 それは物理的な圧力ではない。「存在してはならない」という強烈な否定の意思だ。

 俺の剣を押し返す圧力が倍増する。

 繋いでいた妻たちの手が、きしりと音を立てた。

「くっ……! なんて、デタラメな出力だ……!」

 ヒカルは歯を食いしばる。

 カインが開けた風穴、アルテミスという希望の核、11人の妻たちとの魂の結合。

 これ以上ない完璧な布陣のはずだ。それでもなお、神というシステムは、この世界の「理(ことわり)」そのものとして立ちはだかる。

「負けません……! わらわたちは、もう誰かの道具ではない!」

 テラが叫び、大地の如き忍耐で結界を支える。

「そうよ! 我らはヒカルに選ばれ、愛し、愛された『個』よ!」

 レヴィアが炎の翼を広げ、押し寄せる虚無を焼き払う。

 だが、拮抗は徐々に崩れ始めていた。

 神の「論理」は無尽蔵だ。対して、俺たちの「情熱」は肉体を削って燃やす有限の炎。

 このままでは、押し負ける。

 ――パリン。

 さらに、不吉な音が響いた。

 ユニゾンの最前線で輝いていたアルテミスの光に、亀裂が走ったのだ。

「あ……パパ……苦しい……」

 幼い皇女の顔が苦痛に歪む。

 彼女はあくまで触媒だ。受け止めるエネルギーが大きすぎれば、その小さな器は砕け散ってしまう。

「アルテミス!?」

「いけません、ヒカル! このままではあの子が……!」

 ルーナが悲鳴を上げる。

 万事休すか。

 神の無慈悲な修正光が、アルテミスの亀裂を狙って収束しようとした、その時だった。

「「「させないッ!!」」」

 未完成で、けれど何よりも純粋な、複数の叫び声が響いた。

「妹をいじめるな!」

「僕たちの未来だぞ!」

「パパとママを守るんだ!」

 影の中から飛び出したのは、小さな戦士たちだった。

 ライオスが炎の剣を構え、シズクが水流の鞭を振るう。

 ソイルが泥の壁を作り、リベルが風でそれを固める。

 ノアが、マリンが、シリウスが。

 虚無の空間にまでついてきていた子供たち全員が、アルテミスを取り囲むようにスクラムを組んだのだ。

「お前たち……!?」

「パパ! 僕たちの力も使って!」

 ライオスが叫ぶ。その瞳は、俺と同じ色で燃えていた。

「ユニゾンとか難しいことはわかんないけど、みんなで力を合わせればいいんでしょ!?」

 彼らの手から、不揃いなマナが溢れ出す。

 洗練されていない、荒削りな力。

 だが、それは「計算された和音」にはない、「生命の爆発力」を持っていた。

 ジャズの即興演奏(セッション)のような、自由で予測不能なリズム。

 それが、硬直しかけていた俺たちのシンフォニーに、新たな息吹を吹き込んだ。

「……ははっ。そうかよ。親が型にはまってどうするんだ」

 ヒカルは笑った。涙が出るほど嬉しかったのだ。

 子供たちは、いつの間にか彼の背中を追い越し、支えてくれていたのだ。

「上乗せだ! 子供たちの未来エネルギーを、今の俺たちの愛にミックスする!」

 俺のタクトが大きく円を描く。

 アルテミスの亀裂が、兄弟たちの光によって修復され、より強く輝き出す。

 だが、神もまた学習する。

 『増援を確認。脅威度再計算。……消去領域、拡大』

 虚無の闇が膨れ上がり、空間ごと俺たちを飲み込もうとする。

 まだ足りない。

 神の無限に対抗するには、この箱庭の「外」にある全てのエネルギーが必要だ。

 その願いに応えるように、脳内の通信回線リンクが爆発的に開いた。

『――聞こえますか、王よ。そして愛しき娘たちよ』

 凛とした、慈愛に満ちた声。

 地上にいる聖女、クラリスだ。

『神殿の全神官、そして民衆の祈りを束ねました。……神とはシステムなどではありません。互いを想い合う、心の光です!』

 地上の聖堂で、クラリスと数百の神官たちが膝き、祈りを捧げている光景が脳裏に浮かぶ。

 彼女たちの祈りは、信仰のエネルギーを「神への服従」から「生命への賛歌」へと変換し、太い光の柱となって虚空へ送られる。

『ふふ、人間たちだけに良い格好はさせないわよ』

 続いて響いたのは、鈴を転がすような涼やかな声。

 エルフの森の賢者、そして俺の妻の一人でもあるイリスだ。

『森の木々、大地の脈動、星のマナ。エルフの全魔力をパスします。……ヒカル、私の愛もたっぷり混ぜておいたから、残さず使いなさい!』

 世界樹が輝き、惑星そのものが呼吸するように膨大なマナを吐き出す。

 自然界のエネルギーが、システムという人工物を否定するために牙を剥く。

『オレたちも忘れるなよ! 空を飛ぶ者、地を駆ける者、全ての「野生」がお前の味方だ!』

『我ら天狗の風も、王の翼となりましょう!』

 南の砂漠からは獣魔族の王が、東の山脈からは天狗の長が。

 かつては敵対し、あるいは孤立していた種族たちが、今は一つの旗の下に集っている。

 そして、最後に。

 帝都のバルコニーから、世界を震わせる大号令が響いた。

『聞けぇぇぇッ! 人類よ! 帝国臣民よ!』

 若き皇帝レオナルドの声だ。その隣には、剣を突き上げる総帥レオーネの姿がある。

『今、空の彼方で、我らが王ヒカルが、世界の終わりと戦っている! 神などいらぬ! 管理などいらぬ! 我々が望むのは、明日の朝、隣にいる家族と笑い合える未来だけだ!』

 レオーネが引き継ぎ、裂帛の気合いで叫ぶ。

『命を燃やせ! 声を上げろ! お前たちの「生きたい」という叫びだけが、王の剣になるのだ!!』

 ウオオオオオオッ!!!!!

 ウオオオオオオオオオッ!!!!!

 ウオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 地響きのような波状の咆哮。

 帝都、地方都市、寒村、戦場跡。

 4000万人を超える人類の絶叫。

 それは恐怖の悲鳴ではない。神への反逆と、生への執着が混ざり合った、魂の合唱(コーラス)だ。

 ――全パート、接続完了。

 虚無の空間が、光で埋め尽くされた。

 上から、下から、全方位から。

 星中のエネルギーが、俺という一点に集中する。

 痛いほどの愛。重いほどの期待。

 その全てが、俺の体を内側から焼き尽くしそうになる。

 だが、不思議と恐怖はない。

 俺の魂には、最愛の妻たちと、子供たちが寄り添っているからだ。

「……準備はいいか、神様」

 俺はゆっくりと、光り輝く剣を構え直した。

 タクトは振り上げられた。

 あとは、振り下ろすだけ。

「これが、お前がゴミ箱に捨てようとした『バグ』の総量だ。……味わえ」

『警告、警告、計数不能、論理崩壊、システムダウン、回避不能、カイヒフノウ、カイヒフ――』

 神の瞳が、恐怖に小刻みに震えているのが分かった。

 もはや、それは超越者ではない。ただの、巨大な「標的」。

「全軍、唱和ユニゾン!! 世界を揺らせッ!!」

 俺の絶叫に合わせて、妻たちが、子供たちが、地上の全生命が、一つの言葉を叫ぶ。

「「「【神殺しのシンフォニー・終焉と再生の全奏グランド・フィナーレ・トゥッティ】ッ!!!!!」」」

 音が、消えた。

 光すらも置き去りにする速度で、俺たちは神の懐へと突撃していた。

 レヴィアの炎が防壁を溶かす。

 アクアの氷が回路を凍結させる。

 テラの重力が核を露出させる。

 セフィラの風が道を切り開く。

 ルーナの光が闇を祓う。

 ヴァルキリアの闇が虚無を食らう。

 そして、アルテミスと子供たちの希望が、切っ先に宿る。

 シュゥゥゥゥゥウウウウウ

 ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!

 俺の剣が、神の眼球のど真ん中、カインが開けた亀裂へと深々と突き刺さる。

 硬い手応え。

 だが、その奥にある「核(コア)」――システムの中枢に触れた瞬間、抵抗が消えた。

『――愛……トハ……非効率……ナ……故ニ……美シ……イ……』

 ノイズ混じりの最期の言葉。

 それが、神の理解した「答え」だったのか。

 パリンッ……!

 澄んだ音が響き渡り、巨大な眼球がガラス細工のように砕け散った。

 飛び散る破片は、もはや無機質なデータではない。

 七色の花びらのように、あるいは雪の結晶のように、美しく舞い散っていく。

 虚無だった空間に、青い空が広がり始めた。

 無だった足元に、緑の大地が芽吹き始めた。

 システムによる強制管理が解かれ、世界が本来の姿を取り戻していく。

「……終わった……?」

 誰かのつぶやき。

 俺は剣を下ろし、大きく息を吐いた。

 全身の力が抜け、膝から崩れ落ちそうになる。

 だが、温かい腕が左右から俺を支えた。

「お疲れ様、ヒカル」

「最高にかっこよかったわよ、あなた」

 レヴィアとアクアが、涙でぐしゃぐしゃになった笑顔で俺を見つめている。

 振り返れば、妻たちも、子供たちも、みんな笑っていた。

 傷だらけで、泥だらけで、でも、どこまでも晴れやかな笑顔。

「ああ……。帰ろう、みんな」

 降り注ぐ光の中で、俺たちは互いを抱きしめ合った。

 長く、苦しかった戦いの終わり。

 そして、誰も管理しない、自由で騒がしい「俺たちの時代」の始まりを告げる、温かな風が吹いていた。

ジャンル・タグ

, , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

ざつ

ざつ

ファンタジーxSFxラブコメ 生成AIゴリゴリ使いますが、丸投げじゃないですよ。まずはフォローいただける嬉しいです。

👥 フォロワー: 11人

作者ページを見る