第5話 呪われた血
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第5話 呪われた血
本文
「それにしたって何であんな傷が……」
「妾は時として兵を率いて戦う身じゃ。
傷の一つや二つ付き物というもの。防御魔法も不得手じゃしな」
「いや、戦場での怪我だけじゃないですよね!? あの怪我はどっちかっていうと拷問みたいな……」
「戦場に出ていれば捕らわれる事もある。
そして、捕虜が拷問にかけられることはそう珍しい事でもない。
ザフィアが全身傷だらけで右腕を失ったのも、捕虜となった妾を救う為に敵本陣に切り込んだからじゃ」
「ですがエステル様は王族です。いくら捕虜になったからって……」
「妾は魔族との混ざり者じゃ。寧ろこの血脈でありながら敵軍に捕らわれても直生き永らえているのは王族という身分故じゃな」
「魔族? 混ざり者……?」
日本に居た頃には聞き慣れない言葉に伊織は首を傾げる。
「魔族とは奴隷の種族。混じり者とは人間と他種族の血が混ざった存在を指す。
妾はな、この世界では忌み嫌われる混血児なのじゃ」
「忌み嫌われるって……どうして?」
「分からぬ。遥か昔から混ざり者は不浄な存在として扱われてきたが……その起源はハッキリとせん。
ただ、昔からそうだったから今も嫌っている……というのが実情のようじゃ」
「では魔族は? さっき奴隷の種族と言っていましたが……」
「こちらは理由がハッキリしておる。かつて魔王が侵略して来た際に、魔王に味方したのが魔族じゃ。
魔王や悪魔に加勢し、他種族を支配し奴隷として扱っておった。
その魔王が討たれ、後ろ盾を失った魔族は他種族から逆襲され……今日まで奴隷として扱われておる。事実妾の母上も奴隷じゃった」
衝撃的な事実だったが、なるほどとも思ってしまう。
それほどまでにエステルは父王や弟妹と容姿が違いすぎた。
「では魔族とのハーフというのは……」
「混ざり者というだけで迫害の対象となるのに、その上片方は魔族となればな。
本来なら産まれたその場で縊り殺されても仕方ない立場なのじゃ。
それでも今妾がこうして王族を名乗り生きていられるのも父上の愛あって事なのじゃよ」
「愛ですって……? あの態度でっ!?」
「少なくとも最初は愛してくれておったそうじゃ。
物心付く前の事なので人伝ではあるが……母上は奴隷の身分から解放されたし、妾の事も認知しておったからの。
しかし……周囲がそれを許しはしなかった。
母上は暗殺され、父上はおかしくなったのか妾を守る為か……今のように辛く当たる様になったのじゃ」
「そう、だったんですね……」
「イオリは魔族や混ざり者の事を知らなかったのじゃな。
ふふ、道理で何の躊躇いも無く妾の配下になると言った訳じゃ」
「それは違いますっ!」
エステルはやれやれ、といった具合に肩を竦めながら苦笑して。
伊織は思わずその細い肩を掴んで声を荒げた。
「例えエステル様の血筋がこの世界で蔑まれる物であったとしても、異世界生まれの私には関係ありません!
きっと知っても知らなくても、エステル様は私の運命の相手でした!」
「う、む……っ⁉︎ そ、そうなのか……?」
「はい! 断言しますっ!」
「そう、か……ふふ、他ならぬイオリの言葉じゃ、信じるとしよう」
伊織の勢いに気圧されながらエステルは微笑む。
その笑顔を見て伊織も我に返り……掴んでいた肩から手を離した。
「あ、す、すいません……つい」
「いや、構わぬよ。運命の相手を自称するなら肩に触れたぐらいで取り乱すでない」
「は、はい……」
「さて、お話も纏まったところで本題に入りましょう。
まずイオリ様はこの服に着替えてください。何時までも異世界の服のままでは悪目立ちしてしまいますからね」
「だからってメイド服を着るのは……」
「体格的に私の服しか着れないでしょう?」
「それはそうですけど……はぁ、分かりました」
伊織はミレーヌから服を受け取り着替え始める。
友達が働くメイド喫茶に行った事はあるものの、自分がこうしてメイド服を着るのは初めての事だった。
「意外と良い身体をしているのですね?」
「一応競技者だったので……これで大丈夫ですか?」
「えぇ、お似合いですよ。後はザフィア様を待つだけですが……」
ミラーヌがそう呟いた矢先、部屋の扉がノックされた。
「姫様、ザフィアです」
「入れ」
エステルが入室を許可すると、ザフィアが頭を下げて入って来た。
「失礼します。……ミレーヌから今日は姫様の部屋で会議がしたいと言われて来たのですが」
「流れで色々とな。うむ、では始めるとするかの。
各々席に着くがよい。ミレーヌ、お茶を頼む」
「かしこまりました」
ミレーヌは恭しく礼をしてお茶の支度を始める。
その間に伊織達は部屋に設置されたティーテーブルを囲うように着席する。
「さて、目下するべき事は?」
「細かい事で良いのであれば……イオリ様の生活環境を整える事ですね。
イオリ様、この世界に呼ばれた時に待たされたお金は残っていますか?」
「銀貨一枚も手を付けてません」
お茶を配り終えたミレーヌが着席しながら問い掛け、伊織は答えた。
この世界に来てすぐにエステル達と出会ったので使う暇すら無かったのだ。
「ならば生活に必要な物は揃えられるかと。
いつまでもメイド服という訳には参りませんし。
この後買い出しついでに買っていきましょう。この街の地理も説明致します」
「お願いします」
「他には?」
「では私から」
「申してみよ、ザフィア」
「イオリの生活準備が整ってからですが、イオリのスキルの検証と戦闘訓練をしたく思います」
「戦闘訓練……」
「姫様の任務は危険が付き物だ。
レオマーリとの戦闘、領地に出没した魔物の討伐、他種族との小競り合い……」
「待つのじゃザフィア。確かに妾はこの実力を見込まれて危険な任務を任されておるがのう?」
エステルはふんす! とドヤ顔。
しかし直後に心配そうに伊織に目を向ける。
「だからこそ、任務にまで付いてくるようにと強制は出来ぬ。
イオリとて領地に留まったままでも出来る事はあるじゃろう」
「やります」
「ぬ……?」
「正直喧嘩には自信無いですし、このバット……棍棒って呼ばれるコレですけど。
これは人を殴る道具では無いので、何があっても絶対にこれで攻撃は出来ません。
ですが、身を守る事に使うなら許容範囲、だと思います。
そして、少なくとも出会った時のように落ちてくるエステル様を安全に着地させる事は出来ます。
それならば、身を守る手段を覚えて任務に付いていく意義はあると思います」
「そんなにしょっちゅう落ちている訳では無いわ! しかし、ふむ……」
伊織はジッとエステルに見つめられて、しかし決して視線を外さなかった。
「……良かろう。イオリの覚悟と忠誠に感謝する。
ザフィア、ビシバシしごいてやれ」
「お任せください。最短で仕上げさせます」
「だそうじゃ。一日で音を上げてくれるなよ?」
「頑張ります……!」
野球部の練習とどちらが辛いだろうか、などと考えながら。
それでも伊織の目には確かなる意志が灯っていた。
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