第6話 バントとは?
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第6話 バントとは?
本文
「ふっ!」
「バントぉ!」
ザフィアが振り下ろした剣にバットを合わせると、コンッと軽い音を立てて剣が宙を舞った。
生活環境を整えた翌日。
伊織はザフィアに戦闘訓練とスキルの検証を手伝ってもらっていた。
「ふむ、強く握っていても強制的に手から離れて飛んでいってしまうな。
そうやって武装解除した隙にバットで殴れれば良いんだが」
「あの、それでも私はバットで誰かを殴るのは……」
「分かっている。姫様もそれを了承している以上は私もとやかく言うつもりは無い。
そうだな……イオリは姫様の防御を担当する事になるだろう。さて、検証を続けるぞ」
「はい!」
次はバットに軽く剣を触れさせる。
剣は先ほどと同じように弾き飛ばされた。
「勢いに関係無く飛ぶのか……? 私が触れてみるぞ?」
ザフィアが触れると、その身体がふわりと浮き上がる。
ただ流石の見のこなしでくるりと回転し、両足で地面に着地した。
「おぉ」
「ザフィアさん、大丈夫ですか!?」
「問題無い。ふむ、姫様の件で分かっていたが人体にも作用するのか……よし、では次だ。
この紙を丸めた剣を防いでみせろ」
「はい!」
「行くぞ」
すぅ、とザフィアが目を細めて剣を構える。
紙を丸めただけの獲物だというのに、その佇まいは真剣勝負のそれだ。
「はっ!」
ザフィアが剣を振り下ろす。
伊織はそれを受けようとバットを掲げ……剣が軌道を変えてイオリの脇腹を捉えた。
「あう!?」
「自動で迎撃してくれる訳では無い、と。防御訓練を重点的にせねばな」
「は、はい……」
「次は遠距離攻撃だ。この石を投げるからバットで防ぐんだ」
「はい……!」
ザフィアが下手で放り投げた石をバットに当てると、それも打ち上がる。
その後、魔法を防いだり体勢を変えて検証。
結果として、魔法も跳ね返せたし、バットを両手で握っていなくても『バント』は発生した。
「落とすぞ」
「はい……!」
次は落下物への検証。
枕を落とされ、それをバットで迎え撃つ。
これも『バント』が発生した。
「反発力の低い枕でも打ち上がったな。物体の重さや硬さに関わらず浮き上がる高さは一定という事か。
よし、次は私が落ちるぞ」
「えぇ……!?」
「空から落ちて来た姫様も救ったのだろう? それなら問題は無い筈だ。構えろ」
「は、はい……!」
ザフィアがテラスの手すりに足をかける。
そのまま伊織に向かって宙に舞う。
「『バント!』」
落下しながらバットにふれたザフィアは先ほどと同じくふんわりと打ち上げられて……背中から芝生の上に落ちた。
「……ふむ」
「どうですか?」
「恐らく衝撃はバットに触れて打ち上がり……そこから落ちるもののみらしい。
どれだけ速い物が触れても、ある程度は勢いを殺せるという事か」
「そのおかげでエステル様も助けられましたから」
「他に検証すべきは……イオリ、この剣を持て」
「はい……?」
「行くぞ」
ザフィアは剣の鞘を伊織が握る剣に触れさせる。それには何も変化は起きなかった。
「ふむ……あのバットじゃないと駄目なのか。
或いはイオリがバットと認識していないと駄目なのか……木工職人に作らせてみるか……?」
「ザフィアさん?」
「いや、それは後で良いな。次は……バットであの木に触れてみろ」
ザフィアはテラスから少し先にある木を指さした。
「はい……『バント!』」
「流石に飛んで行かないな」
「うぅん……動いていないと駄目なんでしょうか?
それとも根を張ってるから? 飛ぶイメージが無いから……?」
「……何をしとるんじゃ? 新手の特訓か?」
「エステル様!」
「姫様、どうされましたか?」
「父上から指令が下った。準備せよ」
「急ですね……内容は?」
「ゴブリン退治じゃ」
◇◇◇◇◇
ガラガラと揺れる馬車の中。
エステル一行は膝を突き合わせて地図を広げている。
「我々が向かっているのは王都、アゼルロートから南西にあるメイネルという町じゃ。
その町の近くにある放棄された砦にゴブリンの集団が住み着いたらしい」
「ゴブリンと言うと……子供並の背丈で緑の肌の?」
「おぉ、詳しいではないか! イオリの故郷にもゴブリンが居たのか?」
「いえ、そういう訳では……ただ架空の物語によく登場するんです。
地球にはエルフもゴブリンも魔法も存在しませんよ」
「ふむ、それが何故強力なスキルを伴ってこの世界に転移してくる事になるのやら。
まぁ、それは今は良い。問題はどうやってこの事件を解決するか、じゃが」
「普段通り姫様の魔法で吹き飛ばしては?」
「ならぬ」
こともなげミレーヌが恐ろしい事を口走り、しかし即座にエステルが否定した。
「既に幾人もの住民が連れ去られているらしい。
砦ごと吹き飛ばしては、攫われた者の命が危ぶまれる。そもそも砦も我が国の財産じゃ」
「ではどうするのです?」
「それを考えるのはザフィアの仕事じゃ」
「そうですね……」
話を振られたザフィアは顎に手を
やり考え込む。
そしてややあって口を開いた。
「そうは言っても相手はゴブリンです。
砦の外に誘き出すぐらいはしますが、そう複雑な策を弄する必要も無いでしょう」
「そうじゃな。まともな情報なぞ求められぬし、人命を優先しつつ正面から向かうのが手っ取り早いじゃろう」
エステルはうむうむ、と腕を組ながら頷き、ザフィアとミレーヌも極リラックスした様子で同意した。
「……フラグでは?」
そんな中、伊織は不安そうにポツリと呟いた。
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