※ 第7話 ゴブリン
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - ※ 第7話 ゴブリン
本文
「よくぞ来てくださいました! まさかエステル様直々においでなさるとは!
私、メイネルの町長をしております、ウォールと申します」
「うむ。出迎え感謝する」
エステルとウォールが言葉を交わす中、町中から降り注ぐ視線がエステル一行に突き刺さる。
「よりによって……」
「軍隊はどうしたの⁉︎」
「混ざり者め……」
(うわぁ)
住民の反応に伊織はウンザリした。
仮にも助けに来た王女に向かって、住民達は差別的な視線を投げかけて来る。
ミレーヌやザフィアが忠誠と敬意を向けているので実感し辛かったが……この世界でハーフという存在はこうまで露骨に差別されているのか、という事を目のあたりにした。
「割ける戦力は?」
「それが……軍の方から兵は全て防衛に当てろとの命令が……」
「そうか……承知した。ならば妾達だけで向かおう。
しかし救助者運搬の為の馬車と、事を終えた後の清掃は手配して貰いたい」
「承知致しました。すぐにでも」
「うむ。……では妾達は行く。
皆の者、これまで良く耐えた。お主らの家族、友人は必ず助け出す故、待っておれ」
「は、はい!」
住民達に見送られながら、一行は馬車に乗りメイネルの町を出た。
このまま砦に向かう訳だが、伊織の胸中にはモヤモヤが渦巻いている。
「エステル様」
「うむ?」
「王女が戦いに向かうのに、兵の1人も付けないなんて……そんな事有り得るのでしょうか?」
「ふむぅ……相手がゴブリンだから、と言われれば納得は出来るのぅ。
それに我等から逃げたゴブリンが町に向かわんとも限らぬ故な」
「それはそう、ですが……」
「何じゃ、他にもまだあるのか?」
「その……王族で、助けにきてくれた人への感謝が感じられないと言いますか……」
「混ざり者とはそういう存在じゃ。イオリが気に病む事は無い」
「ですが……」
「昨日も言ったが妾は他の混ざり者より恵まれておる。
少なくとも生活に不自由はしとらんし……何より運命の相手が居る。
イオリが自分で言った事じゃ。妾の運命の相手だという自覚を持て。
どうにもならん事に憤るより、妾を守り、笑わせる事に注力せよ。分かったな?」
「ふぁい」
エステルに頬を抓られ、変な返事をしてしまう。
その様子が面白かったのか、エステルはくふふと笑いながら伊織の頭を優しく撫でた。
「さてザフィア、改めて作戦内容を教えてくれるかの?」
「はっ! まずは姫様の魔法で威嚇し、砦から出て来た相手を狙います。
敵が砦に篭ったら、私、姫様、イオリ、ミレーヌの陣形で突入します」
「私が真ん中で良いんですか?」
「イオリは今回が初陣だし、相手がゴブリンだからな。
奴等は背が低く、故に足元を狙ってくる。慣れない内は後ろに下がっていろ」
「はい、すみません……」
「仕方あるまい。本来ならもっと訓練を積んでから出るべきなのじゃからな。今はとにかく自分の身を守る事に留意するのじゃ」
「はい……!」
「よしよし。さて、そろそろかの」
馬車が止まり、一行がそれぞれ下車する。
砦はまだまだ遠く、ここからは徒歩で向かうらしい。
「御者よ、ご苦労じゃった。後は手筈通り、赤い閃光が上がったら迎えにくるのじゃ」
「はっ! ご武運を!」
馬車を見送り、砦を見やる。
長らく放置されていたので外観こそボロボロだが、その規模は中々の物だ。
「では行くかの」
ザフィアを先頭に砦へと進む。
敢えて発見させて誘き出すのが目的の為、堂々とした進軍だ。
「グギャッ!? ギギギ!」
城壁の上で見張っていたゴブリンが血相を変えて奥に引っ込んだ。
それから少しして、砦からワラワラとゴブリン達が出てきた。
「まずは上の掃除からじゃな。『ビ・グル!』」
「ゲギャァッ!?」
エステルが呪文を唱えると、右手のワンドから一筋の雷が迸り、城壁の上で弓矢を構えていたゴブリン達に直撃した。
「『ル・ク・レルガ!』」
続いて扇状に広がる炎で出てきたゴブリン達を一掃。
焼け焦げた不快な臭いが辺りに充満する。
慌てて撤退するゴブリンを背後からビ・グルで狙い撃ち、出てきたゴブリンの9割はエステルの魔法で一掃されていた。
「こんな物じゃな。まったく、砦も中の住民も傷付けずに事を成すのは存外に気を使うのぅ」
「ですが姫様は実際にそれを成されております。お見事と言う他ございません」
「くふふ、そうじゃろうそうじゃろう! さぁ、砦の中に突入じゃ!」
ミレーヌに褒められ上機嫌のエステル。
その勢いのまま砦の門扉まで走る。幸いにも(ゴブリンがものぐさだから腕力の問題かは分からないが)門は開いたままなので進入は用意だ。
「グギャッ!」
「ほっ、『ビ・グル!』」
エステルは放たれた投石を避けながら反撃。
直接斬り懸かって来た相手はザフィアが切り捨て、背後からの強襲はミレーヌが対処した。
「……戦い慣れてます?」
「以前言ったであろう? 妾は数多の戦場を潜り抜けて来たと。
ゴブリン程度なら目を瞑っても倒せるわ」
「凄いです……」
伊織は素直に感心した。
だが、砦の門から少し進んだところで異変が起こる。
「グギャッ!」
「ギギィッ!」
「む?」
奥から出てきたのは人並みな大きさの影。
子供程のゴブリンと比べると遥かに大きく、体格も良い。
「あれは……ホブゴブリン!? どうします!? 一度態勢を立て直して……」
「『ビ・グル!』」
「ふんっ!」
「グオオォォォォォォッ⁉︎」
「グル、グァ……」
「……わぁ」
怯えて撤退を進言した伊織を尻目に、エステルとザフィアはいとも簡単ホブゴブリンを斬り捨てた。
そのあまりに躊躇のない行動に伊織は開いた口が塞がらない。
「要は図体のデカいゴブリンじゃからな。
しかしイオリはやけにゴブリンを恐れておるの。
イオリの世界ではそんなにも恐ろしく描かれておるのか?」
「そう、ですね。いつの頃からか、ゴブリンには舐めて掛かった初心者パーティを返り討ちにするってイメージが当たり前になりましたね。
そして女性の場合は囚われて、その……」
「皆まで言わずとも良い。確かにゴブリンは人間の女との間に子を成す。
オーク等も同様の生態を持っておるな。故に、まだ生きていると踏んでこうして慎重に救出に当たっているのじゃ」
「ですが順番を違えてはいけません。
奴等は人質としての価値も理解しているので、早々に殺すという事はありません」
「分かっておる。故に地下牢は後回しじゃ。弱っている捕虜を守りながらは戦えぬ。まずは掃討してからじゃ」
「はっ!」
「はい!」
一刻も早く被害者を救出したいと思いつつ。
それでもエステルの判断は的確だ、と思った。
伊織も日本での漫画知識しか無いが、ゴブリンといえば繁殖力も高い種族だ。
半端に残してもまた数を増やして人々を襲うだろう。
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