※ 第8話 お姫様
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - ※ 第8話 お姫様
本文
「ザフィア、この砦の構造は?」
「1階と2階、そして地下牢です。中の構造も複雑な物ではありません」
「よし、まずは一階を掃討してから2階に行くぞ」
「はっ!」
エステルが命じ、そのまま進軍。
相手のゴブリンはと言うと、奇襲も効かないし頼みの綱のホフゴブリンですら瞬殺される始末。
最早抵抗する気概もなく、逃げていく背中をエステルとザフィアの魔法が的確に魔法で撃ち抜いていく。
「1階、掃討完了!」
「よし、2階に行くぞ!」
再度エステルが命じ、階段を駆け上がって行く。
階段を登りきり廊下に出ると……
「大砲とは小癪な。ミレーユ!」
「はっ! アイス……」
階段に向けて砲の照準が向けられ、それに対処しようとエステルがミレーヌに命じた瞬間。
彼女の脇から決死の表情を浮かべた伊織が飛び出してきた。
「バントォ!」
バットを前に突き出し、放たれた砲丸に触れて……砲丸はふわんとした挙動で宙を舞い、ドスンと鈍い音を立てて落下した。
「ギギィ⁉︎」
「グギャッ⁉︎」
「『ビ・グル!』」
「ライトニング!」
「「ギャァァアァァァッ!!」」
奥の手の大砲すらも塞がれ逃げ惑うゴブリン達をエステルとザフィアの魔法が次々に打ち抜いて行った。
「あ、あの……私、余計な事しました、よね?」
一段落して。
恐る恐る、言った様子で伊織が問い掛ける。
エステル様を守らねば! と思わず飛び出したが、それと同時に当のエステルがミレーヌに指示を出していた。
きっと自分がしゃしゃり出ずとも大砲の1発や2発でどうとでも出来たのだろう、と思い到ったのだ。
「お主の忠誠と献身が余計な事などあるものか! 胸を張るのじゃ、イオリ」
「は、はい! ありがとうございます!」
エステルが伊織の両手を取り、笑顔で褒め称える。
伊織は見た目や言動は子供っぽいのに威厳溢れるその威風に思わず感動しつつ、それでもやっぱり可愛いとも思いつつ。
「しかしバット以外の箇所に当たっていたら大惨事だった。
今後まだ十分な訓練も受けていない状態での無茶は控えるように」
「は、はい……!」
ザフィアにキッチリと釘を差され、伊織は今一度気を入れ直す。
エステルの方もそれに異論は無い様で、うむうむと頷いていた。
◇◇◇◇◇
「いよいよ地下へ突入する。皆、覚悟は良いな?」
「はっ!」
「フォローは万事お任せください」
「が、頑張ります……!」
三者三様の答えにエステルは満足そうに頷いた。
2階の掃討も終わり、残す所は地下牢のある収容施設。
十中八九残りのゴブリン……そして連れ去られた住民達が居るだろう。
「では、行くぞ!」
エステルの号令で伊織達は地下へと降りて行く。
階段を降りてすぐ、鉄格子が嵌められた牢がズラリと並んでいた。
「これは……酷いな」
「はい。この様な非道は到底許せる物ではありません」
前衛のザフィアとエステルが顔を顰めながら呟く。
牢の中に居たのは女性ばかりで、その殆どが暴行を受けたのか酷い有様だった。
「ギギィッ!」
「た、助けて……っ」
ゴブリンの鳴き声とか細い悲鳴。
一向の前には手足を鎖で拘束された女性達。
そして彼女に短剣を向ける複数のゴブリン。
「ギギャ! グァッ!」
「人質を殺されたくなかったら投降しろ、と仰っています」
「ミレーヌさんゴブリンの言葉分かるんですか……!?」
「概ね。フィーリングですが」
「あ、はい……」
あんな動作をしていれば誰でもそう判断するのでは……という言葉を飲み込みつつ。
それでも切迫した状況なのは確かなので、伊織は不安気にバットをギュッと握り締める。
「ど、どうします……?」
「決まっておろう……『ビ・グル!』」
「ライトニング!」
「アイスアロー」
「ギギャァアァッ!!」
伊織の問い掛けにエステルが即答し、その答えに呼応して三人の魔法が武器を突き付けているゴブリン達へと炸裂した。
「い、良いんですか!?」
「奴等の要求を呑んだ所で事態が好転する事は無いからの。そら、武器を動かした者から狙うぞ?」
「グギィッ!」
「ギギャァッ!!」
エステル達が本気だと判断したのか、ゴブリン達は一目散に逃げ出し……しかし背中を見せた隙を見逃す筈もなく、一方的とも言える戦闘が展開された。
「ギィ……ッ!」
「残るはお主1人じゃぞ?」
「ギアァ……!」
「ひぃ……っ」
最後に残ったゴブリンは見せしめのつもりか道連れにするつもりか……1人の女性に向かい短剣を振り上げる。
それが降ろされる直前にはもうエステルのワンドはゴブリンを向いており、今すぐにでも殺せる段階……だった。
「ピィィィィッ!」
「む?」
横から小さい影がゴブリンに体当たりし、揉みくちゃになる。
ただゴブリンよりも更に小さいその生物では抑え込む事は叶わず、ゴブリンはその生物を突き飛ばして再び人質に刃を向ける。
「させない……っ!」
しかし伊織の盗塁の為に鍛えたダッシュ力と隙を突く観察眼により急接近し、伸ばしたバットが短剣に触れる。
ふわりと短剣が舞い上がり、次の瞬間にはザフィアの剣によってゴブリンの首が胴から切り離された。
「……ふぅ」
「イオリ、よくやってくれたのじゃ」
「い、いえ! 何とかなって良かったです。それよりさっき手伝ってくれた子は……」
「ピィ……」
鳴き声の方向に目を向けると、そこには小柄な少女が怯えるように震えていた。
パッと見は人間に見えるが、瞳や牙、爪など所々に人間とは違う特徴が見える。
「えっと、あの子は……」
「やめて、あの子を殺さないでっ! 私の子なの……!」
「え……?」
半狂乱に声を上げたのは先程まで人質にされていた女性。
伊織は事態が掴めず困惑していると、んんっと咳払いしながらミレーヌが口を開いた。
「あの子はゴブリンプリンセスですね」
「ゴブリン、プリンセス……?」
「通常ゴブリンは人間と交わり、子を成すというのは先ほど言った通りです。
そしてその殆どが男性……ゴブリンとして生まれるのですが、極々稀に人間に近い容姿の女性が生まれる事があるのです」
「それがゴブリンプリンセス……」
「ちなみに似たような生態を持つオークにもプリンセスが誕生する事はあるそうです」
「それじゃああの子はどうなるんですか? まさか……」
「お願い! この子は何も悪い事なんてしてないの!
寧ろ私達を気に掛けてくれてた! 他の人にも聞いてみてよ……!」
「エステル様……」
まだこの世界に来たばかりの新参者だが、少なくともこの子は殺されなければならない様な存在では無いと伊織は思った。
当の被害者である女性が嘆願しているのだから尚更だ。
自身が従者の立場であると言うのは重々承知しているが、それでも伊織はエステルに縋る様な視線を送ってしまう。
「うむ、あい分かった。その子も町へ連れていくぞ!」
「エステル様……!」
「ありがとうございます、ありがとうございます……っ!」
「感謝される程の事では無い。これは妾のエゴに過ぎんのじゃからな。
……さぁ、各々鍵なり剣なり魔法なりで住民達を解放するのじゃ!
無事に町まで送り届けるまでが妾達の任務なのじゃからな!」
「はっ!」
「すぐに」
「わ、分かりました!」
「イオリは妾と此処に残れ。万が一1人の時に生き残ったゴブリンと鉢合わせても困るからの」
「あ、はい」
格好が付かないな、と思いつつ。
本当にゴブリンと1人で対峙したらビビり散らかす自信しか無いので伊織は大人しく頷いた。
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