第9話 この世界に生きる者達
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第9話 この世界に生きる者達
本文
「コノコ、デスカ?」
「うむ。人間社会に触れた事が無いのでな。
母親だけではゴブリンの世話も苦労するじゃろう。
故に、お主達にもフォローを頼みたい」
「オマカセクダサイ、エステルサマ」
「ありがとうございます、エステル様。なんとお礼を言って良いか……」
「礼ならこれから世話になるブレーガム商会にするのじゃ。
妾が民の為に働くのは至極当然の事なのじゃからな」
ではの、とエステルは軽く手を振って遠巻きに見ていた伊織達と合流した。
あの後、馬車を呼んで被害者をメイネルまで送り届けた。
しかしゴブリンプリンセスとその母親にはフォローが必要だ、という事でエステルが向かったのは……
「ゴブリン、ですよね?」
「はい、ブレーガム商会の方々です」
「……ゴブリンですよね?」
それでも事態が呑み込めず、再度書き直す伊織。
何しろ目の前に居たのは先程まで討伐していたゴブリンと同じ種族なのだから。
ただこちらのゴブリンはキッチリと服を着て、人語を話し、そして礼儀正しかった。
「そう不思議な事でもあるまい。人間だって王族から盗賊まで居るのじゃ。
ゴブリンにだって人語とルールを覚え、人間社会で生きる者も居る。
まぁ、野盗の様な連中が大半というのは否定せぬがな」
「はぁ……」
戻ってきたエステルが人間を例に挙げて説明する。
なるほど確かに、と伊織は納得した。
「私の故郷だとゴブリンは悪者のイメージなのでビックリしました。
それにブレーガム商会?っていう組織の方々なんです、よね?」
「そうじゃの。ゴブリンはとにかく子沢山でな。
通常は商会内であっても利益を出す為に相手を蹴落とすものじゃが……初期のブレーガム商会はメンバー全員が会長の息子……所謂家族経営故にそうした揉め事は起こらず着実に組織を大きくしていった。
会長の奥方がバシバシと物を言う豪傑だったのも良かったのじゃろうな」
「あぁ、そっか。良いゴブリンとなら恋愛結婚する人も居るんですよね」
「ゴブリンとなら生まれるのは基本的にゴブリンじゃからな。混ざり者として蔑まれる事も無い」
「エステル様……」
「くふふ、実を言うとな? ゴブリンやオークは人間……多種族と交わり子を作る生態だからか、妾の様な混ざり者に対する偏見や差別意識が薄いのじゃ。
妾にプロポーズする者も居ったぞ? その若造は父親から拳骨を喰らっておったがの。
王女様になんたる無礼を! とな」
くふふ、と口元を隠しながら笑うエステル。
恐らくはストレートに王女様扱いされ敬われた事も嬉しかったのだろう。
だからこそ、伊織には気に掛かる事があった。
「では、先程までの……ゴブリンと戦うのは、その……」
「それはまた別の話じゃ、イオリ。人間だろうとゴブリンだろうと妾はヴァルドハイムの民を愛しておる。
そして、その民を脅かす物は人間だろうとゴブリンだろうと容赦はせぬ……それだけの事じゃ」
「そう、ですか……」
「くふふ。イオリは優しいのぅ」
「い、いえ!そんな……私は別に……」
「くふふ、照れるでない」
エステルは背伸びをしながら伊織の頭を優しく撫でる。
気恥ずかしいと思いつつ。それでも小さな手から伝わってくる優しさと暖かさに伊織は目を細めた。
◇◇◇◇◇
「追加の任務じゃと?」
「は、はい。国王の名義で手紙が来ておりまして……」
任務も終わったし帰ろう。その前に町長であるウォールに挨拶せねば……と彼の元に向かい……待っていたのは困惑した表情のウォールその人だった。
彼としては盛大に首都への帰路を見送る予定だったらしいが、その準備の最中にこの手紙が届いて水を差されてしまった形だ。
「どれどれ……」
手紙を受け取ったエステルはじっくりと内容を閲覧。
そして、はぁ……と溜め息を一つ溢してからエステルは口を開いた。
「ウォールよ、すまぬがリルヨの森への馬車を手配してくれぬか?」
「リルヨの森、という事は……」
「うむ。エルフと話をして来いとのお達しじゃ」
◇◇◇◇◇
「さてイオリ。お主はエルフについてどれだけ知っておる?」
リルヨの森へ向かう馬車の中。
伊織はエステルに問い掛けられた。
「えっと、耳が長くて長命で、魔法や弓矢に長けている事……ぐらいですかね」
「うむうむ、その認識で問題無い。我がヴァルドハイムの領土には数多く種族の居る。
先のゴブリンにエルフ、ドワーフにバードマン、獣人に……まぁ色々じゃな。
ゴブリンはともかく、他の種族は種族単位で固まり各々の領地で暮らしておる。例外も居るがな」
そして、とエステルは続ける。
「ヴァルドハイムは侵略によって版図を広げてきた国じゃ。
エルフを始めとした多種族やその領地も武力によって併合し、支配下に置いてきた」
「仲は良くない、という事ですか?」
「長命故に侵略された当初の事を覚えているエルフは特にの。
オマケに父上は人間を優先するあまり、多種族への配慮に欠けるところがあってのぅ……抗議の文が来ない日は無い程じゃ。
故に、あの砦も無傷で奪還せねば成らんかったのじゃ」
「もしかしてエルフが反旗を翻した時の為に……?」
「そういう事じゃ。はてさて、エルフはまともに話し合いに応じてくれると良いんじゃがのぅ……」
エステルは窓の外を眺めながら、重い溜め息と共にそう呟いた。
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