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第10話 エルフと云うもの

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あらすじ

ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第10話 エルフと云うもの

本文

「交渉決裂、と言う事か?」

「そうではない。妾は王の使者として話をしに来ただけじゃ」

「魔族の混ざり者を寄越しておいて何を言うか!」

「偶然妾が近くに居ったが故の人選じゃ。深い意味はない」

「礼を尽くすつもりがあるのなら時間が掛かろうともまともな使者を寄越す筈だ」

「妾はヴァルドハイムの第一王女じゃ。エルフとの交渉に赴くに足る立場だと自負しておる」

リルヨの森に到着し、森を進んだ先。

開けた集落で待っていたのは不満と敵愾心を隠そうともしないエルフの集団。

エステルと話している代表者と思しきエルフはしわくちゃの老人。

エルフでこの見た目という事は相当な年齢なのだろう。

「……凄い嫌われてますね」

「馬車の中でも言った通り、長命である為に侵略された当時から生きておられる方も居ます。

あの長老に至っては魔王時代……魔族に奴隷として扱われた過去を持つお方です」

「じゃあ魔族とのハーフであるエステル様は……」

「差別意識もそうですが、当然憎しみも抱いている事でしょう」

「どうして王様はエステル様を使者に……」

「それだけ国王様が姫様と他種族を軽んじているという事です」

「そんな……」

ミレーヌの言葉に伊織は怒りとも落胆とも取れる表情を浮かべた。

元よりエステルに対する態度には不満を感じていたが、政治に関わる事柄まで嫌がらせに使うとは……

「落ち着くのじゃ、クドよ。妾が使者として遣わされたのは変えようの無い事実。

まずはそちらの要求を伝えて貰わねばどうしようも無い」

「抗議の内容は手紙に記した筈だ」

「……妾に送られた王からの手紙には書かれていなかった。

申し訳ないがクドの口から教えて貰いたい」

「それはそちらの失態であろう? 我らに尻拭いをさせると言うなら相応の態度と言う物があろう?」

「何を……っ!」

「イオリ」

「っ!」

余りの物言いに声と表情に怒りを浮かべた伊織をエステルが諫めた。

エステルに落ち度など無いというのに、と叫びたい気持ちを必死に納める。

当の本人に止められた上、ミレーヌやザフィアからも肩を掴まれては伊織も下がるしかない。

「確かに……使者として送られた以上、要求の内容を知らなかったのはこちらの落ち度じゃ。誠に申し訳ない」

一国の王女が自分達に頭を下げる様が面白いのか、周りのエルフ達はニヤニヤ笑いを隠そうともしない。

伊織はその光景にまたも怒りがこみ上げるが、何度もエステルに迷惑をかけられないと今度は堪えた。

「うむ。我らの森をこれ以上傷付けない様にと要求したのだ」

「具体的には?」

「木々や草花、木の実。そして獣の伐採や狩猟の停止だ」

「幾ら何でもそれは無茶と言うものじゃ。

森から取れる資源は我々にとって無くてはならない物……とても呑める条件ではない」

「この森は我等エルフが先祖代々育ててきた宝だ。

今まで分け与えていた事を慈悲と知れ」

「その対価として国から正当な金額が支払われておる筈じゃ。

しっかりと国が管理していて、無法者が勝手に採るという事も無い。

木々を増やす為の植樹もしておるじゃろう?」

「木が育つまでにどれだけの時間が掛かるか分かっているのか?

植樹をしたとて貴様等が伐採する速度に追い付きはしない。

我等を説得する為の見せ掛けに過ぎん」

「分かってくれ。我等には家や家具を作る木材。

食卓を彩る肉や木の実。

薬の原料となる草花が必要なのじゃ。

事実、我等の薬によってお主等エルフを苦しめていた病も癒える様になったじゃろう?」

「駄目だ、話にならないよ」

「む?」

エステルと族長の話し合いに突如割って入ったのは若い女性のエルフ。

彼女が手を挙げると、周囲のエルフ達が一斉に弓や剣を構えた。

伊織達はエステルを守る様に取り囲む。

「テナシー……族長の孫であるお主が主導し、我等に武器を向けるという行為がどう言う意味を持つか知らぬ訳でもあるまい?」

「なに大人ぶってんの? アンタの考えなんてお見通しよ。

その気になれば無理矢理従わせる事が出来るんだぞって……そう思ってるからそんな偉そうな態度を取ってるんでしょ?」

「そんな事は無い……と言っても信じてくれそうに無いの。

仮にそうだったとしても、こうして武器を向ける理由は何じゃ? これでは交渉ではなく脅迫では無いか」

「仲間の尊厳が掛かってるんだ! 仲間の為なら命をかけても戦うって意思表示よ……!」

「仲間? 何の事じゃ? 此度の話は森の資源について話し合うと言うものじゃろう?」

「惚けんな! アタシは知ってんのよ!

エルフは奴隷として高く売れるから攫われて物の様に売買されてる。

街で娼婦として働かされている子だって居るんだ……!」

「む、う? ヴァルドハイムでは奴隷制度はとっくの昔に廃止されておる。

少なくとも国が主導でエルフ攫い、奴隷として販売していると言うのはあり得ぬ話じゃ。

娼婦のエルフは己の意思で働いているのではないか?

この森を離れ、街で働くエルフとて居よう?」

「アタシ達誇り高きエルフが自分からそんな仕事をするもんかっ!」

「個人によると思うが……ふむ」

エステルが族長クドに目を向けると、彼は疲れたように溜め息を吐いた。

どうやら奴隷や娼婦の話に確証は無く、若いエルフが一方的に思い込んでいるだけのようだ。

「一先ずは武器を収めてくれ。交渉に来た使者を傷付けては宣戦布告と取られかねんぞ?」

「するならすれば良い。今のヴァルドハイムに不満を持ってる種族は大勢居る。

戦争となれば一斉蜂起するでしょうね。

いや、もしかしたら混ざり者を始末した謝礼とか貰えるかも?」

「うぅむ……」

どっちもあり得る、とエステルは思わず唸ってしまう。

それは伊織達も同様で、怒りよりも王に対する呆れの方が強かった。

「何時までも人間に平伏して生きていくなんて真っ平ごめん! アタシ達は自分の力で未来を……なに?」

声高に演説するテナシーは唐突に口を噤んだ。

何事かと眉根を寄せて周囲を見渡した瞬間……

「ブモォォォォォッ!!」

巨大な生物が木々を薙ぎ直して姿を現した。

その大きさは5メートルを優に超え、頭部には光り輝く巨大な一本のツノが生えた四足の獣。

「グラスホーン⁉︎ テナシー!」

「ひっ……⁉︎」

テナシーにとって不運だったのは丁度真後ろから現れて反応が遅れた事。

そして身が竦んでしまい、動けなくなってしまった事だ。

「ブモォッ!!」

丸太の様な前足が持ち上がる。

それが振り下ろされたらテナシーの体は熟れたトマトの様に飛び散ってしまう事は想像に難くない。

「うぁ……っ」

「あああぁあぁぁぁぁぁあっ!!」

その巨大すぎる質量が降ろされる瞬間、両者の間に割って入ったのは伊織だ。

「バントォ!」

グラスホーンの足がバットに触れた瞬間、その巨体はふわりと浮き上がり、バキバキと周囲の木を巻き込みながら落下した。

「ブモォォォ!」

「どうどう、落ち着け! 大人しいお前がどうしたんだいったい……」

転がされ、突進の勢いが殺され、一時的にとは言え足止めに成功し。

他のエルフ達が宥める事でグラスホーンは徐々に落ち着きを取り戻した。

「あ……」

「怪我はありませんか?」

「うぅ……」

伊織が振り返りテナシーに問い掛ける。

テナシーは緊張の糸が切れたのか、その場にペタンと座り込む。

「ぁ、いや……っ」

「……?」

直後にテナシーの短い悲鳴。

彼女の身体は僅かに震え、服の裾を目一杯下に引っ張っている。

……その股座が変色し、足元には水溜まりが出来ていた。

「っ、失礼しますっ!」

「きゃっ⁉︎」

伊織は自身のアウターをタナシーの腰に巻いて粗相の部分を隠し、彼女の背中と膝裏に腕を通して抱き上げた。

「な、何を……!」

「ゆ、誘拐しますっ!」

思わず口走った言葉。

ただ、周りのエルフ達もテナシーの身に何が起こったかは把握しているので殊更騒ぎにはならなかった。

◇◇◇◇◇

「……ありがと」

「い、いえ……こっちこそ突然抱き上げたりしてすみません」

あの後、追ってきた女性のエルフの手引きによりテナシーは無事に身の洗浄と着替えを果たし、岩に腰掛けて伊織と向かい合っていた。

「何で助けてくれたの?」

「え、そりゃ目の前に危険な目に合いそうな人が居たら助けるに決まってるじゃないですか」

「そっか……」

気不味いとも甘酸っぱいとも取れる沈黙が流れる。

少なくとも……テナシーの両頬は赤く染まり、それを隠すように膝を立てて腕を組んでいた。

「服、汚してごめん。洗って返すわ」

「いえ、お気遣いなく……」

「アタシがしたいの。あと、お礼も。今すぐは用意出来ないけど……その時が来たら受け取ってくれる?」

「は、はい」

一体どんなお礼が待っているのか。

そこはかとなく怖い気もするが、それを断る選択肢は無い。

「此処に居ったか」

そんな折、エステルがひょこっと現れた。

「エステル様! あの、誘拐とは、その……っ」

「案ずるなイオリ。皆分かっておる」

「ほっ……良かったです」

「して、テナシーよ」

「何よ」

「お主も言いたい事がさぞあるのじゃろう。

しかしあんな事が起こった後ではな……

故にこの話は一度持ち帰り、また後日話し合うというのはどうじゃ?」

「分かった。それで良い」

「感謝する」

「ただし!」

「む?」

「その、次もアンタが来なさい! イオ……じゃなくて部下も連れて!

アンタ1人で来て何かあってこっちのせいにされたら堪んないし……!」

「……ほほぅ?」

「な、何よ……っ!」

「いやいや。うむ、あい分かった。次の交渉にも必ずイオリを連れて来ると約束しよう」

「な、なら良いのよ!」

ホッとしたように笑うテナシーと困惑した表情の伊織。

そんな2人の顔を見比べながら、エステルはくふふと笑うのだった。

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作者について

生獣(ナマ・ケモノ)

生獣(ナマ・ケモノ)

ほのぼのな百合も過激な百合も好き。

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