第11話 王の言葉
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あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第11話 王の言葉
本文
「其奴は先日の勇者擬きか?」
「擬き、ではない。イオリは正真正銘の勇者じゃ」
「まさか我が国の勇者だと喧伝してはおらんだろうな?」
「勿論です! 私が勇者だと知っている人はあの時その場に居た人だけです!」
ヴァルドハイムの王、アーヴァインはジロリとエステル達を睨み付ける。
エルフとの交渉を終えて首都アゼルロートに帰還し王に報告した際。
先日の事を覚えていたのか伊織について詰問され、それに対してエステルが露骨に不機嫌になったので伊織は慌てて自分が勇者である事を否定した。
「ならば良い。それで、エルフ共はなんと?」
「想定外のトラブルもあったが、妥協はしてくれるそうじゃ。今後は伐採の数を減らして……」
「可笑しな事を言う。エステルよ、吾輩はエルフ共を黙らせろと命じた筈だ。
身の程知らずの老いぼれの首でも撥ねれば大人しくなるだろうとも伝えたな?
なのに何故相手の口から服従ではなく妥協などという言葉が出てくるのだ?」
「父上! そうやって強行な手段出ればエルフ、引いては他の種族とも敵対し内乱状態になる!
レオマーリと戦争している最中に内乱など起これば我が国の敗北は必至じゃ!」
「我が国を愚弄するか! 幾ら弱小種族が束になったとて我が軍の相手では無い!
さっさと滅ぼし後顧の憂を断ってから腰を据えてレオマーリに向き合えば済む事だ」
「エルフ以上に森を熟知している種族は無い!
あの森があれ程大きく豊かになったのもエルフが適切かつ丁寧に管理してきたおかげじゃ!
仮にエルフを滅ぼしたとて、ならば森の管理に人員を割くつもりか?
断言するが、そうなれば森の実りは確実に目減りするぞ!」
「ならば殺さずに従わせれば良い」
「それでは内乱の火種は消えぬ! 他の種族にしてもそうじゃ!
ゴブリンはその数の多さと血縁故の結束力でヴァルドハイム全土に根を張り、効率的に商いをして経済を活性化させておる。
ドワーフの低い背丈と頑強な身体は採掘に向き、また彼等の作る武具は戦争で大きな助けに、美術品は重要な輸出品となっておる。
獣人はその強靭な肉体と勇敢なる魂で我が軍の重要な戦力。
長い年月の最中、彼等の要求が少しずつ大きくなっているのは確かじゃ。
しかし彼等が齎すメリットはそれをもって余りある程……それに対し、敵対してまで得られる物など高が知れておる!」
「混ざり者の分際で吾輩に意見するなっ!!」
はぁ、はぁ……と肩で息をするアーヴァインと睨むエステル。
伊織から見ればどちらが優勢かは明らかたが、周りの目はエステルに冷たい視線を向けている。
アーヴァインの放った『混ざり者』というただ一つの真実だけでエステルの正当性は脆くも崩れさるのだという事を伊織は思い知った。
「……エステルにツスの丘の防衛を命じる。部隊を編成し直ちに出陣せよ」
「む? ……ザフィア!」
エステルは唐突な命令に戸惑い、そしてツスの丘が分からなかったのか側に控えるザフィアに声を掛ける。
「はっ、ツスの丘は我がヴァルドハイムとレオマーリの国境にある丘です。
戦闘においては先にそこの高台を押さえた方が圧倒的に優位になるでしょう」
「それは今から向かって間に合うのか?」
「既にレオマーリが進軍しているのならまず無理でしょう。
王よ、僭越ながら進言します。防衛ラインを下げて内地で迎え撃つ方が合理的かと」
「ならぬ。レオマーリの奴等に一歩足りともヴァルドハイムの地を踏ませてはいかん。
奴等が進む先にある民草は略奪の憂き目に遭うだろう」
「ツスの丘で戦えばそれ以上の数の兵が死にましょう」
「それが兵の仕事だ。誇り高きヴァルドハイムの兵はそれで臆したりはせぬ」
尤もらしい事を言う、と伊織は憤りを自身の腕を握り締める事で耐えた。
これは明らかにエステルへの当て付けだ。
言い負けたエステルに、王の威厳を保つためだけに高圧的に下知を言い放った。
そして周りの官僚達も素知らぬ顔。
仮にも自国の王女が王の子供染みた八つ当たりで死地に向かわされようと言うのにこの反応の薄さに伊織は更なる怒りを覚える。
(本当に、エステル様を……っ)
この場に話の分かりそうなエステルの弟妹が居れば多少はマシになったかも知れないが、2人の姿は見当たらない。
本当にこの場にエステルの味方は従者の自分達しか居ないのだ。
「分かった。直ちに兵を纏めてツスの丘に向かう」
「うむ。健闘を祈る」
最後まで白々しい言葉を吐く王に背を向け、伊織達は謁見の間を後にした。
◇◇◇◇◇
「姫様、準備が整いました」
「うむ。ザフィアもミレーヌもイオリも、休む間も無くの出陣となって申し訳無い」
「それは姫様も同じです。ザフィア様、率いる部隊の情報をお願い致します」
「動かせるのは新兵しか居なかった。物資も潤沢とは言えないが、あまり時間も掛けていられないからな……」
「まったく、こんな時にジェラルドは何をしておるのじゃ!」
「ジェラルド様はミレサリスに向かっております」
「う、む? ミレサリスとは何処じゃったかの?」
「スツの丘から少し離れた場所に位置する街です。
堅牢な城壁に囲まれた防衛に向いた街ですね。
恐らく元々はこの街でジェラルド様が迎え撃つ予定だったのでしょう」
「それなら妾が負けても大事無いの」
エステルははぁ、と溜め息を吐いた。
「あの、ジェラルド様ならツスの丘に敵より先に着けるのでは?」
「いや比率で言えば間に合わない確率の方が高い。分の悪い賭けに出るより、確実に防衛出来る方を選ぶだろう」
「そもそも王が許しはせぬじゃろう。妾達がツスの丘に行けと命じられ、ジェラルドがミレサリスの防衛を命じられた以上、それを違える事は出来ぬ」
「そう、ですか……」
「こうなれば被害を抑えつつ上手く負けるしか無いでしょう」
「苦労を掛けるのぅ、ザフィア」
「苦労など、この程度……」
そう言いつつも、隻腕の女騎士に顔には疲労の色が隠しきれていなかった。
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