第12話 出陣
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第12話 出陣
本文
「良くぞ集まってくれた! 諸君等は勇敢な戦士であり、勇者だ! 妾の声を聞いてくれ! そして力を貸して欲しい!」
エステルが小さな拳を握り集まった兵士達に激を飛ばす。
対して兵士達の反応は冷ややかだ。
新兵として配属されたばかりで経験も浅い……だと言うのに、よりによって混ざり者の指揮下に入る事を不満に感じている。
或いは、ストレートに死を恐れている。
エステルの能力を疑っている上に、これから向かうのは圧倒的不利が予想される戦場なのだから。
「此度の戦はスピードが命じゃ! ぼやぼやしている暇はない! 全軍、出撃!!」
エステルの号令を切っ掛けに、兵士達が動き出す。
騎兵や重装兵などと言った上等な兵種は居ない。
速度重視というのもあり、軽装兵と弓兵、魔法兵。
そして、物資を運ぶグラスホーン。
「馬じゃないんですね」
伊織はグラスホーンが引く馬車の中で呟く。
「戦場への運搬役にはグラスホーンは打って付けじゃからのぅ。
足は遅いが力強く、多少の弓や魔法を受けても物ともせぬ」
「へぇ……」
そういえば、リルヨの森でグラスホーンを打ち上げた時も木々を薙ぎ倒して倒れたものの怪我事態はしておらずケロリとしていたな、と伊織は思い返した。
馬車の中に居るのは伊織とエステル、イレーヌ。
ザフィアはグラスホーンに乗って陣頭指揮下を執っている。
馬ならともかく、ぐんずりとしたフォルムのグラスホーンなのに様に成っているのが不思議だった。
「ふむ、イオリはそのグラスホーンを弾いたのじゃな。
出会いの時も高所から落ちる妾を怪我無く着地させたし……やはりイオリは勇者に相応しいと思うぞ」
「いやぁ、別に要職に付いたりチヤホヤされたい訳では無いので」
「ではテナシーの事はどう思う? 齢100は越えておるがエルフとしてはまだまだ若手じゃぞ?」
「どうと言われましても……別にどうもないですよ。
向こうも特には意識してないでしょうし」
「まったくもって気にしていない、と?
絹のような金髪、宝石のような瞳。
長い手足にエルフにしては珍しくたわわに実った果実のような胸。
仮にも抱き上げたのなら何か思う事があるのではないか?」
エステルのニヤニヤ笑いに伊織は揶揄われていると察して。
されど平時と変わらない調子で返す。
「そもそも女性同士で異種族ですし……」
「む、イオリは女が好きと思っておったが」
「特にそういう訳では……そもそも誰かと恋仲になった事もありませんし」
「その割には妾を運命の相手だと言ったではないか」
「あれは、何というか……どうしてもエステル様にお仕えしたくて……」
「一々女を落とすような言動をしておいて何を言うかっ!」
「あぅ、脇腹は止めてください」
「イオリの癖に生意気じゃ! このっ!このっ!」
「や、やめてぇ……」
元よりしつこく突くつもりは無かったのか、それとも伊織の情けない悲鳴に慈悲の心が湧いたのか。
エステルは脇腹責めもそこそこに腕を引っ込めた。
「しかしイオリが異種族間の色恋に難色を示すのは意外じゃな。
異世界から来る勇者は総じて異種族どころか混ざり者にすら苦手意識は無いと聞いておったが」
「私もエルフが苦手という訳では無いんですが……ハーフの風当たりが強いでしょう?
だったら異種族と恋愛するのは難しいですよ」
「そうか? 異種族との子供は人間としか成せぬが、色恋自体は普通にするぞ?
過剰な人間贔屓の父上を見てはそう勘違いするのも無理は無いが、魔族以外は基本的に種族間での隔たりは少ない筈じゃ」
「え、じゃあ普通に友達になったりするんですか?」
「なる」
「恋人関係にも?」
「なる。結婚も性行為もするぞ?」
「待ってください……異種族であっても普通に友愛や恋愛はして、結婚も出来る。
なのに生まれた子供は差別の対象になるんですか?」
「そうじゃの」
「……おかしくないですか? 異種族に対する悪感情は無いのに、ハーフに対してだけ差別意識が生まれるなんて……」
「うぅむ? しかしこれは古来からそういう物じゃ。
法律や宗教で定められた訳でもなく、自然とそう成っておる」
「んん……? 私の居た世界にはこんな多種多様な人型の種族は居ませんからね……精々髪や肌の色が違うだけで同じ種族ですし
異世界出の私からは見えない何かがあるのでしょうか?」
「妾もこの世界、常識で生まれ育った身じゃからなぁ……」
うぅむ、と腕を組んで首を捻るエステルを眺めつつ。
伊織がこの世界の違和感に思いを馳せて窓の外を眺めた瞬間……けたたましい笛の音が鳴り響いた。
「敵襲! 敵襲! オークとゴブリンの群れですっ!!」
「エステル様……っ」
「行ってくる。イオリはそこで待っておれ」
エステルは伊織を安心させるように微笑みながら鉄箒を引っ掴み扉を開ける。
「『バン・ト!』『フライ!』」
箒の筒から白い魔力が噴出し、エステルの体がふわりと宙に舞った。
「『ル・ク・レルガ!』」
「姫様が飛んだ!?」
「あの軍勢を1人で……!」
「惚けるな戦士達よ! 姫様にだけ戦わせる気か!」
驚愕する兵士の声と、叱責するザフィアの声、そして敵の悲鳴が響く。そして……
「敵の撤退を確認! 我々の勝利です!」
「良くやった! 此度の勝利は皆の奮戦によるもの! 誇るが良い!!
このままツスの丘に陣取るレオマーリの兵も蹴散らしてやろうぞっ!」
「「「オオオォォォォ! エステル様!」」」
兵士の士気は高まり、戦意に満ち満ちている。
伊織は窓から、彼等の賞賛を受けて薄い胸でぶんぞり返るエステルを見て微笑みを浮かべた。
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