第14話 バントの使い方
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第14話 バントの使い方
本文
「今より作戦の説明を開始する!」
ルルケヤン山の頂上付近。
二日掛けて辿り着いたこの場所でエステルは兵士達に向き直り声を上げた。
「今から妾はイオリをこの崖の下に降ろす。
その後各自この崖を飛び降りるのじゃ」
エステルの言葉に兵士は騒つき始める。
「何故そのような事を」
「何を考えておられるのか……」
「この高さから飛び降りて生きていられる訳……」
「イオリ殿に落ちてくる我々を受け止める腕力があると?」
「静まれ! まだ姫様が説明の途中だろう!」
「良いのじゃザフィア。この崖を飛び降りろと言われたら誰しもそう考え、疑問を持つであろう。
しかし諸君、どうか妾とイオリを信じてほしい。
必ず無事に着地させると誓おう」
兵士の視線が伊織に突き刺さる。
勇者とは名乗っていないので、兵士達から見ればエステルと妙に仲の良い奇妙な棍棒を抱える謎の女としか見られていない。
そんな女がどうやって……と、疑問を持つのは致し方ない事だろう。
「まず安全性を証明する為にザフィアが飛び降りる。
その際はミレーヌが風魔法で落下方向を調整する。
それからは二名の兵士、グラスホーン、物資を積んだ荷車の順に降りていく。
降りた兵はグラスホーンを宥め、物資を引かせてスペースの確保……分かったかの?」
「「「はっ!」」」
「よろしい。ではイオリよ、この箒に跨るのじゃ」
「は、はい……!」
伊織はエステルの真後ろに跨り、彼女の腹部に腕を回す。
しかしその身体の小ささと薄さ、そして身体中の傷跡が脳裏に浮かび、ついその力を緩めてしまう。
「む? それでは落ちてしまうぞ。もっと強く妾を抱き締めるのじゃ」
「は、はい……」
言われた通り、伊織はエステルの腰に回す腕の力を強める。
それに満足したのか、エステルはうむと頷いた。
「しっかり捕まっておるのじゃぞ? 『バン・ト!』『フライ!』」
金属を組み合わせた箒状の物体。
その下部に装着された筒から光が放たれ、二人の体は急上昇を始める。
「ひゃあっ!?」
「緩めるな! しっかり捕まっておれ!」
そして二人はあっという間に空高く舞い、そこから十数秒の姿勢制御に時間を置き。
ゆっくりと崖下に下降して行く。
「うぅむ、速く飛ぶのは得意じゃがゆっくり降りるのは慣れぬのぅ……イオリは大丈夫かの? ……イオリ?」
エステルに問い掛けられて。
しかし高所で宙に浮いている恐怖に伊織の身体はブルブルと震え、気遣う余裕など無いと力一杯にエステルの腰にしがみ付いていた。
「だ、だだだだ大丈夫で……っ」
「慣れぬのはイオリもじゃな。すまぬ。
目を閉じておれ。深呼吸して心を落ち着かせるのじゃ」
「は、はい……」
言われた通り、伊織は目を閉じて深呼吸をして心を落ち着かせる。
どれ程時間が経っただろうか。
エステルに声を掛けられ、伊織がギュッと閉じていた目を開くと、地面はもう目と鼻の先にあった。
「降りるぞ」
「はい……っ」
ある程度の高さまで下降し、エステルは魔法を解除した。
誤算だったのは、背後に跨る伊織の足の長さを考慮していなかった事。
先に伊織の足が着地し、対してエステルの足は宙に浮いたままで。
「はぅ……っ!?」
つまりは……エステルは股間を強打した。
「エステル様っ!?」
伊織はぐらりと傾くエステルの身体を掴んで支え、そのままゆっくりと地面に下ろす。
「うぅ、すまぬ……」
「いえ、事故ですから……大丈夫ですか?」
「問題ない! そんな事より、ここからはイオリの仕事じゃ。お主の力を存分に見せるのじゃ!」
「はい! よし、やるぞ……!」
伊織は数度深呼吸して精神を落ち着かせ、エステルに視線を送る。
「エステル様」
「うむ」
エステルのワンドがチカチカと光る。降りてこい、の合図だ。
それから数拍の間を置いて……遥か頭上の崖上から黒い点が飛び出した。
それは徐々に、しかし確実に大きくなっていき……
「イオリよ! 来たぞ!」
「はいっ!」
崖から飛び降りる黒い点。それは徐々に人型に形作られ、伊織の目でもハッキリと人間……ザフィアだと視認出来た。
「バントォ!」
伊織がバットを両手で構えて上へ突き出す。
バットが触れた瞬間、ザフィアの身体はふわりと浮き上がり、慣れた様子で地面に着地した。
「……成功ですね」
「うむ! イオリ、その調子でどんどん兵と物資を着地させるのじゃ!」
「はいっ!」
エステルがワンドの先をチカチカと光らせて合図を送る。
それから暫くの時間を置いて、1人の人間が崖上より飛び降り、尻もちを付かせつつもバントで怪我無く着地させる。
「お疲れ様です! お怪我はありませんか?」
「は、はい。大丈夫です」
降りて来た兵士に怪我の有無を確認する。見たところ大きな外傷は無く、伊織は安堵の溜息を漏らした。
「次々行くぞ!」
続いて2人目。
その後は巨体のグラスホーン。
バントされたグラスホーンもふわりと浮いた後に墜落。
土埃が舞い暴れるが、怪我は無い。話に違わぬ頑丈さだ。
次に物資が積まれた荷車が落とされ、こちらもバントで着地させる。
その荷車とグラスホーンを繋いで移動させスペースを空ける。
そしてまた2人の兵士を着地させて、を繰り返し順調に崖下への輸送を進めていく。
兵士が若く、また先に飛んだ者達が無事に着地していく様を見たからか後半には寧ろ楽しんで飛び降りる者も居た。
助走まで付ける兵も居て、それは別に問題は無かった。しかし……
「え、この方向は……っ!?」
「馬鹿者!」
1人の兵士が転び、その勢いのまま落ちた。
それはミレーヌが補助する風魔法の範囲外であり、風の影響を受けてその軌道は伊織の場所からどんどんと逸れていく。
エステルが飛び上がり兵士の救助を試みるが、その細腕で成人男性を支えるのは不可能だ。
僅かに減速しただけで兵士の落下は止まらない。
「うわああああああああ!!」
伊織は不安定な足場で全速力を出し、落下する兵士に向かって走り出した。
前に飛び、目いっぱいに腕をバットを伸ばす。
(届か、ない……っ)
伊織は惨劇を予想して目を閉じて。
しかし鳴ったのは何かが潰れた音ではなく、ドスンと言う音と共に放たれた「痛っ」という言葉。
伊織が恐る恐る目を開けると、そこには尻を抑えて痛がる兵士の姿。
「間に合った……?」
センターの守備には絶対の自信を持つ自分が目測を見誤った……? と伊織は困惑を隠せない。
「イオリ、よくやったぞ!!
(……まぁ、今は良いか)
きっと異世界生活で脚力が鍛えられたのだろう、と伊織は自分を納得させて、輸送の続きに取り掛かったのだった。
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