第15話 戦端
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あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第15話 戦端
本文
「欠員無し! 物資紛失無し! 全員の降下が完了しました!!」
「うむ!」
ザフィアの報告にエステルは大きく頷いた。
多少のトラブルはあったが、伊織のバントのスキルで全員崖下へ無事に到達出来た。
「素晴らしい成果じゃ! 通常は通るのに5日は掛かるルルケヤン山を半分以下の時間で踏破した!
先行したジェラルドの部隊も追い抜いた! これならばレオマーリよりも先にツスの丘に着くじゃろう!!」
おぉ! と兵士から感嘆の声が上がる。
エステルの言葉を引き継ぐようにザフィアが激を飛ばす。
「総員体力は有り余っているな? 今より駆け足でミレサリスへ向かう!
その一歩一歩が勝利を手繰り寄せる事と知れ!」
「「「おぉぉおおお!!!」」」
「モ"ォォォォォ!!」
ザフィアの言葉に兵士達は雄叫びを上げて応え、グラスホーンも嘶きを上げる。士気は十分。
「早ければ早いだけ勝率は上がる! 救国の英雄となれ! 全軍、前進!」
先頭のグラスホーンに乗ったザフィアが剣を抜き、進路を指し示す。
兵士達は自信と気迫に満ちた足取りで戦場に向けて駆け出した。
◇◇◇◇◇
「総員装備の点検は済ませたか? 良いか、合図が出るまで絶対に撃つなよ!」
ミレサリスて到着し、休息と補給を行った。
ミレサリスの代表者は先にジェラルドが来るものだと思ったのか動揺していたが、理由はどうあれ王の命令で出陣した部隊だ。
少なくとも表面上は歓迎して、温かい食事と寝床を用意してくれた。
そして英気と体力を養い、ツスの丘に向かい……陣を構築している。
当初は先に到着していたレオマーリ軍を奇襲する案も上がったが、新兵にそんな作戦をやらせるのはリスクが高いと判断して真っ向からの打つかり合いとなった。
「臆するな! 長い歴史において、このツスの丘では常に高台を取った方が勝ってきた!
そう、今の我々のように! この世界にの誰もが予測不可能な速度で我々はこの地に到達したのだから!!」
「「おぉぉおお!!」」
ザフィアの言葉に兵達が応える。
総員準備万端。いつでも戦える状態だ。
「……来ました! レオマーリ軍、見えました!!」
見張りの兵が声を上げる。
それを受けたザフィアが頷き、エステルを促す。
「うむ。諸君、只今をもって妾は指揮権をザフィアに譲渡し、諸君等と共に肩を並べて戦う!」
エステルの言葉に兵士達は騒ついた。
幾ら疎まれている混ざり者だろうと仮にも王族。
そんな彼女が仮初の指揮官の席すら降り、一兵士として戦うと言うのだから。
「故に、これは指揮官としてではなくお主達の戦友として言う。
……生きろ! 生きて、耐えて、必ず家族の元へ帰るぞ!!」
「「おぉぉおお!!」」
エステルの言葉に兵達は剣を抜き、天に向けて掲げる。
その顔は戦意と覚悟に溢れる素晴らしいものだった。
「うむ……ではザフィアよ、後は任せた」
「はい。姫様もどうか無茶はなさらぬよう」
「無茶をせずに勝ち抜ける戦などあるまい?」
「優先順位という物がございます。今姫様を喪えばイオリは後ろ盾を無くしてしまうのですよ?」
「……イオリを持ち出すのはズルいのではないか?」
「事実でしょう。イオリはどうだ?」
「ひゃいっ!? えぇと……」
伊織は自分の事を話されて気恥ずかしくもあり、いきなり話を振られて素っ頓狂な声を上げてしまった。
少しだけ頭の中で文章を纏めて、口を開く。
「私にとってはエステル様が唯一の主です。もしエステル様が死ぬような事があれば私も死にます」
「……まったく、我儘な部下を持ってしまったのう」
「ええ、ですので長生きして下さい。この戦いを乗り越えて」
「……うむ。では行ってくるのじゃ!」
エステルはひらりと身を翻して前線へと駆け出す。
その背中を見送りながらザフィアが伊織に告げる。
「イオリは後方でミレーヌのサポートに回っててくれ。
ミレーヌは治癒魔法が使えるが、魔力は有限だからな。
姫様もあぁは言ったが被弾は避けられないだろうし、ミレーヌの魔力は温存しておきたい」
「はい! ザフィアさんもお気を付けて!」
「あぁ」
ザフィアも前線へ駆け出し、その場には伊織とミレーヌの2人きりとなった。
そのミレーヌも医療品のチェックと薬の補充で忙しなく動いている。
「イオリ様、そこの箱をこちらに」
「は、はい……!」
ミレーヌの指示に従って箱を彼女の元へと運びながら。
伊織は兵士達の背中に目を向ける。
もう間もなく、戦端が開かれる。
◇◇◇◇◇
「撃ぇっ!!」
ザフィアの号令と共に大量の矢と魔法がレオマーリ軍へと降り注いだ。
「『バン・ト!』『フライ!』『ビ・グル!』『ボ・ルカ!』」
エステルも金属の箒に跨って空を飛び、魔法を放っていた。
レオマーリ軍はどうにか接近しようと試みるが、降り注ぐ矢と魔法で攻めあぐねている。
「始まりましたね。大丈夫でしょうか……」
「勝敗の行方でしたら心配無用かと。やはり先に高所を取ったこちらが圧倒的に有利ですので。
ですが相手が戦線を上げて距離が縮まればこちらの兵が攻撃を受ける機会も増えるでしょうね」
「エステル様は……」
「今はまだ大丈夫でしょう」
今はまだ、というミレーヌの含みのある言い方に伊織は胸の部分を握り締める。
エステルの強さは間近で見た事はあるが、それでもあの小さな身体に刻まれた無数の傷痕が脳裏にチラついてしまう。
「先生! 怪我人ですっ!」
「始まりましたね……先生ではなくメイドです。患者をこちらへ」
右腕に矢が刺さった兵士が仲間に肩を貸りて、こちらへと歩いてくる。
「矢を抜きます。痛いですよ」
「うぐ、ぐ……っ!」
ミレーヌが矢を引き抜く。
兵士は歯を食い縛りながら痛みに耐える。
「ヒール! これで動かせますか?」
「はい。戦線に戻ります!」
「お気を付けて」
「ふぅ……」
「ミレーヌさん、大丈夫ですか? その、魔力は……」
「最初の内は戦線に戻す為に魔法を使いますが……その内温存しなければならない時が来るでしょうね」
「そう、ですか……」
エステル様が怪我をした時の為に魔力を温存しておいてください、などと。
命懸けで戦っている兵士を軽んじる思考を伊織は頭を振って振り払った。
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