第16話 ハリボテの矜持
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第16話 ハリボテの矜持
本文
「先生、怪我人です!」
「メイドです。こちらへ」
時間が経つに連れて怪我人の数も増えて来た。
この段階まで来ると流石にミレーヌも濫りに魔法は使えず、手当で済ませる事も多くなった。
「イオリ様、この布を抑えてください」
「はい! ……エステル様の動きが激しくなってますね」
「矢や魔法を避けているのでしょう。姫様へ届く程に敵との距離が近付いたという事です」
「大丈夫なんでしょうか……防御魔法とか無いんですか?」
「技術としては存在しますが姫様は使えません。
……と、これで終わりです。後方で待機していてください」
「いえ、まだ戦えるので戻ります!」
手当てを受けた兵士は痛みに顔を顰めながら前線に走る。
その背中を見守りながら伊織はミレーヌに問い掛ける。
「防御魔法が使えない? でも炎とか雷とか……沢山の魔法を使ってるじゃないですか」
「あれは姫様が独学で覚えた物です。フライやライトニングと比べて、姫様の攻撃魔法は名前が独特だとは思いませんでしたか?」
「それは確かに……ザフィアさんやミレーヌさんの魔法は名前で効果が察せられますが、エステル様の魔法は……」
「ネーミングセンスの有無は置いておきますが……姫様の魔法は独自性が強過ぎて私達が使うような汎用魔法と相性が悪いのです。
フライの魔法も修得するのに随分と苦労されたようで」
「エステル様は何故そんな茨の道を……」
「まともな教育を受けていないからです」
「……はい?」
「姫様は生まれてこの方、国王から何らかの教育を施された事が無いのです。
基本的な作法等は私が勝手にお教えしました」
「な、んで……王女なのに!」
「姫様の生誕一年後に奥様との間にジェラルド様、その次にエメルダ様が誕生されました。
教育を施す年齢になる前に、姫様の存在意義は失われたのです」
「だから独学で勉強を……」
「あの尊大な口調もそうです。姫様の中では、あの口調が高貴なる者のイメージなのでしょうね」
「やっぱり分かりません。父である王も、エステル様が尽くしている国も、エステル様には何もしてくれないのに……あんな風に命懸けで戦わないといけないんでしょうか」
伊織はエステルの行動に理解が及ばない。
まだ十代の少女が、何故命を賭けてまで自分を見捨てた国の為に尽くさねばならないのか。
そんな疑問をミレーヌに投げかけると、彼女は少し考えた後……ゆっくりと口を開いた。
「それが姫様のアイデンティティなのかもしれません。
元より忌み嫌われ蔑まれる血筋……自らの行動によって国を守る、利益を齎す。
そうする事によって、ようやく自らの価値を見出だす事が出来るのだと、私はそう思います」
「それが、理由……ですか。でも、そんなの……!」
あんな傷だらけになっても、結局あの人を認めてくれているのはほんの少ししか居ない、と伊織は歯噛みした。
少数でも理解者が居てくれるのなら混ざり者としては上等な人生だと本人は言っていたが、それでもだ。
本人がいくら努力しても報われない。
境遇の過酷さも立ちはだかる壁の高さもまるで違うが、伊織自身も野球選手としてそんな思いや経験はいくらでもしてきた。
だからこそ、自分に何か出来る事があるのなら全力で応えたいと思った。
「うわっ」
それからまた時が経ち。
兵士達を飛び越えた1本の矢が伊織達の前方に突き刺さった。
まだまだ伊織達に当たる距離では無いが、それだけ敵の距離が近付いてきたという事だろう。
「……エステル様、集中攻撃されてませんか?」
「この部隊で一番火力が高い存在ですから。姫様も久しぶりの優勢な戦いに高揚されているのかもしれません」
「うーん……」
短い付き合いではあるが、エステルが調子に乗りやすい人物である事は伊織にも見て取れた。
そして、王族の矜持として兵を置いて逃げたがらないだろう……という事も。
「あ……っ!?」
雨のように降り注ぐ矢。
その内の1本がエステルの細い太ともに突き刺さった。
戦場に不似合いな幼い悲鳴は妙に響く。
エステルはどうにか体勢を立て直すが、そこから逃げるような素振りは見せずに反撃を試みる。
その瞬間、人の頭程もある火球がエステルに直撃した。
「エステル様……!」
エステルの身体はぐらりと後方に倒れ、それに伴い箒の先端は上向き、エステルは上空へ急上昇する。
それから数秒も経たぬ間に動力源である魔法が切れたのか、急停止の後に降下を開始した。
「エステル様っ!!」
伊織はエステルの元へ向かう。
元より矢で射られた時にはもう既に駆け出していた。
(間に合わない……!)
伊織の目と経験はエステルの落下地点を的確に見定めていた。
高台から外れている。
高台に落ちたとしても危険だが、更に低地に落ちたら正に大惨事だ。
仮に生きていたとしても、そこは既にレオマーリ軍の陣地だ。
多数のレオマーリ兵を殺めた混ざり者の王族……敵陣に落ちて無事で済む筈が無い。
(届け!)
全速力で、最短距離で落下地点に向かう。
間に合わない、届かない。
自分の目と経験が弾き出した結果を無視して。
自分自身も高台から飛び出して、目いっぱいに腕とバットを伸ばした。
(エステル様……!)
しかし無情にもバットはエステルに擦りもしない。
服も、髪すらも。
「……え?」
だと言うのに、エステルの身体がふわりと浮き上がった。
伊織を飛び越え、高台の方へ。
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