第20話 姉弟愛
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第20話 姉弟愛
本文
「稽古、ですか?」
「はい。ジェラルド様にお願いするのは不躾だと重々承知しているのですが……あの、これエステル様からの紹介状です」
「拝見します。ふむ……」
手紙を受け取ったジェラルドは顎に指を添えて考え込んだ。
「……この文字と手形は間違いなく姉さんですね」
「はい! 自分の療養期間中にジェラルド様とザフィアさんにみっちり鍛えて貰え、と。
手紙に手形を着ける、というのは私の国には無い風習なので驚きました」
「別にヴァルドハイムにもそのような文化や風習はありませんよ?」
「……え? そ、そうなんですか? ミレーヌさんも当たり前のようにエステル様の手にインク塗ってのでてっきり……」
「大方エメルダが吹き込んだのでしょう。
エメルダは姉さんが大好きですからね……手形が欲しかったのか、手形を押す動作が見たかったのか。
エメルダは姉さんの可愛い姿を見たいが故に、有る事無い事吹き込みますから。
ミレーヌさんが黙っているのも同様の理由かと。
姉さんは礼儀作法が必要な相手に手紙を出す事はありませんからね」
「そうだったんですか……こう言っては何ですけど、姉弟仲が良好みたいで安心しました。
初めての会った時は、その……少し怖かったので」
「あぁ……あの時はすみません。姉さんは引き際を知らないので、僕達が諌めないと延々と食い下がってしまうんです。
以前も僕達が居ない間に父と口論した結果、謹慎を言い渡された事がありまして……」
「何と言うか、不思議な感覚です。エステル様の敵は数多く居るのに、此処に居ると味方が多いように感じてしまいます」
「姉さんは混ざり者ですからね。この世界の者は言われずとも、親や周りが混ざり者を排斥する姿や空気の中で育ちますから。
僕も姉さんの弟として生まれなければ、未だに混ざり者を差別していたかもしれません」
「そういう物ですか……ですが、何らかのキッカケで認識が変えられるならもしかしたら……」
「僕もそれを願っています。今回姉さんに同行した兵士達も姉さんの勇姿と奮戦を見て認識を改めてくれていたら。
そして、それをご家族に伝えてくれたらと思わずにはいられません」
「あ、もしかして先に帰らせたのは……」
「そういう狙いもあります。今頃はエメルダが根回しして姉さんの帰還を祝う準備を進めているでしょうね。
父に邪魔されなければ、豪勢なパレードとまでは行かずとも屋台ぐらいは出るでしょう。
今回選ばれた兵士達は庶民……肉屋や青果店の息子達ですからね。
難しい戦場に向かわされた息子を生きて帰した、とあらば姉さんにも素直に感謝してくれるかもしれません」
「本当にエステル様の事を考えてくれているんですね」
「イオリさんこそ。姉さんと会ってまだ二週間も経っていないのに、そこまで心を砕いてくれるなんて。
姉さんを支えてくれる人が一人でも増えてくれて僕も嬉しいです」
「支えられているかは微妙なところですが……今回の戦闘でも私は後方に居てエステル様をお守り出来ずに重傷を……だから特訓しなさいって話なんですけどね」
「あぁ、そうでしたね。話が逸れてしまいました。
姉さんを好いてくれている人とこうな風に話す事は滅多に無いのでつい……
稽古の件、了解しました。僕で良ければお付き合いしますよ」
「よ、宜しいんですか? お忙しいのでは……」
「今はザフィアさんが兵を見てくれていますので。
それにイオリさんを鍛えるのはイオリさんの為にも姉さんの為にもなるので」
「……ありがとうございます!」
「お気になさらず。訓練用の木剣を持ってきますね」
◇◇◇◇◇
「では、イオリさんのスキルのおさらいです。
そのバットに触れた物を打ち上げる、でしたね?」
「はい」
「触れてみても?」
「どうぞ」
ジェラルドはイオリのバットに軽く木剣を触れさせると、その木剣はジェラルドの手を離れてるふわりと弾き飛ばされた。
次にジェラルドが自身の手で触れると、彼の身体がふわりと浮かび上がり、しかし素早い身のこなしで両足で着地した。
「なるほど。イオリさん、バットを上に構えてもらえますか?」
「は、はい」
「……行きます」
「……え」
ジェラルドが構えた、と思った瞬間。
伊織の目の前には右手を振り下ろしたジェラルドが映っていた。
「う、うわ……っ!?」
「今の攻撃に反応出来ていましたか?」
「い、いえ……」
「つまり無意識にでもバットに触れれば跳ね返せる、と」
「あ、今更ですけど……私のスキルが強くなって対応距離が伸びた、みたいな?」
「勇者のスキルも修練次第で成長しますからね。試してみましょうか」
ジェラルドはバットに触れない範囲に木剣を近付け飛ばされる、という工程を複数繰り返し。
「距離が長くなった、というより影響範囲が一回り大きくなったような印象ですね」
「エステル様の全身を守れる範囲なら良かったんですけど」
「鍛えれば追々そうなるかもしれません。
ですがまずはイオリさんが自分の身を守れるようにならなければ。この木剣を持ってください」
「は、はい」
「僕の攻撃を防ぐ事に集中してください。反撃は考えなくて構いません」
「はいっ!」
「行きます」
ジェラルドが木剣を正面に構え、踏み込む。
ミレサリスの一角で、木剣同士が激しくぶつかり合う音が鳴り響いた。
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