第21話 帰還と策謀
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第21話 帰還と策謀
本文
「エステル様ー!」
「奇跡の進軍、万歳!」
「私の息子を生かしてくれてありがとうございます!」
「うむ、出迎えご苦労!」
エステルはメインストリートを走る馬車の上で胸を張る。
一応ミレーヌが支えてはいるが、伊織は万が一エステルが馬車から転げ落ちないか不安で仕方無かった。
「あわわわわわ……」
「落ち着けイオリ。ミレーヌが側に居れば大丈夫だ」
「ミレーヌさんの事は信じてますけど、エステル様は調子に乗りやすいので……」
「それは否定せんがな。ただ久しぶりの帰郷だ。
イオリにとってはまだ馴染みの薄い異世界である事に変わりは無いだろうが……それでも、もうこの地はイオリの故郷でもある。
これまで特訓続きだったんだ、もう少し肩の力を抜くと良い」
「はぁ……」
ミレサリスでの休養を終えたエステル、それに付き添うジェラルドと共に王都・アゼルロートに到着した一行を待ち受けていたのは住民による歓待だった。
当初こそ面食らっていたエステルだが、事情を飲み込むや否や周囲が制止する間もなく魔法で荷車の上に飛び乗った(ミレーヌは自力でよじ登った)。
「それにしても、エステル様が受け入れられて良かったです」
「一過性の物だろうがな。
敗北確実と言われた戦場に人智を超えた速度で到着し、レオマーリより先に陣を敷いて勝利。
絶望的な戦いに勝利し、生きて帰った兵士とその家族による賞賛。
エメルダ様が根回しし、資金も提供して実現させたこのお祭り騒ぎ。
複数の要因が絡み合った上での奇跡のような物だ」
「これが長続きする事は無い、と?」
「熱が醒めれば姫様……混ざり者への偏見がぶり返すだろう。
だが、この騒ぎのおかげで暫く休めるだけ良しとしよう」
そう言ってザフィアは窓の外を眺めながら溜め息を吐いた。
◇◇◇◇◇
「良くぞ役目を果たした。期待通りの戦果だ」
そう言った国王、アーヴァインの顔は言葉とは裏腹に苦々しい。
エステルを貶める、あわよくば戦死させようとほぼ負けが決まっている戦場に送り込んだというのに勝ってしまったのだから。
しかもその勝利にはかつて自身が否定し、不要と称した伊織の力が大きく寄与しているのだから尚更だ。
「それもこれも部下が奮戦してくれたおかげじゃ。
父上が望むなら今すぐにでも戦場に舞い戻ろうぞ!」
「いや、良い。エステルには暫しの休みを与える」
「うむ? 承知した!」
ザフィアさんの言った通りだ、と伊織は思った。
今現在のエステルが民衆から支持と人気を得ている状況は王にとって好ましくない。
これでもし何らかの任務を与えて成果を出されたら、エステルの人気は益々高まる。
今は大人しくさせておいて、民衆の熱が下がった頃にまた何らかの任務に行かせる腹積もりなのだろう。
その事について伊織も思う事が無い訳でもないが、懸命に治療したとはいえエステルはほんの十日前に瀕死の重傷を負ったばかりだ。
王の自分勝手な我儘だとしても、エステルが十分に休めるのならそれに乗るのも悪くは無い、というのは伊織達の共通の見解だった。
◇◇◇◇◇
「イオリ様」
「はい、どうしましたかミレーヌさん?」
アゼルロートに帰ってから早三日。
掃除を手伝い、休憩のお茶を頂いている最中に声を掛けられた。
「今夜、エステル様の付き添いをして頂きたいのです」
「エステル様何処かに行かれるんですか?」
「エメルダ様にお呼び立てされたのです。普段なら私が付き添うのですが、生憎と今日は都合が悪く……」
「エメルダ様なら……王城ですか? 私作法とか分からないんですけど……」
「イオリ様が誰かとやり取りする必要はございません。
ただエステル様をエメルダ様の元に行くまで付き添う、というだけです。
お二人の逢瀬の間はイオリ様は別室で待つ事になるかと」
「そういう事なら……分かりました。引き受けます」
「ありがとうございます。……イオリ様」
「はい?」
「これを」
「手紙、ですか?」
「どうか、エステル様をお救いください……っ!」
「救う? 何の事ですか?」
「お二人の逢瀬の間、部屋に入る事は禁じられております。
擬似的な密室となったあの中で何が行われているのか……私の口からはとても……っ」
「そんな! ジェラルド様はエメルダ様もエステル様の事が好きだって……」
「ジェラルド様も部屋の中の出来事を見た訳ではありませんので……
お願いしますイオリ様! 一介のメイドに過ぎない私ではどうする事も……!」
「……分かりました。必ずエステル様をお救いします!」
「ありがとうございます……! この手紙は部屋に乗り込み、エメルダ様の言葉に惑わされた時にお読みください。
手紙に記された真実がイオリ様の助けになるでしょう」
「はい……!」
正直半信半疑ではある。
エメルダがエステルの為に動き、歓迎ムードを作ったのは事実だ。
しかし、ミレーヌが虚偽の報告で誰かを陥れるような人間では無い事も理解していた。
伊織は誰を信じれば良いのか決めきれぬまま、しかしエステルを守るという誓いだけは揺らぐ事はなく。
今夜、指定の時刻にエステルを王城まで送り届けた。
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