※ 第62話 決戦前夜の我儘
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - ※ 第62話 決戦前夜の我儘
本文
「伊織ちゃーん、ご褒美ちょーだい?」
「はぁ?」
そう言って自身が生成した短剣を差し出すナオに伊織は怪訝な表情を返した。
「私に何しろっていうの」
「これでアタシの背中に伊織ちゃんの名前を刻んでよ。お仕置きも兼ねてさ」
「脱がないでよ」
呆れた様に静止を促す伊織を無視し、ナオは上半身の服を脱いだ。
伊織は露わになった背中を見つめ、再度口を開く。
「しないって」
「じゃあ他のご褒美とかお仕置きくれるの?」
「あげる約束してないし。ほら、服着て」
「ちぇー」
伊織がもそもそと服を着直すナオを見て溜息を吐いた瞬間、扉が開いて甲高い声が響いた。
「イオリ、ナオ。見回りに行くぞ!」
「はい。ほら、行くよ」
「アタシは部下じゃないのにぃ」
そう言ってグズるナオだが、単純なフィジカルで言えば伊織の方が数段強い。
ナオを無理矢理立たせて半ば引き摺る様にして部屋を出る。
城塞都市ビセット攻防戦の劇的な勝利から一週間。
各所で守備に着いていた者達の集結を待っている間にエステルの体調も回復し、現在は見回りを積極的に行っていた。
軍事的な事はザフィア、政治的な事はミレーヌ。
各種族の取りまとめは各自の代表に任せている。
この見回りにナオも動向させている理由は、一人で放っておいたら何をするか分からないから。
故に基本はナオを押さえ付けられる伊織が監視する事が多い。
「今朝方ドヴェルグからドワーフ達が到着した。
武具や兵器の輸送も兼ねていたので遅れてしまったらしい」
「それでは遂に?」
「うむ。今日一日を装備の点検と各員の休息に使い、明日の朝に……む?」
エステルが、そして伊織とナオも同じ方向に視線を向ける。
甲高い、女性の悲鳴が聞こえたからだ。
「お願いします! どうか子供だけは……っ」
「ふざけんな! 俺の兄貴の子供はテメー等人間に殺されたんだぞ!!」
「私は好きにして構いません! 子供だけは……子供だけは!」
見れば、三人のリザードマンに一人の女性が必死に頭を下げていた。
その脇には幼い少年が泣きじゃくりながら女性にしがみ付いている。
「何をしておる!」
「ん? ちっ、リーダーかよ。見て分かんねぇか? 復讐だよ復讐」
「その親子がお主に何をした! 糾弾すべきはこの様な世にした悪王アーヴァインであり、我らが武器を向けるは市民では無いと何度言ったら分かる!」
「アーヴァインを倒せば終わるってか? ふざけんじゃねぇ!
俺の姪っ子を殺したのは人間の兵士だ! アーヴァイン自身じゃねぇ!
アーヴァインだけを殺してソイツは許せってのかよっ!!
姪っ子だけじゃねぇ……俺のダチもコイツ等人間に殺されたんだ!
これは正統な復讐だ! だから俺はこのガキを、俺の仲間や家族を殺した人間共を一人残らず殺す」
そう言って男は腰に差していた剣を抜いて少年に刃を向け……
「バント!」
「なっ……!?」
男に向けられた剣を、伊織が弾いた。
「何で邪魔すんのさー? いーじゃん殺しても。
こんなの生かしても役に立たないし、人間と不和起こすだけじゃん?」
「これは力で押さえつけて一方的に他種族を排斥する常識を壊す為の戦いだ。
気に食わないからって殺してたんじゃ何も変わらない」
「別にアタシはその考えに共感して此処に居る訳じゃないしなぁ」
「……お主等、怪我をしたくないならすぐにこの場を去るのじゃ」
「……クソっ!」
そう言って男達は剣を納めて走り去って行った。
「あ、ありがとうございます!」
「礼は要らぬ。妾の管理不届きじゃからな。行くぞ、イオリ、ナオ」
「お騒がせしました」
「ばいばーい」
「……はぁ、優位に立てば弱者を虐げるのは人間も他種族も変わらぬな」
「それを変える為の戦いでしょう? 先程言いそびれていましたが、明日の朝に?」
「うむ、いよいよ全兵力をもっての出撃となる。遂に全てが終わる時が来るのじゃ」
「エステル様……」
「そう心配そうな声を出すでない。妾は大丈夫じゃ。
イオリさえ生きていてくれればの」
「私もエステル様さえ居てくれれば……!」
「努力はしよう。さぁ、見回りを続けるぞ」
◇◇◇◇◇
「イオリ……」
「エステル様? 流石に今日はゆっくり休まれた方が良いのでは……」
「お願いじゃ! 最後の夜になるかも知れぬ……だから、だから……」
見回りを終え、食事や入浴も済ませてさぁ寝るぞ、という時に。
そう言ってエステルは伊織に抱き付いた。
伊織は震えるその小さな身体を振り払う事が出来なかった。
「……分かりました」
「イオリっ!」
「でも、無理はなさらないでくださいね」
二人はベッドに倒れ込み、互いの温度を分かち合う様に体を重ねた。
何時もと同じ様にエステルの身体に刻み込まれた拷問跡に舌を這わせる。
声や顔を隠そうとするエステルの両腕を左手で拘束し、右手で足の付け根からなぞっていく。
「ふっ、んん……っ」
「可愛いです。愛しています、エステル様」
「イオリ、妾もじゃ……イオリを愛しておる……っん、あぁ……っ!」
耳元で愛を囁かれ、エステルの身体が跳ねて……脱力した。
「はぁ、はぁ……イオリ」
「何でしょう?」
「……すまぬ」
「はい?」
伊織はエステルに謝罪されながら抱き締められる。
「はいはーい♪」
「っ、ナオ⁉︎ ミレーヌさんにザフィアさん、テナシーさんまで……⁉︎」
突然の乱入に混乱する伊織だが、エステルは冷静そのものだった。
「ベッドの脇に立て掛けられておる」
「お、あったあった。バット確保ー!」
「さて、イオリ。抵抗してくれるなよ?」
「……え?」
◇◇◇◇◇
「待ってください! どう言う事ですか⁉︎」
バットを奪われ、数人掛かりで手枷で拘束された伊織はビセットの地下牢に入れられた。
服は着せてもらえたが、ここまで碌な説明もされていない。
「イオリは此処に残るのじゃ。決戦には連れていけぬ」
「何でですか⁉︎ 私は反乱軍の重要な戦力だと自負しています!
それ以前に私はエステル様の従者であり将来を誓い合った仲です。
私にはエステル様をお守りする義務があります!」
「先程も言ったであろう? 妾はお主にだけは生きていてほしいのじゃ。
これは妾の我儘じゃ。好きなだけ恨んでくれて構わぬ」
「そんな……そんなの……っ!」
「……イオリよ、不義の生まれで理解者も少ない妾を愛してくれてありがとう。
妾を守り、戦ってくれてありがとう。
妾を一人の人間として尊重し、尊重させてくれた事に感謝している。
妾は……ううん。エステルはイオリに会えて幸せだった。
エステルの事、ずっと覚えててね。ありがとう、さようなら……」
「エステル様! エステル様っ! エステル様ぁぁぁっ!!!」
伊織は格子を掴み、隙間から腕を伸ばす。
しかしミレーヌ達を伴い背を向けるエステルの歩みは止まらない。
やがて扉は閉ざされ、伊織の声は聞き手の居ない地下牢に虚しく響くだけだった。
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