第63話 思惑
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あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第63話 思惑
本文
「エステル様、どうして……」
地下牢の一室。
あれから三日経ったが状況は変わらない。
伊織は膝を立てて座り、その膝に顔を埋めて声を震わせた。
「食事よイオリ」
「要らないです……」
「お話しましょう?」
「三日経って今更ですか?」
「だってずっと黙ってるんだもの。何か知りたい事とか無いの?」
「……テナシーさんが何故私の世話係を? エルフ族の代表なのに」
「エステルから直々に頼まれたもの」
「何でですか? 私が居なければそれだけ反乱軍の勝率が落ちる事はテナシーさんも分かっているでしょうに」
「アタシがイオリの事を愛しているからよ。
エステルはこの最後の決戦で死ぬつもりよ。
そうなればイオリは愛する人を失い、そして監禁されて私の支配下にある。これ程理想的な環境は無いわ」
「……っ!」
伊織は怒りの形相で鉄格子を掴み、しかしへたりと床に座り込む。
「そんな……そんなの、あんまりです!
エステル様は本当に死ぬつもりなんですか……!?」」
「それだけ覚悟を決めてるって事よ」
「エステル様……」
確かに、と伊織は絶望に侵された心の奥底で納得してしまった。
エステルは変わらない。ずっと国と民を想い、自分を顧みず、自らを犠牲にしてでもそれを叶えようとしてきた。
自身が処刑されようとした時でさえ、自分を罵倒してきた国民を慮って命乞いした。
(……あれ?)
伊織はそこまで思い至って、心に引っ掛かるものを感じた。
「そうだ、エステル様は"死ねない"んだ。
死んだら呪いが周囲に振り撒けられて甚大な被害を齎すから……」
「イオリ?」
「そうです、だっておかしいですよ! 誰よりも民を愛しているエステル様が自分の死を前提に動く訳がない。
それでは反乱軍も王国軍も大勢の死者が出てしまう……!」
「だからイオリだけでも死なない様に此処に閉じ込めたんじゃないの?」
「危険な場面なんてそれこそ幾らでもありました。なのに何で今になって……?
エステル様を守るなら、それこそ私が居た方が良いのに……
本当にエステル様は決戦で死んでも良いと? でもそれじゃあ反乱軍、が……」
思った事を口に出して。
そこで、繋がってしまった。
まだ推測の域を出ない、それでいて荒唐無稽とも言える仮説。
「……エステル様は、国と国民を第一に想っています。
ゴブリンやオークも、真面目に市民の義務を果たしているなら平等に愛している」
「……? そうね、エステルはそういう奴よ」
「けれど、逆に国民を脅かす存在には容赦しません。
国と民の為なら例えドラゴンが相手でも戦うお方です」
「それも、そうね」
「では……今エステル様が率いている反乱軍は何ですか?
エステル様にとって、反乱軍は"味方"ではなく国を乱す"敵"なのだとしたら……!
エステル様は反乱軍を一箇所に集め、自死し……その呪いで王国の反乱分子を纏めて処理するつもりなんですよ!」
「……参ったわね。そこまで分かるなんて」
「テナシー、さん? まさか、全部知っていたんですか!?」
「えぇ。全部聞いたわ」
「それを知って何故……! このままではエルフも反乱軍も壊滅して、アーヴァインの横暴を止める手段は失われてしまうんですよ!?」
「イオリ、何でエステルがアタシにこの話を持ち掛けたと思う?」
「え、何で、ですか? テナシーさんが私の事を好いてくれているからでは……?」
「そうね。じゃあ、何でアタシがこの話を引き受けたのかは……分かる?」
「テナシーさんが引き受けた理由? えっと……」
「ま、そんな複雑な理由じゃないわ。一言で言えば……これが最良の判断だと思ったからよ」
ガチャ、と鍵が解除される音がした。ギィ、と扉が開かれる音も。
「服もバットも用意してあるわ。あの馬鹿を止めに行くわよ」
「え? え? なん……え?」
いきなり牢の扉が開放され、服とバットも用意されていて。
未だに事態が飲み込めていない伊織にテナシーは服を手渡しながら口を開く。
「これ着ながらで良いから聞いて。
アタシはこの決戦に勝つ最良の方法は、エステルが自死する直前にイオリを連れてくる事だと判断したの」
「理由を伺っても?」
「まずエステルの自死を止めるには? イオリを連れていけば良い。
イオリを呪い殺さない為にこうして閉じ込めてた訳だしね」
「最初から付いていっては駄目なんですか?」
「どうにかして途中でイオリを隔離しようとするでしょうね。
その場合、万が一呪いの効果範囲に入ってる可能性を考慮すると、自死による呪いという作戦は使えない。
ならばどうするか? 答えは単純よ。下手な指揮でワザと負ける。
エステルからしたら、反乱軍を壊滅させられれば良いんだもの」
そして、とテナシーは人差し指を立てる。
「下手な指揮で負ける最も簡単な方法は? 陣形を滅茶苦茶にすれば良い。無駄に戦力を分散させる、とかね。
でも、呪い殺す方法を取るならこの作戦は使えない。
呪いの範囲が分からないなら、出来るだけ一箇所に集中させなきゃいけないから。
つまりね? この決戦に勝利する最良の方法は『エステルが呪いを発動させる前提で陣形を密集させ、エステルが自死する直前にイオリを連れていって自死を防ぐ事』なのよ」
「そうすれば纏まった戦力で戦える、と。けれどその上で負けようとするのでは?」
「纏まっていればそれだけで強いし、各部隊長の判断で戦えるわ。
そして何より……イオリが居るなら負けられない。
イオリはこの反乱軍の最重要人物よ。もし負けて捕虜になったら……どうなるか分かるわね?
そして、エステルはそれを決して許容出来ない。必死に勝とうとするでしょうね」
「だからテナシーさんはエステル様の誘いに乗るフリをしてこんな事を……」
「万が一アタシの手の届かない所で監禁されたら全部ご破算だからね。
イオリが気付かなかったらアタシから説明するつもりだったけど……流石だわ。
さ、もう着替え終わった?
あの大軍の行軍スピードなら追い着けるし、陣形を密集させるにも時間が掛かる。
馬も用意してる。行けるわね?」
「はいっ!」
「よし! じゃあ行くわよ! あの良い子で我儘なお姫様を説教しにね!!」
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