第64話 開戦
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あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第64話 開戦
本文
「はっ! はっ!」
ビセットを出発して一日。
一夜を越した伊織はテナシーと共に馬に乗って駆ける。
「間に合いますか?」
「さっきも言ったけど単騎と軍隊じゃ移動速度が段違いよ。
向こうには鈍足のドワーフや、オークも居るしね。特にドワーフは馬に乗るのを嫌うし」
「目的地は……ネサラ平原、でしたっけ?」
「えぇ。ビセットと王都の間に広がる平原。
エステルの計画からして、その中腹辺りでの決戦を予定している筈」
「エステル様……っ」
逸る気持ちもあり、しかしこれ以上伊織に出来る事は無い。
後はただただ、テナシーを信じて進む。
◇◇◇◇◇
「見えた!」
それから何時間経っただろうか。
反乱軍の最後尾を務めるエルフの弓兵部隊の背中が視界に入る。
「既に陣形は配置し終わってる! ベストタイミングというかギリギリと言うか……イオリ、風魔法で声を増幅させるから思いっ切り叫びなさい!」
「はい!」
伊織はすぅ……と息を吸い込み。
『エステル様ーーー! お待たせしてしまい申し訳ございませんッ!!』
あらん限りの力で叫んだ。
「……っ!?」
部隊の中心。神輿の上に立つエステルは振り返り……驚いた様に目を見開いた。
「イオリ!」
「もう大丈夫なんですか!?」
「イオリさんが来てくれたぞ!」
反乱軍の面々には、伊織は体調不良でビセットで待機していると伝えられていた。
故に伊織はエステルの裏切りを悟られまいと、遅れてきた体で参上した。
今やナオと双璧を成す反乱軍の英雄。
諦めていた伊織の参戦に反乱軍は大いに沸き立ち、伊織とテナシーの行先を我先にと空けて道筋を作る。
「エステル様!」
「イオリ……っ」
神輿から降りて伊織と対面するエステル。
その後ろではナオが残念そうに溜め息を吐いているが、恐らくは彼女がエステルの殺害を担当していたのだろう。
「何故来たのじゃ! 妾は、お主だけでも生きていてほしいと……」
「それは私も同じです。エステル様が亡くなったら私も後を追うと言ったでしょう?」
「しかし……」
「ここで問答しても何にもならないわ。覚悟決めなさい」
「テナシー! 話が違うではないか!」
「そりゃ本心で話してないもの。で、どうすんの?
イオリは此処から離れないし、負けたらどんな目に遭うか分かったもんじゃないわよ?」
「妾には王族としての使命が……」
「だから、使命とイオリ……どっちを取るかって聞いてるのよ」
「妾は……妾、は……っ」
「エステル様」
伊織は俯き、葛藤するエステルの手を取る。
「私は、エステル様と生きる未来が欲しいです。
どうか私の我儘を叶えてはいただけませんか?」
「イオリ……」
「私は、エステル様と共に歩む未来しか考えたくありません。これから先も、ずっと」
「……そんなの、妾も同じじゃ……!」
「エステル様……っ!」
「うむ……イオリ! 妾と共に戦ってほしい!」
「はいっ!」
「ザフィア、勝つ為にはどうすれば良い?」
「イオリとナオでジェラルド様を抑えるしかありません」
「ジェラルド様が復帰されたのですか?」
「あぁ。だがあの傷。治癒魔法を使ったとて完治はしていない筈だ」
「うむ、二人共生存を最優先にせよ。ミレーヌ、拡声魔法を!」
「はっ」
ミレーヌが起こした拡声魔法。
エステルはそれに向かって思いっきり叫ぶ。
『聞くのじゃ! 反乱軍!! イオリが間に合ったぞ!
最強の剣と盾が揃った今、負ける道理はない!』
「「オオオオオオォォォォッ!!」」
「さぁ、反乱軍よ! 我等の祖国を変革する為に共に戦おうぞ!」
「「オオォォォォッ!!」」
この上ないタイミングでの伊織の参戦とエステルの演説。
それは集った戦士達の士気を最大限に高めた。
『全軍、突撃ーーー!!』
「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」
号令と共に動き出す二つの軍勢。
数は王国軍の方が多いが、兵士一人一人のフイジカルや士気、装備は反乱軍が優位だ。
「おらぁ!」
獣人が肩に担いで放つのはドワーフ製の携帯型火薬砲。
衝撃に耐える肉体と微細な魔力コントロールが要求される連射型こそ実用化には至らなかったが、この様なフィジカルのみが求められる単発式ならばと生産され、王国軍の陣地に穴を空けていく。
「ふっ!」
そして火薬砲すら防ぎきる重層兵に対してはケンタウロスが装備する騎兵用圧縮炸裂ランスが猛威を振るった。
どちらも一回限りの使い捨てで、その後はまともに真正面からぶつかる事になるが……以上の要因で反乱軍は王国軍相手に互角以上に渡り合っていた。
そして両軍の中央。不自然に空いたスペース。そこに立つのは三人の人物。
「ナオ、行ける?」
「無理じゃない? あの人盾引っ張り出してんじゃん。絶対アタシ対策だって……とぉ!」
会話の中で放った剣はジェラルドが振るった剣に砕かれ……踏み込んできた。
ナオが放つ刀剣群は剣で薙ぎ払われ盾で叩き落とされ、彼の歩みを止める事が出来ない。
「バント!」
「ふっ!」
「がふっ……!?」
伊織はバントでジェラルドの剣を弾くが、そこから彼の蹴りを腹部に受けて吹き飛ばされた。
「おっと。だいじょぶ?」
「何とか……っ」
「んー? 何か相手も痛そうにしてるねー? やっぱまだ傷が痛む感じなのかな。
万全だったら伊織ちゃんのお腹ぐちゃぐちゃになってたかもねー?」
「笑い事じゃない……げほっ」
伊織はナオに支えられながら姿勢を正しバットを構える。
腹部に受けた蹴り……あそこもバントスキルの延長範囲内で、下手な剣撃ならば簡単に防げる筈の防御力。
それが破られたという事は、即ちジェラルドはごく普通の蹴りでその防御を打ち破った事になる。
分かっていた事だが、やはりジェラルドは桁違いに強い。伊織の頬を汗が伝う。
「……うん? 何だろう、あれ」
「わ、キモーイ」
「……?」
伊織とナオの視線の先。
王都アゼルロートから上がった黒い球体。
最初は砲丸かと思ったが、それにしては遅いし黒いモヤが掛かっている。
ジェラルドも振り返って見上げるが、彼にもまるで覚えが無い様だ。
「イオリ!」
「エステル様?」
「アレは何か嫌な予感がする! イオリ、箒に乗って打ち返してくれ!」
「はい!」
「ナオ、この場は任せるぞ!」
「努力しまーす」
慌てた様子でやって来たエステルの鉄箒に跨り、伊織はエステルと共に宙に飛び出す。
「箒に乗ったままでは姿勢が不十分なので、あの球体に合わせて反回転して下さい!」
「やってみよう!」
「行きますよ!」
速度を上げて球体に近付く二人。
エステルは鉄箒を操り反回転の軌道を描き、伊織はそれに合わせてバットを振り抜く。
「ヒットォ!」
伊織に打ち返された球体は真っ直ぐな軌道で王国軍に着弾した。
「……え?」
「な、なんじゃあれは!?」
着弾した瞬間、黒いモヤが周囲に広がり王国軍の兵士が泡を吹いてバタバタと倒れていく。
「呪い……?」
「この範囲はどういう事じゃ!? 今回は打ち返したが、あのまま着弾していても王国兵を巻き込んでおったぞ!?」
「っ、エステル様! また……!」
「ぬぅ!? イオリ、人の居ない場所に打ち返すのじゃ!」
「そんな場所ありませんよ……!?」
それでも、と伊織はキョロキョロと周囲を見渡す。
その瞬間、背後から強烈な閃光と拡声された声が響いた。
『王国軍! 戦闘を放棄してこの光の方へ退避!
貴方達は国を守る為に立ち上がった者だ!
間違っても背後から味方に撃たれて死んで良い存在ではない!!』
「ジェラルド……!」
ジェラルドが戦闘を放棄し、兵の退避を先導している。
同じく反乱軍側もザフィアの指示により退避し、先程着弾した箇所から双方の兵士が引いていた。
「死者に鞭打つのは心苦しいが……あそこに打ち返すのじゃ!」
「はい!」
伊織は再び飛んで来た球体を同じ場所に打ち込む。
しかしそれだけでは終わらず散発的に球体が発射され、その度に伊織とエステルは生者の居ない箇所へと打ち返し続けた。
「……なぁ、反乱軍って俺達の事も守ってるのか?」
「つーかあの球なんなんだよ! 王都の方から撃ってるじゃねーか!!」
「俺達も余裕で範囲内だよな……俺達は捨て駒って事かよ!」
「それだけなら未だしも、下手したらジェラルド様まで巻き込まれてたんだぞ……!?」
王国軍兵士の戸惑いや怒りが徐々に背後の王都に向かっていくのを感じる。
伊織の脳裏に、もしかしたら協調出来るかも、と淡い期待が過ぎり……
「え……?」
これまでよりも数十倍巨大な呪いの黒球が、その思考を吹き飛ばした。
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