※第66話 新たな時代
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - ※第66話 新たな時代
本文
「これより、アーヴァイン・ゴル・ヴァルドハイムの処刑を執り行う!」
エステルの宣言に王城前広場に集まった民衆からアーヴァインへ罵倒が投げつけられる。
当のアーヴァインはそれに負けじと声を張り上げた。
「本当に私を殺す気か!? 実の父を!」
「誰の親かは関係無いのじゃ、アーヴァインよ。
お主は禁術を用い、民の命を危険に晒した。
そして、お主の悪政により国民の不満が溜まり内戦が起こった……もはや生かしてはおけぬ」
「私は……父としてお前を愛している!
お前を今まで育ててやった事に恩義は感じないのか!?」
「あんな目に遭うぐらいなら赤子の時点で縊り殺してくれれば良かったのに」
「ひぃ……っ!?」
「エステル様……」
エステルが父を前に心の奥底に閉じ込めていた本音を口にすると、アーヴァインは目を見開いて震え上がった。
エステルを差別し迫害しておきながら白々しく愛を騙るアーヴァインが怯える姿に、伊織は苛立ちしか感じなかった。
「大義の為じゃ。民の為に死ぬがいい!」
エステルの腕が振り下ろされ、アーヴァインの床が抜ける。
首に掛かったロープがアーヴァインの首を折り、絶命させた。
「これで、この国は変わる。もう誰にも虐げられる事の無い国に」
エステルはアーヴァインの遺体に目もくれず処刑台を降りると、民衆に向かって宣言する。
「今よりヴァルドハイム王国は新たなる時代を迎える!
種族によって差別される世は終わりを告げたのじゃ!
これからは全ての民が共に歩き、手を取り、寄り添い合う国となる事を期待する!」
「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」」」
エステルの演説に民衆が歓声を上げた。
伊織もこの光景を目に焼き付けようと食い入るように見つめていた。
◇◇◇◇◇
前国王アーヴァイン・ゴル・ヴァルドハイムの処刑が国王エステル・リア・ヴァルドハイムの最初で最後の仕事だった。
処刑を終えたエステルは速やかに弟のジェラルド・ギル・ヴァルドハイムに王位を譲った。
ジェラルドを含めた周囲は(エステルが煽てに弱く、調子に乗りやすい性格である事を知っているので)了承し、新たに若く強い国王の元でヴァルドハイムは歩き出す事となる。
また、そのエステルは新たに『種族間平和交渉官長』……要はヴァルドハイム国内の様々な種族との交渉や問題解決を行う為の役職に任命された。
エメルダが作った特製バッヂを大いに見せ付け、自慢する様に胸を張る姿が可愛いと一部で評判である。
長年啀み合ってきたレオマーリに関しては、ついぞナオが抜けた穴を埋められず……何ならそのナオがヴァルドハイムに付いてしまったので巻き返しは不可能と判断。
ジェラルドの寛大な申し出もあり、両国の間に和平が結ばれた。
◇◇◇◇◇
「魔王裁判、とな?」
「えぇ。魔王軍がスターシュで討たれた事は知っていますわね?」
「うむ」
ジェラルドが国王になり三ヶ月。
大事な話があると、エステルや伊織と言った従者達。
そして内政官の代表となったエメルダがジェラルドの執務室に集結していた。
エメルダの問い掛けにエステルはクッキーを頬張りながら勢いよく頷いた。
「魔王に協力した、或いは同調したと見られる国が幾つかあって、その事実確認ですね。
その魔王裁判に出席する様に手紙が来ました。
ヴァルドハイムは魔王軍との繋がりが噂されていましたから」
「う、む……すまぬっ!」
「お姉様のせいではありませんわ。全てはアーヴァインが悪いのですもの」
かつてエステルはアーヴァインに魔王軍と通じていると濡れ衣を着せられた。
また、脅しによってエステル自身もそれを認める嘘の自白をさせられた事もある。
魔王裁判に呼ばれる理由に心当たりが有りすぎるエステルが勢い良く頭を下げると、エメルダが優しく微笑みながら頭を撫でた。
「そう心配しないで。スターシュが魔王軍と決戦する前に、ブラックドラゴンの素材を大量に譲渡したもの。
これで魔王軍に与していると判断する人は居ないわ」
「そうですね。どちらかと言えば、公式に魔王軍とは関係が無いという証を受け取りに行く、ぐらいの認識で大丈夫ですよ。
それに、もっと露骨に魔王軍と協調したと思われる国もありますし、そちらへの追求がメインだと思いますよ」
「む、そんな国があるのかの?」
「アヴィリスですわ。奴隷国家、と言った方が分かりやすいかしら?」
「奴隷国家……何処かに従属している、という事ですか?」
「その逆です」
伊織の疑問に応えたのはミレーヌ。
彼女はやや憤慨した様子でアヴィリスの実態を語り出した。
「アヴィリスは人身売買を公的に認めている数少ない国です。その中でも最大級の規模ですね」
「そんな国が……」
「更に質が悪いのは、アヴィリスの常連が各国のお偉いさんに居る事です。
強烈に非難していた人権家も、裏でこっそりアヴィリス奴隷のご主人様になっていた……なんて噂もあります」
「どうやら相当上手く立ち回ったそうですわ。詳細は分かりませんけれど」
「追求する側も名だたる大国が揃い踏みですよ。
スターシュは勿論、エナーゼル、ヤナーカ……カルネージもありますね。ほら、魔神使いが居る」
「魔神使いとな?」
「神の如き強さの魔神を使役するそうですよ。
魔王軍分隊と複数国家による連合軍をカルネージ一国で返り討ちにしたのも、その魔神使いの力あっての事だとか」
「噂によるとその魔神使いは美形の女性に弱いとか。
イオリなら籠絡出来るのではなくて?」
「む」
エメルダの言葉にエステルは頬を膨らませて伊織の腕を抱く。
伊織はそんなエステルに微笑み掛けると、エメルダに視線を向けた。
「私はエステル様一筋ですから」
「……! うむ!」
「そ、お熱いですわね。ともあれそういう訳ですので各自予定は空けておいてくださいまし。
特にお姉様には詳細な証言をして頂かなくてはなりませんし」
「うむ、承知した!」
「……王族総出ですか?」
「お姉様は証言、お兄様は国王、私は内政担当ですもの。
イオリ、貴女が一番護衛に向いているのですからしっかり守ってくださいましね」
「ジェラルド様には必要無いじゃないですか……」
若干胃の痛みを覚えながら伊織は肩を落とした。
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