第9話 柚葉の将来
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あらすじ
まるふく日和 - 第9話 柚葉の将来
本文
「柚葉、肉うどんとたぬきうどんね」
「分かった!」
今日のお客さんはけん兄とかー兄。
日曜日だからか、かー兄もラフな服装だ。
けん兄は席三つ分ぐらいのスペース取ってるけど……どうせ満席にはならないから良いか。
柚葉はちょいちょいパッパとそれぞれ豚肉とかき揚げを乗せていく。
随分と手慣れて……だけど決していい加減じゃない。
「ん……」
「どうしたの? なんかソワソワしてるけど」
「あ、えっと……」
「……あぁ、もうこんな時間か。良いよ、行っといで」
「……! うんっ!」
柚葉は満面の笑みを浮かべてベーゴマと紐を引っ掴んで駆けていく。
『まるふく』のエプロン着けっぱなしだけど……まぁ、本人が気にしないなら良いか。
「どしたん?」
「オトセさんとこで小中学生達とベーゴマ大会やるんだって。もう昨日からずっとソワソワしててさ」
「あぁー……だから茂さんと徳さんも居ないのか」
「今回も大人気なく本気でやるんだろうなぁ」
「だね。多分大会が終わったらこっちに来るんじゃない?
雲母も参加するって言ってたから、あの子も後で来ると思う」
「確か椎名さんの付き合いだったか? 雲母はともかく、歳下とは言えベーゴマ仲間も出来たみたいで良かったじゃないか」
「そうなんだけど……聞いてよかー兄、けん兄。
柚葉ったらすっかりベーゴマにハマっちゃってさぁ。ヤスリで削ったりしてんのよ」
「懐かしいなぁ、おい! 尻の先端を尖らせると良く回るんだよなぁ」
「バランス考えて削らないといけないから難しいんだよな」
「えぇ、ガチ勢ってそうなの……? 私も子供ん頃はちょろっとやってたけど、改造までは手は出してなかったからねぇ……」
「削るだけならまだ良いや。でも削ってくと軽くなるからな。
それを補う為に重りをくっ付けて補強し出すともういよいよだな」
「うぅん、クレヨンで模様を付けてる段階は可愛らしかったんだけどねぇ……」
「まぁ、今まで娯楽らしい娯楽に触れて来なかったんだ。
千紘の心配も分かるが、もうちょっと見守ってやったらどうだ?」
「そりゃそうだけど、柚葉の将来の事を考えるとねぇ……
柚葉ってまだ将来何したいとか無いのよ。
ずっと『まるふく』で働きたいみたいな事は言ってたけど……」
「そりゃあ……」
「それだけだと難しいな」
「でしょ?」
『まるふく』は住民との交流の場として経営していて精算度外視。
『まるふく』だけの収入じゃ生活は出来ない。
「客足増えたからって解決する問題じゃねーしな」
「値段を相応なもんに上げればまだ分からないが……それはしたくないだろ?」
「もちろん! かー兄やけん兄なら大丈夫だろうけど、『まるふく』には子供やお金の無い人も来るからね。
もし値上げなんてしたら天国のお爺ちゃんに怒られちゃうよ」
「じゃあ別の仕事探すか? そもそも今の椎名さんの習熟度はどうなんだ? 計算とか読み書きとか」
「簡単な計算なら出来る。読み書きは、メール相手の雲母が漢字に振り仮名振ってくれてるからちょっとずつ覚えてってる。
他の教科は鈴華がメールで簡単な問題を送ってくれてる」
「それであの精神年齢じゃ……将来の事を心配するのはまだ先じゃないか?
少なくとも、年相応の精神性はそんなすぐに身に付くもんじゃないだろ」
「あ、じゃあアレはどうよ? ベーゴマ好きならベーゴマ配信者は? 千紘なら動画編集出来るだろ?」
「いやー、仮にブレイクするとしてももっと安定した仕事に就いてほしいー!」
「だったら俺んとこか……それで無くとも、この町にゃあ後継者を欲しがってる店なんて探しゃああるだろうけどよぉ。
……『まるふく』に居るってのはダメなのか?
そりゃあ『まるふく』だけじゃ食ってけねーけどよ。
千紘も『まるふく』を閉める気は無ぇんだろ?
だったら柚葉にうどんの作り方を教えて『まるふく』を任せて、千紘は本業に集中する……それで良くねーか?
なんだってそんな柚葉の独り立ちに拘るんだよ」
「それは……」
けん兄の問い掛けに言葉が詰まる。
人に話せる理由じゃないから。
このまま一緒に過ごしていたら、絶対に柚葉を好きになってしまう。
……ううん、そんな綺麗なものじゃない。
私は……柚葉に欲情してしまう。性的な衝動を抱いてしまう。
そして、柚葉はまだ精神的に幼い。
親愛と性愛の違いを理解しないまま私の事を受け入れかねない。
私が、それで思い留まれるか分からない。
私が自分自身の欲望で柚葉を穢してしまう前に……柚葉を守るためにも柚葉には早く私から離れるべきだ。
「……なぁ、千紘。確かに椎名さんは幼いが、好き嫌いは分かるし主張出来るだろ?
彼女の将来を心配するのは分かるが、結局のところ進路を決めるのは椎名さん自身だ。
その時が来るまで待っても良いんじゃないか?」
「その時が何時来るのか……」
はぁ、と溜息を吐いたそのタイミング。
ガラッと引き戸が開けられ、ニコニコ笑顔の柚葉。
それに次いで、ベーゴマ大会の参加者達が『まるふく』に入店してきた。
「千紘! 勝ったよー!」
柚葉は自慢気に右手に持ったスマホの画面と、左手に持ったベーゴマを掲げてみせる。
スマホには笑顔でピースサインをしている柚葉の姿が。
いつの間にか写真なんて覚えたのか……なんて思っていたら、奥の方で雲母が申し訳なさそうに両手を合わせていた。
きっと柚葉にせがまれて写真の撮り方を教えたんだろう。
許可無く勝手に教えた事を謝ってるんだろうけど……別に大丈夫と目配せすると安心したような表情になる。
「……で、柚葉は何位だったの?」
「5番目!」
「ふぅん?」
参加者は茂さん徳さんに小学生3人に中学生2人。そして雲母。
その中で5位は中々頑張った。
そして何より、大会初参加で初勝利だ。
「よし、今日はお祝いにケーキを買ってあげる。後で買いに行こ?」
「やったー!」
無邪気に喜ぶ姿は本当に子供みたいで。
だからこそ、私自身からこの純粋な柚葉を守る必要があると改めて思い知らされる。
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