第10話 『まるふく』の一日
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
まるふく日和 - 第10話 『まるふく』の一日
本文
「んー……」
目が覚めた。
私に抱き着いて寝ている柚葉を揺すって起こす。
「柚葉、朝だよ」
「んん〜……」
いやいや、と頭をグリグリして私の胸に顔を押し付けてくる。
可愛いけど、朝の仕込みもある。頭を撫でながら再度覚醒を促す。
「柚葉ー?」
「んー……」
最後の足掻きとばかりに一層強く頭を押し付けてきて。
それでも名残惜しそうにムクリと起き上がって、欠伸をしながら伸びをする。
……Tシャツ1枚だし、足もだらしなく開いているから色々際どい。(下着は履いてるけど)
服装に関しては私もそうだから強くは言えない。
それに柚葉は自分が性的な目で見られるなんて思ってない……というよりそういう知識や経験がない。
だから気にしてない。気付けない。
……私はまだ平気。まだ柚葉の事は大切な家族で、そういう目では見ていない……筈。
◇◇◇◇◇
「頂きます」
「いただきますっ」
朝食は焼き魚とほうれん草のおひたしに卵焼き。
『まるふく』に来て二ヶ月。箸の使い方も上手になってきた。
飢餓状態になった経験からか、何でも美味しい美味しいと言って食べるけど好き嫌いとか無いのだろうか。
それならそれで喜ばしいけど、押し込めている、遠慮しているなら教えてほしい。
或いは無自覚に抑え込んでいる可能性もある。
……いや、これも勝手な憶測か。
「えぅ……っ⁉︎ 千紘ぉ……っ」
「骨? 魚を食べる時は気を付けなさいって言ってるでしょ? ほら、あーんして」
「あー……」
こういう所はまだまだ子供っぽいんだけどなぁ。
◇◇◇◇◇
「千紘、千紘っ! 写真撮って良い?」
「良いよー」
「やったー!」
雲母にスマホで写真を撮る方法を教わってから、柚葉は色々な物を撮る様になった。
人を撮る時は事前に許可を取る様にと言ったけど、それはちゃんとに守ってる。
現にこうやって私にも許可取ってるし。
「えへへ〜♪」
そして、写真を撮るとそれを見て嬉しそうに笑う。
私以外の写真もあるけど、私の写真の時は一際嬉しそうなのは……自惚れなんだろうか。
「ほら、終わったら開店の準備するよ。手ぇ洗ってきな」
「うんっ!」
トタタっ! と駆け出す足音。
来た当初はもっと鈍臭かったのに、本当に元気になった。
「はい、かまぼことおにぎりね。指切らない様に気を付けなさい?」
「分かったっ!」
返事は良いんだけどねぇ……私から見るとどうにも危なかっかしい。
柚葉がトッピング以外の仕事もやりたいって言い出して。
取り敢えず火を使わせるのは怖いからら最初はおにぎりを作らせた。
形や塩加減を間違えたりしたけど、最近では安定して上手くなってきている。
そのタイミングで新しい手伝い……かまぼこ切りをやらせる様になったけど、やっぱり怖い。
厚く切ってしまった奴は無理してもう一度切ろうとしなくて良いとは伝えたけど……頑張り屋だから張り切ってしまう可能性があるのも怖い。
かと言って私は私で天ぷらを揚げないといけないので、柚葉ばっかり見てる訳にも行かないんだけど。
実は柚葉は最近うどん作りにも挑戦している。
そっちは本当に始めたばかりで、まだまだお店には出せないけどね。
◇◇◇◇◇
諸々の準備を終えて11:00に開店。
「来たぞー」
「今日も暑いなぁ」
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませっ!」
徳さん茂さん、今日は開店と同時に来店したな。
何時もそこから1時間程話したりテレビ見たりで、12時頃からうどんを注文する。
12時に来る時は勿論だけど、11時だろうが11時半だろうが、基本的に12時まで待って注文する。
別に席が埋まる事は無いから困らないけどね。
「こんにちはー!」
「千紘おねーちゃん!」
「柚葉、後で駄菓子屋な!」
次に来たのは小学生達。
以前からもちょくちょく来てはいたけど、精神年齢の近い柚葉が居るからか頻度が増した様な気がする。
夏休みに入ったからって言うのもあるだろうけど。
「千紘さーん! ゆずちー!」
雲母も夏休みという事で良く来る。
本当に学校での友達付き合いが上手く行ってるのか心配になるけど、そこは本人の弁を信じるしかない。
一応、秘密の場所だから学校の友達には言ってない……という事らしいけど。
「きつねうどん」
「月見うどん」
「素うどんくださーい」
「おにぎりと天ぷら!」
「同じの」
「私はおにぎりセットだけです」
「はいはいちょっと待ってねー」
徳さん茂さんがこの時間に頼むのは何時もの事だけど、丁度子供達が来たタイミングだっから注文が重なった。
だけど柚葉ももう慣れっこ。
温めるだけで提供出来るおにぎりと天ぷらはもう任せている。
うどんも、私が茹でた物にキッチリと注文通りのトッピングをしてくれる。
◇◇◇◇◇
14:00
ピークが過ぎたので一旦休憩。17:00への再開に向けて英気を養う。
「ごちそーさま! 行こっ!」
「おー!」
昼食を終えた柚葉はベーゴマを引っ掴んで子供達と共に駄菓子屋へ。
子供達はこの時間になるまで宿題やゲームで時間を潰すけど、それで良い。
『まるふく』はそういう場所だから。
私はと言うと、本業のWEBデザイナー業を進める。
ちょっと気を紛らわしたい時は大抵茂さん徳さんを始めとした話し相手が居るのでこれで結構良い環境だったりする。
ちなみに休憩状態でも暖簾は下ろさない。
お客さんが来たら、うどんは出せないけどおにぎりや天ぷらなら出せるから。
◇◇◇◇◇
17:00から営業再開。
ここからは大人が来る時間。と言っても、かー兄や鈴華が来るのはもっと遅くなってからだけど。
ちなみにこの時間帯のテレビはちょっと前までは野球中継が主だった(茂さん徳さんの好み)けど、今はその二人の頼みもあって柚葉向けのアニメになっている。
お客さんが来たら真面目に仕事はするけど、それまでは目を輝かせてテレビを見ていた。
◇◇◇◇◇
21:00
『まるふく』を閉めて、翌日の仕込み。
その後夕食、歯磨き(柚葉は雑なので、磨き残しが無いかチェックする)、入浴。
もう一人で入れる筈だけど、柚葉は私と一緒に入りたがる。
……正直言って心臓に悪い。でも柚葉の精神年齢が今どの辺なのか分からないから無碍に出来ない。
一人だと心細いのか、それとも一緒に入るのが当たり前だと思っているのか。
後者ならそうじゃないと教えなきゃだけど、前者だった場合は言い付けを守って無理して一人で入ろうとするだろうから……難しい。
「千紘ー」
「もう、一人で寝れるでしょ?」
「や!」
この布団に潜り込んでくる行為も、甘えなのか、認識がズレているのか……
それにシャツ一枚で抱き付いてくるから、これもまた中々に来る物がある。
「柚葉は子供、柚葉は子供……手を出しちゃ駄目……」
「ちひろ……?」
「何でもない。ほら、早く寝なさい」
「はぁい……」
危なっ。声に出てた。
でも、そう思い込ませないと危ないんだ。
確かにまだ子供っぽいけど、体付きは健康になってきたし仕事も徐々に覚えてきて頼れる様になってきた。
……それ自体は嬉しい。でも、駄目。
柚葉は庇護対象なんだから。
子供、なんだから……
そう思う事が、そう思い込まなきゃいけない時点で手遅れなのかもしれないけれど。
「ちゅ―……」
「……え?」
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。