第12話 気持ちの確認
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
まるふく日和 - 第12話 気持ちの確認
本文
「そういう訳なんだけど……」
『うぅん……』
柚葉との関係について。
どうなんだと思いつつも、一人ではやっぱり不安で。
だから鈴華に電話で相談したけど、案の定困らせてしまっている。
『千紘と椎名さんは他人。椎名さんは成人だし、私から二人の関係を強く否定する事は出来ないわ。
勿論椎名さんは未成年だから節度は守ってほしいけど』
「そう、だよねぇ……」
『千紘はどうしたいの?』
「柚葉に惹かれてるのは確か。でもそれ以上に柚葉を守りたい。傷付けたくない。
今の柚葉には深い関係になる選択肢が私しか居ない。
赤ちゃんみたいな情緒からちょっとずつ成長していってるのに、私と……女同士って選択肢しか与えないのは良くないと思う」
『過敏になりすぎじゃない? 学生時代は本気で同性同士で交際していても、卒業や大人になったら異性と交際する事も珍しくない。
そういう意味では、千紘と付き合うのも選択肢を広げる事になると思うわ』
「う〜ん……」
『まだ何か不安?』
「……柚葉は親にネグレクトされて育った。親に裏切られた。
親代わりの私が性欲をただぶつける結果にならないか。
柚葉にまた親から裏切られる経験をさせてしまわないか……怖いの」
『それは椎名さんが千紘を親と見ていた場合でしょ?
確かに保護した当初はそうだったかもしれないけど、今はもっと別の存在として見ているかもしれないわ。
今椎名さんはグングン成長してる。まだ言動は子供っぽいけど、やって良い事悪い事。
好きな人や嫌いな人……その区別はもう付いてるもの』
「柚葉が人を嫌うの……?」
『自分の境遇を知ったら、ハッキリと両親の事は嫌いだと言っていたわ』
「あぁ、そりゃそうか……うん。柚葉の事は子供だって、庇護対象だって事に拘りすぎて、目が曇ってたかも。
ありがとう、ちょっと勇気出てきた。本当にちょっとだけだけど」
『千紘の言うちょっとは本当にちょっとだものね。決意が揺るがない内に動く事をおすすめするわ』
「肝に銘じるわ」
『何かあったら連絡して。夜中でも気にしなくて良いから』
「ありがとう……じゃあね」
鈴華との通話を終えてスマホを置くと、何やらキッチンから慌ただしい音が聞こえてきた。
「あ、あれ……?」
柚葉の困惑した声に続いて、何かが焦げる匂いが漂ってくる。
「柚葉⁉︎」
急いでキッチンに向かうと、柚葉がフライパンの前で途方に暮れていた。
中には真っ黒に焦げたウインナーと、これまた焦げて固まった卵が入っている。
「千紘、ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
「どうしたの?」
「千紘、お疲れ様って……夜食作ろうと思ったのに……全部だめにしちゃった……」
「柚葉……」
涙をぽろぽろと流しながら謝り続ける柚葉を見て、胸が締め付けられる。
「大丈夫。ありがとう、柚葉」
そっと柚葉を抱き寄せて、頭を撫でる。
「でも……焦がしちゃって……」
「気持ちが嬉しいの。私の為に作ってくれようとしたんでしょう?」
フライパンを火から下ろして、焦げた部分を少し取り除く。まだ食べられそうな部分もある。
「千紘、食べちゃだめ……」
「大丈夫。柚葉が作ってくれたんだもん」
一口食べてみると、確かに焦げの苦味はあるけれど、柚葉の気持ちを思うと温かい味がした。
「美味しい」
「ほんと……?」
「ほんとほんと。ありがとう、柚葉」
柚葉の涙が止まって、安堵の表情を浮かべる。そんな柚葉を見ていると、鈴華の言葉を思い出した。今の柚葉をちゃんと見てあげなきゃ。
「柚葉」
「?」
「柚葉は……私の事、好き?」
「好き!」
即答だ。
「好き! 大好き! でも……」
柚葉は小さな手をぎゅっと握りしめて、懸命に言葉を探している。
「えっと……ご飯は美味しいから好き。雲母は友達だから好き。でも千紘は……千紘だから好きなの!」
「千紘だから?」
「うん! 千紘は千紘で、他の誰でもなくて……千紘が居ると安心するし、胸がどきどきするし、ずっと一緒に居たいの。
千紘に撫でてもらいたいし、抱っこしてもらいたい。千紘だけの柚葉で居たい!」
必死に自分の気持ちを伝えようとする柚葉。その一生懸命な姿が微笑ましい。
「それって……好きで合ってる?」
不安そうに見上げてくる柚葉に、私は優しく微笑んだ。
「うん。それは間違いなく好きって気持ち。私も柚葉の事、好き」
「ほんと?」
「本当」
その瞬間、柚葉の表情が花のように綻んだ。
「千紘!」
柚葉は私に抱きついて、甘えるように顔を胸に埋めた。その温かさを感じながら私は改めて思う。
柚葉のこの気持ちが恋愛感情なのか、それとも別の何かなのか、それは分からない。
でも、だからこそ。柚葉がもっと成長して、自分の気持ちを本当に理解できるようになるまで、私が守り続けよう。
柚葉が安心して成長できる場所で在り続けよう、と。
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