第13話 頑張る柚葉
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
まるふく日和 - 第13話 頑張る柚葉
本文
「千紘っ、かまぼこ上手に切れたよ!」
「おー凄いじゃん」
キッチリ正確にとは行かないけど、確かに今までよりは均一で。
だから手放しに褒めたんだけど、柚葉は何かを期待する目でジッと見つめてくる。
「よく頑張ったね。いいこいいこ」
「むふー!」
頭を撫でてあげると、満足気にグリグリと胸に顔を押し付けてきた。
昨夜お互いに想いを告げ合って両想いになった……けど、だからと言って大きく変わった事は無い。
何しろ柚葉には変えるだけの知識……恋人とは何ぞやの根本的な知識が無い。
だからこうして私の為に頑張ったり甘える事が、今の柚葉にとっての愛情表現。
それを子供だから、とか精神的に幼いから、とかって理由ではもう切り捨てたりしない。
「ゆずちー甘々だねぇ」
「千紘は特別だから!」
「へぇ〜?」
前々から柚葉に恋愛指南(?)をしていたり雲母は愛おしそうに、慈しむ様に柚葉を見て微笑みかける。
雲母からしたら大層もどかしかっただろうけど……私にだって事情はあるんだからそこら辺は分かってほしい。
「がっはは! 上手くなったじゃねーか!」
「うどんデビューももうすぐかぁ?」
「いやいや、流石にうどんはまだお客さんには出せないよ。
あ、痛っ、頭突きしてもダメなものはダメなのタマ」
「タマはゆずちーの味方みたいだね?」
「だからって未熟なうどんは出せないでしょって。柚葉、タマと遊んであげて」
「はーい」
柚葉が猫じゃらしを持って店の外に行くとタマも追従。
猫じゃらしを追ってクルクルと旋回し始めた。
うーん、タマってもう私より柚葉の方に懐いてる気がする。
それはそれでちょっと切ない。
「そういえばさ、千尋さんて海行かないの? スタイル良いのに」
「スタイル云々はともかく『まるふく』を空ける訳にはいかないからね」
「つってもひろ子と柚葉で年中無休はなぁ……ちょっとぐらい休んでも良いんじゃねーか?」
「正月も開けてたやろ? たまには柚葉とどっか遊びに行ったらええやんか」
「私がしたいからやってるの。正月とかクリスマスとか……そういうおめでたい日であっても輪に馴染めない人とか、何らかの事情がある人とか居るでしょ?
『まるふく』はそういう人に寄り添う為のお店だもの」
「でもゆずちーの情操教育には色々連れてってあげた方が良いと思うんだけどなー?」
「それ言われたら反論し辛いけど……だったら雲母が連れていってよ。柚葉にお金渡しとくから」
「ゆずちーまだ貯金は苦手?」
「お菓子とベーゴマとその改造費に使ってる。
一応ちょびっと貯めてたりはするけど、他に使い道も無いから貯金するモチベーションが無いみたい」
「うーん、それは仕方ないかぁ……」
「そもそもひろ子を置いて遠出しないんじゃないか?」
「やっぱひろ子が何処かに連れてってやった方が良いと思うで。
このままじゃあ、この町しか知らんで大人になってまうぞ」
「それは……良くないね。柚葉も自分から行動範囲を広げる気は無いみたいだし……分かった。どこか連れて行く」
「決まり! 何処にする?」
「雲母も行くの?」
「とーぜん! 目は多い方が良いでしょ?」
「それは、まぁ……」
柚葉は小柄ですばしっこい。何かにビックリして逃げ出す可能性も考えると、若くて動ける人員が増えるに越したことはない、か。
「で、何処に行く? 海は危ないと思うんだよね。色んな意味で」
「水泳習ってないし、不用意に色んな生き物に触りそうだしね……」
「でも生き物を見るのは良いんじゃないか?」
「柚葉、まだ猫と犬とか……あとは鳩か雀ぐらいしか見た事ないやろ? 動物園や水族館が良えんやないか?」
「動物園か水族館……そうだね。そこならナンパもされないだろうし」
「じゃーそれで! 茂さん徳さんも来る?」
「若いもんのペースにゃついていけんて」
「どっちも散々家族で行ったからなぁ……美味い土産でも買ってきてくれや」
「はーい。ゆずちー!」
「なにー?」
雲母に呼ばれて柚葉が戻ってきた。タマもその後をついてきて、のっしのっしと敷居を跨ぐ。
「ゆずちー動物園と水族館、どっちに行きたい?」
「る? どーぶつえんはライオンとかが居て、すいぞっかんは魚が居るところ」
「そーそー。どっちが良い?」
「千紘は? 行くの?」
「うん。『まるふく』はお休みして一緒に行くよ」
「……!」
私の答えを聞いて憂いがなくなったのか、腕を組んで本格的に考え込む柚葉。
こんなに悩むのは、ベーゴマの模様を星にするか炎にするか悩んでいた時以来だ。
「……どーぶつえん」
「お、その心は?」
「けーたがこの前行ったって!」
けーた、というのは駄菓子屋で屯するベーゴマ仲間の小学生。
そうか、友達の自慢話を羨ましがるぐらいには欲が出てきたんだな……
「あのね、けーたがね! おっきい動物がいっぱい居たんだって!」
「居るよー。ゾウとかキリンとか超デッカいよー」
「あと小っちゃい動物も触ったって!」
「あるねー、そーゆー触れ合いコーナーみたいな奴」
「あとね、あとね! こはく?から動物を復活させる実験とか……」
「それは知らないかなー」
いったい何処で何をしたんだけーた。
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