第15話 お見合い?
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あらすじ
まるふく日和 - 第15話 お見合い?
本文
「それでね、ゾウとかキリンとかこーんなに大くて……!」
「そうかそうか」
「近くで見たらそらデッカいやろなぁ」
柚葉は昨日行った動物園の話を身振り手振りで茂さん徳さんに話している。
その様がとても可愛らしく、茂さん徳さんはデレデレ顔だ。
「あ、そうだ! 写真も撮ったんだよ!」
柚葉はスマホを取り出すと、昨日撮った写真を二人に見せた。
「お、これはすごいなぁ」
「上手く撮れてるやんか」
「ふふーん!」
徳さんは目をまん丸にさせて驚きの表情を浮かべ、茂さんは顎髭をなぞりながら感心したように頷いた。
それを受けた柚葉は得意満面で鼻を鳴らして胸を張る。
「動物園は良い刺激になったみたい。やっぱり柚葉には色々な体験をさせてあげたいって思ったよ」
「それが良い。何事も経験だからな。特に今の柚葉はスポンジみたいにガンガン吸収するからな」
「『まるふく』休むのは気にせんでええよ。
そら寂しいけど、大事な日はそっち優先するもんや。
ほら、マサん所もこの前長男が野球の試合出るってんで臨時休業して応援しに行ってたやろ」
「あー、肉屋の? その時は買い物行ってなかったからなぁ……そっか、貴大君レギュラーになったんだ」
「こーしえん?」
「貴大君はまだ小学生だから甲子園には行かないかな。
あの子野球一筋で駄菓子屋とかベーゴマやんないから柚葉とは接点無いよね。
ちょっと前まではお母さんとちょくちょく来てたんだけどね」
「まぁ、今はガンガン食って身体をデッカくせないかん時期だからなぁ」
「食う力は生きる力やからな。柚葉だって随分食べれるようになったやろ?」
「たまにおかわりするよ!」
「偉いぞ!」
「どんどん元気になっていくなぁ!」
「えへへ〜♪」
徳さん茂さんに褒められ撫でられ柚葉は上機嫌。
実際拾った当初と比べて良く食べる様になったし、ふっくらはしてきた。
それでもまだまだ細いし、それ以上は太らないし……心配になって鈴華に相談したけど「若いしアクティブだからそんなものよ。心配しすぎ」と窘められた。
「そういや雲母はどうしたん? 雲母からも動物園の話聞きたかったんに」
「今日は学校の友達とアイス食べに行ってる。最近話題の奴。柚葉を連れていきたいんだって」
柚葉からしたら電車や順番待ちで並ぶ練習になる。
それに雲母からお金を貯めておいてね、と言われて駄菓子やベーゴマも買い控えている。
そのどれもが、柚葉の成長には欠かせない要素だ。
「本当に雲母は柚葉を可愛がってくれてる。
柚葉が来るまでは末っ子ポジションだったしね。
小学生達は生意気だし、新しく出来た妹みたいに思ってるのかも」
「柚葉の方がお姉ちゃんだよっ!」
「あぁ、そうだったね。ごめんごめん」
頬を膨らませてプンスカと怒る柚葉。
それでも頭を撫でればゴロゴロと喉を鳴らしながら喜んでいるんだから可愛いものだ。
「……と、ごめん電話」
「おうおう」
「こっちの方は気にせんで良ぇよ」
「ありがと。えっと……お母さん?」
スマホに表示された名前は私の母親。
何かあったのかな? 首を傾げつつ電話に出ると……電話越しでもわかるほどウッキウキの声が聞こえてきた。
『最近暑いけど大丈夫?』
「うん。何しろ自宅から職場まで徒歩0秒だからね。
……で、電話してきた理由は世間話?」
『そうそう! 千紘に紹介したい人が居てね? 有名な会社の社員さんなのよ!』
「またその話? いくら言われてもお見合いとかやらないってば」
『でもマッチョよ? 特に背筋が自慢らしいわ』
「いや、前回の東大卒の人とのお見合いを断ったのはフィジカルに不満があったからとかじゃなくてね……純粋に結婚する気が無いの」
『でも千紘ももうすぐ30でしょ? 『まるふく』だって何時までも続けられる訳じゃないし……』
「何時までもやるよ。お爺ちゃんみたいに」
『またそんな事言って!』
電話越しに眉を八の字にして心配してるだろう母さんの姿が想像できるけど……私は結婚するつもりはない。
前々からそうだったけど、柚葉を見守ると決めてからはその決意はより強固な物となった。
当の柚葉は茂さん徳さんから話を聞いてフンフンと頷いている。
お見合いの解説でもされてるんだろうか。
「とにかくそう言う訳だから……」
「ダメッ!!」
「……⁉︎ 柚葉……?」
「結婚しちゃダメ! ママになっちゃダメ!」
「ちょ……」
血相を変えた柚葉が私に掴み掛かってきた。
茂さんと徳さんが慌てて厨房に来ようとしているのを手で制す。
「とにかくそういう訳だから。じゃあね」
通話を切って柚葉に向き直る。でも当の柚葉は変わらず涙目で「ママになっちゃやだ」とぐずるばかり。
これは私が結婚するのが嫌……というより、“ママ”になってしまうのが嫌なのかな。
柚葉が唯一嫌いな人間が、自分を虐待していた実の両親だ。
恐らくお見合い=結婚=夫婦、パパとママになる……と解釈したんだろう。
「大丈夫、私はまだ誰とも結婚する気か無いから」
「ほんと……?」
「本当。でも世の中のパパとママが全員悪い訳じゃないんだよ?
茂さんと徳さんだって誰かのパパでお爺ちゃんだけど、意地悪しないでしょ?」
「うん……」
「それにオトセさん……駄菓子屋のお婆ちゃんだって誰かのママでお婆ちゃん。
確かに柚葉のパパとママは酷い人だけど、それが全てだと思わないで。
柚葉だっていつかはママになるかも知れないんだから」
「柚葉が、ママに?」
「そう。柚葉はママになったら意地悪になるの?」
「ならない!」
「そうだよね? そういう事」
あやす様に柚葉の頭を撫でると、次第に落ち着いていった。
まさかこんなにも両親という存在に恐怖……いや、敵視? しているなんて。
どうにか説得は出来たけど、こうした思い込みは柚葉の人生において損にしかならない。
今回は身内しか居ない場で発現したからまだ良かったけど、今後色々な場所にいって色々な人と察して……何時、何処で、何がトリガーになるか分からない。
よく注意しないとね。
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