第17話 テレビ、襲来(柚葉が)
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あらすじ
まるふく日和 - 第17話 テレビ、襲来(柚葉が)
本文
『テレビの前の皆さーん、こんにちはー!
リポーターの前原 美香でーす! 今日もほっこりする町の日常、《ほこまち》をお届けしまーす!』
ある日の昼下がり。
うどん屋『まるふく』の昼休み。
柚葉は今日もベーゴマを引っ掴んで駄菓子屋前の決戦場に向かい、店に居るのは私と茂さん徳さん。
特にする事も無いので、のんびりダラダラとテレビを見て過ごしている、けど……
「ねぇ、徳さん茂さん」
「ん?」
「どしたん?」
「あれって……この町だよね?」
「そうだな」
「この町やな」
『この町はベーゴマが大人気と言う事で、早速お邪魔したいと思います!
どうやら子供達はよく駄菓子屋の前で遊んでいるそうです!』
「……あのまま進むとオトセさん所に行くよね?」
「行くなぁ」
「今柚葉達が遊んでる真っ最中だな」
『あ、居ました! ベーゴマで遊んでる子供達、が……』
前原さん固まっちゃった。
何せ小学生に混じって、まるふくと書かれたエプロンを付けた大人の女が遊んでるんだから。
いや、柚葉の見た目だともっと若く見られるかな?
それでも中高生ぐらいの女の子が子供と一緒にベーゴマで遊んでる絵面だ。
『あ、あのー……お話宜しいでしょうか?』
『? はいっ!』
そして一際元気良く挨拶を返したのも柚葉だ。
カメラとしてもあの子を映さざるを得ない。
『えっと、この辺りに住んでる方ですか?』
『椎名 柚葉18歳! 『まるふく』でお世話になってます!』
『18っ⁉︎ あ、いや、名前までは言わなくても……『まるふく』というのはそのエプロンの?』
『はい!』
柚葉の言葉にスタジオにも動揺が走っている。
18歳とは思えない見た目と言動だし、うどん屋のエプロン付けてるし。
きちんと自己紹介しなさいっていう私の教えをしっかり守っているだけに、この空気がいたたまれない。
『来て!』
『あ、ちょ⁉︎』
そして柚葉は前原さんの手を掴んでズンズンと歩き出す。
いや、まさか……でもこの方角は……
「千紘ー! テレビの人来たよー!」
やっぱり……
ガラッと開かれた引き戸の向こうには、満面の笑みの柚葉と困惑、或いは申し訳なさそうな前原さんやテレビクルーの方々。
当然アポなんて取られてない。そもそも柚葉には取材にアポが要る、なんて概念が無い。
ルンルンで案内してくれたから無碍には出来ない……という空気がテレビクルーの方々からガンガン伝わってくる。
そして私自身も、期待の眼差しで見つめてくる柚葉の気持ちを無視出来ない。
「えっと……前原です。ほこまちのコーナーなんですが……取材宜しいですか?」
「どうぞ」
「お邪魔します。あ、お爺さんもいきなりすみません。
それで、えっと……うどん屋さん、ですか?」
「はい。おにぎりや天ぷらも提供しています」
「では、おすすめは……」
「月見うどん! 卵綺麗に割れる様になったんだよ!」
探り探り会話をしていると、ズイッと柚葉が割り込んできた。
そうだよね、練習して卵割りはもう100%成功するようになったものね。
うんうん、自慢したいよね。
「では、月見うどんをお願い出来ますか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
麺を鍋に入れて茹でる。
茹で上がるまで数分は掛かるけど、前原さんは雰囲気やメニューの解説で時間を潰している。
流石プロの技……いや、柚葉が絡みに行ってる。
「千紘はね、凄いんだよ! 優しいしうどんも美味しいし……」
「えーっと……ベーゴマ! ベーゴマを見せて貰えませんか? かっこいいベーゴマなので気になってしまって!」
「……! うん! これね、下の所をヤスリで削っててね……!」
このままでは私のプライベートな事まで口走りかねないと判断したのか、前原さんは柚葉が興味を持ちそうな話題を振ってくれた。
狙い通り柚葉はキラキラした目で自分のベーゴマが如何にカッコイイかを語り出す。
ありがたい。柚葉はSNSの類はやってないから、ネットリテラシーの教育は後回しにしていた。
今後はそこもきちんと教えないと。
「出来たよ。柚葉、トッピングお願いね」
「うん!」
待ってましたと言わんばかりに厨房に入ってくる柚葉。きちんと手洗いも忘れない。
かまぼこやネギなどの基本トッピングを盛り付け、いよいよ最後……柚葉は自信に満ちた表情で卵をコンコンと
容器の角に当ててヒビを入れてから。
「えい!」
親指でパカリと殻を開いて卵をポトンと落とした。
湯気が鼻をくすぐる小麦の香りと舌先に広がる出汁の深みが、柚葉の笑顔の温かさと重なる。
「どうぞ! 熱いので気を付けてくださいっ!」
「ありがとうございます」
丼を受け取った前原さんはチュルリとうどんを一口啜った。
「んー! とっても美味しいです! 特に麺のコシが強いですね。食べ応えがあります!」
その後チラッと柚葉に目を向けて。
「玉子も綺麗に割れていてとっても美味しいです!」
「むふー!」
前原さんに褒められて特大なドヤ顔。それはもう嬉しそうにニッコニコの満面の笑み。
「以上、ベーゴマとうどんがとっても素敵な町でした!
次は貴方の町に訪問するかも?《ほこまち》リポーターの前原 美香でしたー!」
「……はいOKでーす!」
「ふぅ〜……!」
OKの合図が出た瞬間、前原さんはガックリとカウンターに突っ伏した。
そりゃそうだろう。
柚葉の登場と、それによる『まるふく』訪問は完全にイレギュラーな筈だから。
「いやぁ……ホントすいません。アポもなく取材してしまって……」
「いえ、ウチの柚葉が強引に誘ったからですし……気にしないでください」
「そう言って頂けると助かります……あぁ、でも……マネージャーさん、私のスマホを持ってきてください」
マネージャーさんからスマホを受け取った前原さんは何度かタップした後に私に画面を見せてきた。
『さっきの子可愛かったな』
『18歳っぽくない言動だったけどな』
『仕込みじゃね? 店主もやらた若くて美人だったし』
『まるふくだっけ? 行ってみようかな』
『あんな顔してうどん屋やるかよ』
「《ほこまち》の実況スレです。案の定、お二人の登場で盛り上がってまして……しかも全国ネットですので。
もしかしたらお客さんが大量に来るかも……相応に準備をするか、なんだったら臨時休業を視野に入れた方が良いかもしれません」
「あー……まぁ、やるだけやってみますよ。
『まるふく』は地元の人の憩いの場として営業しているので、ネットで話題なったから来る……っていう人には合わないかと。
その内普段通りに収束すると思うので」
「すみません。私も後で個人のアカウントで注意喚起しますので」
そう言って前原さんは更にうどんを一啜り。うどんは完食してくれた。
前原さんやスタッフさんは最後まで申し訳なさそうにしてたな。
……さて、明日に備えてうどんやおにぎりの仕込みをしないと。
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