第19話 両親襲来
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あらすじ
まるふく日和 - 第19話 両親襲来
本文
「はぁ……そのご両親が何の御用で『まるふく』に?」
「娘を連れ帰るのに理由が要るか!?」
「私達はまた柚葉ちゃんと一緒に暮らしたいだけなのよ!」
柚葉の両親は白々しく、そして大仰に悲しんでみせている。
意図は分かる。他のお客さんに、自分が柚葉の親である事。
柚葉が親元を離れているのは本意ではないというアピール。
そして、今更連れ戻しに来た理由も……分かる。
柚葉が意図せずテレビに映って有名になって……金になりそうだからだ。
そんな人達に柚葉を渡す訳にはいかない。
「柚葉はそちらに行かせられません。お引き取りください」
「なんだと!? 俺達は柚葉の親だぞ!」
「柚葉はどう? またママやパパと暮らしたいわよね?」
両親に問われ、ムスッとした顔で柚葉が近づいて来る(けん兄や雲母に殴ってはいけないと言われたのか、襲いかかる気配は無い)。
柚葉私の隣に立つと、キッと両親を睨み付けた。
「やだ! 柚葉に意地悪したもん!」
「意地悪だなんて……親として厳しく接しただけよ!」
「俺達はこんなにお前を愛してたのによぉ……
拗ねて家出したかと思ったら、こんな狭くてボロっちいうどん屋で働かされてるなんてよぉ……!」
くぅ……! とわざとらしく目元を袖で拭う父親。
まぁ、ボロくて小さい店なのはそうなんだけど。
「とにかく、私は柚葉を虐待していた人の元に返す気はありません。
柚葉は自分の意志でここまで来て、自分の意志でここで働いています」
「虐待だと!? ただの躾だろうが! 優しくするだけが愛情だってのかよ!!」
「酷いわ! 柚葉ちゃんは純粋だからこの人に何か吹き込まれたのね……! お願い、可愛い柚葉ちゃんを返して!」
彼らは徹底して自分は娘を奪われた被害者だと振る舞っている。
さっきから中のお客さんや、近くに並んでいるお客さん達がこっちを見ている。
どっちが正しい?
確かにあの子は精神年齢が幼いから、騙しやすい……
でもこのうどん屋では本当に愛されてる様に見える。
そんな囁き声が聞こえてくる。
……あまり柚葉の過去を穿り返したくは無かったけど、ここまで来たら仕方ないか。
「では何故柚葉はあんなにも弱っていたんですか?
痩せ細って、髪も服もボロボロで、頼る人も生きる術も無く彷徨っていたんですか?
あれは躾なんかじゃない。ネグレクトだ。
成人したからと、柚葉は何も教えられないまま放り出された……保護者の、親の責任なんて何一つ果たしてないのに今更どのツラ下げて連れ戻しに来たんですか!」
「な……っ、証拠はあんのかよ!」
「柚葉を病院に連れていった時の診断書が残っています。
そこには栄養失調による衰弱とはっきりと書かれています。
貴方達が普通に、愛を持って育てていたのなら、こんな事になるはずありません」
「そんなの金を積んで偽装すりゃあ……」
「じゃあコレは何!?」
雲母が声を張り上げてスマホを掲げる。
そこに表示されていたのは柚葉の姿。
雲母が初めて柚葉と出会った日に撮影したものだ。
「このゆずちーを見てよ! 痩せてて、顔色悪くて、暗く淀んだ目を!
普通に生きてたら……親から愛されてたらこんな風にならないよ!
それに対して今のゆずちーは? 千紘さんに拾われて、周りから可愛がられて……こんなに元気になったんだよ!?
みんなはそんなゆずちーを親のところに戻すのが本当に正しいって思ってる!?」
雲母の言葉にお客さんがザワつく。
これほどまでに分かりやすい証拠が突き付けられて、お客さんのムードはすっかり私達の味方だ。
「柚葉。柚葉はどうしたい?」
「行かない! 柚葉は千紘と結婚するもん!」
「……え?」
「ん?」
「お?」
柚葉は頬を膨らませて、私にギュッと抱き着きながらそう言った。
柚葉の両親も、お客さんも、柚葉の予期せぬ言葉に戸惑っている。
私だってそうだ。
柚葉のこれは……小さい子特有の○○ちゃんと結婚する! っていうアレ?
いや、柚葉は結婚の概要は知ってる。同性同士では結婚出来ない事も。
それでもはっきりと結婚と口にした。
柚葉は私の事を“特別に好き”だと言ってくれた。
きっとこれは柚葉なりの、私とずっと一緒に居たいという意思表示。
両親に従わず、私の元に留まる為に柚葉なりに考えて結婚という“最強のカード”を切ったんだ。
……だったら、私も覚悟を決めないとね。
「私と柚葉はお互いに想い合っています。
柚葉のパートナーとして、貴方達の元に返す気はありません」
そう言って柚葉を抱き締め返すと、お客さん達から黄色い、感嘆の声が漏れる。
一方で柚葉の両親は……顔を真っ赤にして怒っている。
「ふざけんな! コイツは俺の娘だ! コイツは俺の言う事を聞けば良いんだよ!」
「あぅっ!?」
「ちょっと……!」
父親が柚葉の腕を掴んで引き寄せて。とっさにその手を引き剥がして、柚葉を守る様に抱き締める。
「テメェ!!」
それが気に食わなかったのか、父親は更に真っ赤にして詰め寄ろうとしてきて……
「あぁ?」
「暴力は関心しませんね」
けん兄とかー兄が私達と父親の間に割り込んだ。
かー兄はマッチョだし父親より背が高い。
そしてけん兄は縦にも横にも更に大きい巨漢だ。
二人のコワモテの男性に睨まれて、父親は明らかに怯んでいる。
「まず前提として……椎名 柚葉さんは18歳の成年です。
保護者の同意が無くとも、自分の意志で住む場所を決められます。
柚葉さんが帰らないと言ったのなら、それで終わりなんです。
その上で無理矢理連れ帰ろうと腕を掴んだのは……誘拐・監禁の未遂や脅迫に当たる可能性があります」
「んなっ、脅す気か!?」
「私は客観的事実を述べただけです」
かー兄は父親の怒声に涼しい顔てメガネを直す。
それが気に食わなかったのか、父親はシャツをたくし上げて腹部の刺青を見せつけてきた。
「俺を誰だと思ってんだ! 鎌瀬組だぞ!」
「だったら何だってんだ! 鎌瀬組のボスでも兵隊でも連れてこいやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひぃ……!?」
けん兄の怒号に両親どころか無関係のお客さんもビクリと震える。
けん兄はその腕っぷしで地元の悪ガキ達を纏め上げている。
そして、十数人の規模ではあったけれど……かー兄の頭脳とけん兄の腕っぷしと仲間達で屯する暴走族をこの町から追い出した。
そんな明らかに嘘だと分かる脅しに怯える二人じゃない。
「お巡りさーん、こっちやでー」
「あいつヤクザの関係者だとよ」
「!?」
そしていつの間にか茂さんが警察を呼び、徳さんは一部始終をスマホで撮影していた。
例え嘘であっても、ヤクザの関係者だと自称すれば罪になる。
柚葉を連れて行こうとした事。過去に虐待、ネグレクトしていた事。
写真や診断書、茂さん達の証言もあって柚葉の両親は警察に逮捕され連れていかれた。
「ふぅ……皆さん、お騒がせしました。引き続き食事をお楽しみください」
取り敢えずそう言ってこの騒動を締めようとしたけど……結局騒めきは収まらなかった。
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