第20話 ちょっと大人になった
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
まるふく日和 - 第20話 ちょっと大人になった
本文
あの日をキッカケにまたしばらく『まるふく』はフィーバーした。
柚葉が公衆の面前で同性の私に「結婚する!」と言い放った事。
柚葉がネグレクトされ、私に拾われた……という如何にも人受けしそうな美談。
それでようやく落ち着いてきた客足がまた増えてきた。
柚葉の身柄が一時的に児童相談所に預けられたから、その間は好奇の視線に晒されなかったのは良いのか悪いのか。
柚葉を正式に引き取るための手続きに苦労したけど、鈴華が書類手続きを手伝ってくれたおかげで柚葉は無事に『まるふく』に戻ってこられた。
それは良かったんだけど……その件でまた別の厄介事も増えた。
例えば『本を書いてみませんか?』とか。
例えば『ドラマ化しても良いですか?』とか。
他にも配信者、新聞や雑誌の取材、妙な団体が来たり。
幸いだったのは『まるふく』に専用の電話番号という物が無かった事だ。
何しろお客さんはほぼこの町の人達。そして、この町の人達は最早家族の様なもので、用事がある時はプライベートの番号に連絡が来る。
だから外部の人は直接『まるふく』に来るしかない。
そして、大勢のお客さんの前で無茶な要求をしたり、食い下がったりする人は少ない。
評判第一のメディアの類なら特に。
あぁ、でも……ベーゴマ協会の人達は歓迎ムードだった。
柚葉も大好きなベーゴマの楽しさを広めたい、という思いは有るらしく大層話が盛り上がった。
ベーゴマ協会はお祭りや学校、イベントなどでベーゴマの楽しさや遊び方を教えて回っているそう。
柚葉も指導員として誘われて、時間が合えば赴く気満々だ。
茂さん徳さんも誘われたけど、二人は面倒だからと断っていた。
でも柚葉は二人と行きたがってたから、結構しつこく誘うんだろうなぁ。
あと、なんと恋愛相談もされていた。
高校生の女の子だけど、10歳歳上の女性(丁度私と柚葉と同じ年齢差)と遠距離恋愛しているそうな。
女の子はその人の為にリハビリ療養士を目指していて、毎日電話をするぐらいラブラブだけどやっぱり寂しさや不安はあるらしい。
当の柚葉は「大好きなら大丈夫だよ!」と全く参考にならないアドバイスを贈っていたけど、それでも女の子は気が楽になったそうで結果オーライ?
そんなこんなで忙しい時期を過ごして、夏が過ぎて涼しくなってきた頃。
徐々に客足も減り始めて、ようやく何時もの『まるふく』が戻って来始めた。
けれど、変わった事もある。
結婚したいと言い放ち、自らの言葉で両親と決別し、私からも愛を告げたからか……柚葉は少し大人になった。
具体的には嫉妬する様になった。
茂さん徳さんみたいな男連中なら大丈夫、みたい。
だけど雲母や鈴華みたいな若い女の人と話してると、頬を膨らませて私に抱き着いてくる。
どうやら自分と同じ若い女が私の恋愛対象だと思ってるらしい(間違ってないけど)。
それでも雲母達を嫌ったり敵対したりしないのが柚葉の性格。
恋敵認定していても、雲母の事も鈴華の事も依然として大好きなんだ。
だから私が頭を撫でてあげると、膨らんだほっぺが萎んで笑顔になる。
うーん、可愛い。
公衆の面前で柚葉との愛を伝えてからは、私も柚葉とイチャつく、甘やかすハードルが下がった気がする。
『まるふく』の常連さんの態度が大きく変わらない、忌避されなかったのも助かった。
まぁ、雲母や茂さん徳さんは結構からかってくるけど。
特に雲母から「お似合いだねぇ」とか言われた日には、柚葉は自慢げにふんす!と鼻を鳴らして胸を張るので、それを目当てに言っている節が有る。
……一度柚葉に聞いた事がある。
私は柚葉に欲情してしまう時が有る。それでも一緒にいたい? と。
柚葉は欲情の意味を良く理解していなかったみたいだけど……温度感はなんとなく分かったらしい。
返ってきた答えはシンプル。
どんな千紘でも一緒にいたい、だった。
……大人になった、のかな? それとも子供特有の無邪気さ?
◇◇◇◇◇
「千紘、お仕事行ってくるね!」
「行ってらっしゃい」
そんな少し変わった『まるふく』の日常。
そのちょっとした変化は柚葉自身にも現れていた。
ちょっと大人になった柚葉は『まるふく』の収入だけでは生活出来ない。
私みたいに他の仕事をしないといけないと言う事を理解した。
そんな柚葉が始めたのが『町内のお手伝い』。
八百屋等の配送に、お使いやペットの散歩の代行等々。
自転車に乗って手作りのチラシを各家庭のポストの投函して回った結果、14:00〜17:00という限定的な時間にも関わらず仕事を頼んでくれる。
まぁ、大半は孫にお駄賃をあげる感覚なんだろうけど。
それでも、どんな仕事でも真面目に取り組み、道行く人々に元気に挨拶する柚葉は大層愛される存在となった。
そして働いた後はまた『まるふく』でトッピング作業。
よく体力が尽きない。これが若さか。
最近では少しずつうどん作りも上達してきて、そろそろお客さんに出しても良いかな、と思ったり。
『まるふく』の閉店後。
お風呂や夕食、アニメ鑑賞を終えたら趣味のベーゴマタイム。
お手伝い業を始めてからはめっきり減ったけど、今でも時間を見付けては駄菓子屋の前で子供達とバトっている。
そしてベーゴマ協会と接触し、ベーゴマを広める使命感に目覚めたのか動画撮影も始めた。
ベーゴマの改造のやり方とか、それを実際に回してみたりだとか。
無編集の動画をただ垂れ流しているだけだけど、可愛い声の女の子がベーゴマにガチっているって事で少数ながらコアなファンも付いているらしい。
その内うっかり顔が映ってまたフィーバーしそうだなぁ……
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